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エピローグ3/5:「その後の世界:2」

エピローグ3/5:「その後の世界:2」


 聖母との最後の戦いがあってから、すでに、30年が経過していた。


 聖母との激しい戦いのことや、その後に起こったことを、セリスとクラリッサは懐かしみ、時に悲しそうに、語り合う。


 あれから。

 それまで世界を支配して来た聖母のいなくなった世界では、当然、新しい体制が始まっていた。


 これまで長い間敵対関係であり続けてきた人間と、魔物と亜人種たちは、聖母がいなくなったことでようやく、和解を果たすことができた。

 魔物と亜人種たちの半数は、過酷だが長く暮らして来た魔大陸へと戻り、そこで故郷の再建に励み、残りの半数はサエウム・テラへと移り住んで、人間との共存を模索している。


 これまでの戦争が聖母の仕組んでいたことだと知った人間たちは、簡単には魔物や亜人種たちへの恐怖や憎悪を捨て去ることはできなかったが、それでも移住して来た者たちを受け入れ、その暮らしが十分に成り立つような土地を提供した。

 時に対立しつつも、多種族の交流は続き、その和解は確固としたものへと成長しつつある。

 魔物と亜人種たちが入植して建設した集落や村々からは安定して様々な産物が手に入るようになり始め、現在では、人間たちとの経済的な交流も活発になってきていた。


 セリスとエミーが暮らしているこの村が、その実例だ。

 魔王軍の残党の1つを率いていたケヴィンが初代の村長となって起こしたこの村は、農耕を主軸に、近くに広がる豊かな森の恵みによって成り立っている村で、麦を特産としているほか、30年かけて整備した森から豊富にとれるメープルシロップで有名だった。


 そうして人間と魔物と亜人種と、多種族での融和が進む一方で、人間社会は分裂していた。

 反乱軍に加わっていた諸侯の中で、特に有力な諸侯がそれぞれの派閥を作り、王国を名乗って独立したのだ。


 自分を滅ぼせば、人間社会はきっと分裂する。

 セリスもクラリッサも聖母がそう言っていたことは知らなかったが、聖母の言う通りとなっていた。


 聖母のいなくなった世界では、それまで続いていた、人間VS魔物と亜人種という構図ではなく、人間同士での対立が生まれつつある。

 すでに、小規模な争いが、各地でみられるようになりつつあった。


 もちろん、そういった対立を解消するための取り組みも行われている。

 たとえば、聖母との戦いで重要な役割を果たしただけではなく、魔術師たちの最高学府でもある魔法学院は、その影響力を行使して人間が打ち立てた各国の調停に奔走ほんそうし、成果もあげている。


 クラリッサが苦労しているのは、まさに、そういった点だった。


 聖母との戦いの後、5年ほど魔法学院の学長を続けたレナータが引退した後、1代の間を置いて魔法学院の学長へと就任したクラリッサは、魔法研究よりもむしろ、諸侯の間を調停する政治工作に奔走ほんそうしている。

 その取り組みはレナータが始め、その次の魔法学院の学長も引き継ぎ、クラリッサも継続していることだが、問題は解決するたびに新たに生まれ続け、平和を維持するための不断の努力が強いられている。


 クラリッサたちの努力は、今のところ、きちんと結果を残している。

 そのおかげで、対立と、小さな衝突はあれども、どうにか人類社会は平和と呼べる状態を保っていた。

 だが、少しでもそれを維持する努力を怠り、そうしようという意思を失えば、とたんに大きな争いに発展することは疑いなかった。


 順風満帆とはいかない世界。

 30年も経ってしまうと、当然、かつての仲間で、他界する者も出てくる。


 それは、たとえば、騎士・ガルヴィンと、先々代の魔法学院の学長、レナータだ。


 ガルヴィンは聖母との戦いの後、主を失い、魔法学院の直轄地として管理されることとなったデューク伯爵の領地で、それまで通り騎士として人々を守って暮らした。

 同時に、後身の育成にも励み、多くの騎士を一人前に育て上げた。


 そんなガルヴィンは、数年前、老衰した。

 家族や友人に看取られながらの大往生だった。


 ガルヴィンを失ったことは大きな損失ではあったが、今も、デューク伯爵の領地は治安が良好に保たれ、そこに生活している人々は豊かに、安心して暮らしている。

 ガルヴィンが育てた後身の騎士たちがきちんと治安を守り、統治を行う魔法学院が巧みに中立を保って、諸侯の争いに関わらないようにしているからだ。


 レナータ学長は、聖母との戦いの後も5年、魔法学院の学長であり続けたが、その後老齢を理由に引退した。


 老齢による引退とは言うが、実際のところは、聖母との戦いで無理を重ねたことがたたり、魔力のほとんどを失って、魔術師としての力を発揮できなくなってしまったことが原因だった。

 引退後も10年ほどはアドバイザーとして魔法学院の運営に意見を提供し、また、そこで学ぶ魔術師たちに教鞭きょうべんもとったりしたが、その後さらに数年して亡くなった。


 聖母との戦いでレナータが制御した強大な魔力は、いくら才能豊かで経験もある魔術師とはいっても、人の身体には大きすぎる負担だった。

 そのダメージは確実にレナータの中に残り続け、彼女の寿命を少なくない年数、縮めてしまったのだ。


 それでも、あの戦いで生き残った大勢が、今も生き続けている。


 すべてが理想通りなわけではない。

 それぞれに悩みを抱え、困難に直面しながら生きている。


 それでも、この世界には、希望があった。


 聖母による支配。

 偽りによって塗り固められ、多くの流血と犠牲によって支えられてきた毎日。


 その日々はようやく終わりを迎え、そして、人々はそんな犠牲を必要としない、新しい世界を作ろうと努力し続けている。


 それは確かな希望だった。


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