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エピローグ1/5:「ちっちゃなエミー」

エピローグ1/5:「ちっちゃなエミー」


 少女が、泣いている。

 まだ幼さの色濃く残る、小さな少女だ。


 淡いクリーム色の金髪に、碧眼。

 長く、先端の尖った耳。

 身に着けているのは麻布の服で、革製の小さなかわいらしいポーチを肩ひもで肩から吊っている。


 エルフ族の少女は、いったい何があったのが、ぐすん、ぐすん、と泣きながら、トボトボとした足取りで、草花におおわれた緩やかな丘に作られた細い小道を歩いていく。


 その先にあるのは、小さな家だ。

 木と石を組み合わせて作った、内部には2,3部屋しかないだろうと思われるような家で、わらぶきの屋根からは石造りの煙突がちょこんと突きだすようになっている。


 その家の周囲には、農機具などをしまっておくための納屋と、2頭の馬がつながれている馬小屋、水脈まで掘りぬかれた深井戸と、小さな家庭菜園がある。

 そして敷地全体を、細い枝木を組み合わせて作った簡素な柵がぐるりと囲み、その内の2か所に出入り口が作られている。


 その小さな家の家庭菜園で、セリスが働いていた。

 少女が身に着けているのと同じような麻布で作られた質素なもので、エルフ族に好まれる若草色に染め上げられている。


 しゃがんで、額に汗を浮かべながら、トマトの苗の周囲に生えてきた雑草を引き抜いていたセリスだったが、ぴくり、とのその耳をわずかに動かしてから立ち上がった。

 その視線が、こちらに向かって歩いてくる少女にすぐに向けられたことから、セリスは少女がすすり泣きながら歩いてきているのに気がついて立ち上がった様子だった。


 セリスは少女の姿を確認すると、唇を引き結び、少しだけ悲しそうに視線を伏せる。

 だが、すぐにセリスは、穏やかな笑顔を浮かべていた。


「あら、どうしたのかしら? エミー。


 ほら、お母さんが涙をふいてあげるから、泣き止みなさい? 」


 そしてセリスは家の正面にある門まで行って、すすり泣いていた少女、エミーを出迎えると、しゃがみこみ、ふところから清潔なハンカチを取り出すと、そう優しい声で言いながら、穏やかに微笑んでエミーの涙をぬぐってやった。


「うん……、おかあさん、あのね」


 エミーはまだ鼻をすすっていたが、セリスのおかげでひとまず、涙だけは止まった様子だった。


「また、みんながいじわるしたの。


 エミーは、みんなと違うからって」


「そんなことはないわ、エミー。


 あなたは、お母さんと同じ、エルフ。

 この村の他の人たちとも同じ」


「んーん、エミー、みんなとちがうよ」


 エミーをなぐさめ、はげますつもりでセリスが言った言葉を、エミーは少しだけ声を強くして否定した。


「エミー、ほかのコよりも、チビだもの。

 がんばって、おかあさんのいうとおり、なんでもすききらいせずにたべてるのに、うしさんのミルクものんでいるのに、ぜんぜん、せがのびないし、ちっちゃなまま。


 だからみんな、ちびって、ばかにするの。


 それに……」


 そこまで言うころには、エミーはまた、涙ぐみ始めてしまっている。


「エミーのおうち、おとうさん、いないもん……」


その言葉に、セリスは少し、苦しそうに、寂しそうに、眉をひそめ、視線を落とす。

 だが、すぐに視線を戻したセリスは、そっと優しく、包み込むようにエミーのことを抱きしめていた。


「エミー、お母さん、いつも言っているでしょ? 」


 そしてセリスは、自身の髪と同じ髪色を持つエミーの髪を手ですくようになでてやりながら、穏やかな優しい声で言う。


「エミーにお父さんは、いないわけじゃない。

 ただ、ずっとずっと、遠くにいるというだけ。


 どんなに離れていても、お父さんもきっと、エミーのことを大切に思ってくれているわ」


「うん……。

 そうだと、いいなぁ……」


 セリスの胸に顔をうずめながら、エミーはくぐもった鼻声で、呟くようにそう言った。


 その時、2人の頭上を、翼を広げた大きな生物が横切って行った。


 草花におおわれた緑の地面の上を、その大きな生物、竜が作り出した影が、高速でよぎっていく。

 そしてその竜が通り過ぎた後には風が巻き起こり、さわさわと、草花を揺らし、セリスとエミーの髪を揺らした。


 自分たちの頭上を、竜が通り過ぎて行った。

 そのことに気がつくと、エミーはバッ、と顔をあげ、空を見上げる。


 その頬には、ついさっきまで泣いていた跡が残り、かすかに赤くはれている。

 だが、今はそのはれ以上に、エミーの頬は上気して赤くなっている。


 興奮しているのだ。


「あっ!


 ねぇ、おかあさん、ドラゴンのゆうびんやさん! 」


 自分たちの頭上でゆっくりと旋回しながら、少しずつ高度を下げて来る竜の姿を見上げているエミーの表情は、ひだまりで咲き誇る花々のように輝いている。


「ええ。


 そうみたいね……」


 空を指さしながらぴょんぴょん飛び跳ね、喜びをあらわにしているエミーの姿に安心し、自身も空を見上げたセリスは、手でひさしを作って空を舞う竜の姿を見上げ、その動きに合わせてゆっくりと首を動かして竜の行方を追う。


「こっちに、向かってきている……? 」


 だが、すぐにセリスは、そう呟いて不思議そう軽く首をかしげる。


 どう見ても、その、鞍の両脇に郵便物や届け物を詰め込んだ革袋を吊り下げている竜は、普段降りていく村の方ではなくこちらへ、セリスとエミーの方へと向かってきている様子だった。


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