・第44話:「残党:3」
・第44話:「残党:3」
「なるほど。……お前も、俺たちとはさほど変わらんのか」
エリックの話を聞き終え、沈黙が訪れた後、それを最初に破ったのはケヴィンの声だった。
「俺たちは、敗北者。必死に逃げて、なんとか生き残っている。
お前も、同じだ。お前は信じていたすべてに裏切られて、帰る場所もなく、俺たちに捕らわれている。
俺たちはみんな、同じどん底にいる」
そのケヴィンの声に、エリックは一言も反論しなかった。
実際、エリックはどん底にいる。
叶うのならば、このまま消えてしまいたいと思うほどに。
「リーダー。コイツ、ドウスル? 」
そんなケヴィンにそうたずねたのは、リザードマンだった。
「ハナシ、キイタ。セイト、ナニオコッタノカ、ワカッタ。モウ、コイツ、ヨウ、ナイ。リーダー、ドウスルツモリダ? 」
「磔刑がいいでしょう」
リザードマンの問いかけに、ケヴィンに代わって、エルフの魔術師が愉快そうな口調で割って入る。
コロコロと、笑うような声だ。
「聖母と教会の象徴である紋章を木で組んで、コイツをそこに釘で打ちつけるんです。
ただ殺したんじゃ、ちっとも面白くありませんもの。
1本1本、丁寧に。
大罪人に、我ら皆で、釘を打ちつけてやろうじゃありませんか。
もちろん、簡単には死なせないよう、私が回復魔法をかけてあげましょう。
全身釘だらけになるまで、我ら皆の気が済むまで、恨みを晴らしましょう。
そして、最後は火をかける。
きっと、さぞやいい声で泣き叫ぶでしょう!
ああ! お前の悲鳴が、早く聞きたいわ!
早く殺してくれと、泣き叫ぶ声が! 」
それは、身の毛もよだつような処刑方法だった。
エリックは魔王軍の残党たちによって磔にされ、釘を打ち込まれ、そして、魔法によって生かされ、ひたすらに苦痛を味あわされる。
そして、最後には炎で、生きたまま焼かれるのだ。
しかし、エリックは、少しも怖いとは感じなかった。
「そうしたいのなら、好きにすればいい」
ただそう呟くように言って、自嘲するような笑みを浮かべる。
そのエリックの様子に、魔術師はフードの下で、不愉快そうに表情を歪めた。
彼女としては、エリックが、恐ろしい処刑方法を聞いて、怖れ、怯え、必死に命乞いをすることを期待していたからだ。
だが、エリックは、無気力だった。
すべてに、信じていたすべてに裏切られ。
自分の復讐を果たす機会も可能性もなく、もはやエリックにとっては、この世界に存在し続けることが苦痛だった。
「やるなら、スパッと、やっちゃおうよ」
黙り込みながら笑みを浮かべているエリックの顔を気色悪そうに見つめていたセリスが、魔術師の主張した処刑方法に反対する。
もちろん、エリックへの同情からではない。
「聞いている限りだと、コイツの中には、魔王様の魂が封じ込められているんでしょう?
それに、コイツが死ねば、魔王様が復活してくださるかもと。
そういう魔術をかけられているんだって。
正直、苦しめたいのはやまやまだけど、コイツの中にいる魔王様に申し訳ないよ、それは。
さっさと始末して、魔王様に復活していただこうよ」
「むぅ……。それは、確かに、そうかもしれない」
セリスの主張に、魔術師はうなりながらうなずいた。
「シカシ」
だが、そこで、リザードマンが異論を唱える。
「ホントウニ、コイツノナカニ、マオウサマ、イラッシャルノカ?
ホントウニ、コイツヲコロセバ、マオウサマ、フッカツサレルノカ?
マズハ、タシカメル。
ソシテ、ヨク、カンガエル。
コイツ、コロスノ、タシカメテカラデイイ」
エリックを、殺す。
その点については満場一致である様子だったが、どんなふうにそれを実施するかでもめている。
エリックは、無関心だった。
どうせ自分の意見など聞いてはくれないのだし、絶望しきったエリックの心は、生きることへの興味を失っている。
だから、自分の死についても、関心がない。
「……俺は、こいつを、うまく使えないかと思っている」
他の3人から注目されていたケヴィンは、自嘲するような笑みを浮かべたまま、死んだような暗い瞳でうなだれているエリックの表情を見つめ、そう言った。
その結論に、他の3人は色めきたt。
「ケヴィン! どうして? こんな奴、生かしておく価値なんてない! 」
「そうだよ、兄さん! こいつはみんなの仇なんだ! 」
「ケヴィン、タシカニワシ、タシカメル、ダイジ、イッタ。デモ、コイツ、イカスヒツヨウマデ、ナイ! 」
口々に抗議する3人を、ケヴィンはそのたくましい腕をかかげて制止し、それから、真剣な表情で言った。
「魔王様に復活していただけるのなら、そうしたい。
コイツに殺された同胞の仇も、討ちたい。
だが、俺たちはみな、どん底だ。
どん詰まり、これ以上打つ手もないくらい追い詰められている。
だから、戦力は、少しでも多く欲しい。
コイツは、勇者は、もう、勇者ではない。
聖母に裏切られ、捨てられたからだ。説得すれば、使えるかもしれない」
「だからって、兄さん! 」
セリスがケヴィンの言葉に割って入るが、ケヴィンはセリスに笑みを向け、真っすぐに見つめて言う。
「考えてみてくれ。これは、チャンスなんだ。
うまくすれば、魔王様だけでなく、勇者の力までもが、我々の手に入る。
これ以上はない、切り札になるだろう」
そのケヴィンの言葉に面食らったようになり、3人は互いの顔を見合わせた。
お疲れ様です。熊吉です。
ようやく登場させることができました、本作のメインヒロイン・セリスにつきまして、イラストを描かせていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/95756059
にて、ご覧いただけます。
熊吉の画力は、うまい人の[ラフ」程度ではあるのですが、メインヒロインくらいはイラスト描いておきたいなと思ったので、頑張ってみました。
本作はあらすじにあります通り、カクヨム様にて、コンテストに参加させていただいております。
ですので、ぜひ、カクヨム様の方で、評価・ブックマーク等、していただけますとありがたいです。
特に、評価をしていただけますと、どうにもランキングに影響が高いようで、星1つ評価でもかまいませんので、熊吉を応援してもいいよという読者様がいらっしゃいましたら、ぜひ、お願いいたします。
今後も、熊吉なりに頑張らせていただきます。
どうぞ、よろしくお願い申し上げます。