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・第332話:「聖母との戦い:2」

・第332話:「聖母との戦い:2」


 スライムのようにぶよぶよとした半透明の身体をうねらせ、触手を生み出して戦う聖母の姿。

 それと似た存在を、エリックは知っている気がした。


 かつて戦った、聖騎士たち。

 聖母の[祝福]によって変異し、意思のないバケモノとなった聖騎士たちも、触手をうごめかし、破壊をもたらした。


 その聖騎士たちには、核となる部分があった。

 心臓だ。


 あの聖騎士たちと、今の聖母が似た存在であるのならば、きっと、聖騎士たちと同じように、聖母にも核となる心臓があるはずだった。


「見つけた! 」


 そしてエリックは、聖母の巨体の中に、その心臓を見つけていた。


 聖母の心臓は、その巨体に合わせて、巨大化しているようだった。

 その中央、もっとも守りの固い奥深くで、その心臓は確かに鼓動しているように見える。


 あの心臓を、破壊することができれば。

 きっと、聖母を滅ぼすことができるはずだった。


「クラリッサ!

 聖母の身体の中央に、心臓がある!


 聖騎士たちは、核となっていた心臓を破壊すれば、倒すことができた。

 そして聖騎士たちは、聖母が作った存在だった。


 きっと、聖母も心臓を壊せば、倒せるはずだ! 」


『確かに、そうかも……!

 けれど、エリック、どうやって攻撃するつもり!? 』


「魔法と、竜たちの攻撃を、一点に集中してくれ!

 そうして心臓に近づける[道]ができれば、あとは!


 オレが、そこに飛び込んで行って、仕留める! 」


『了解!

 なんとかやってみるよ、エリック! 』


 クラリッサを中継して、エリックの指示は反乱軍に伝えられた。


 そして、ほどなくして。

 火竜たちと、残った魔力を振り絞った魔術師たちの攻撃が、再び聖母へと殺到した。


 聖母の抵抗は、激しい。

 確実にダメージを受けているはずなのにその身体に数百本もの触手を生み出し、自身を攻撃する火竜と魔術師たちに反撃してくる。


 その反撃のせいで、聖母の身体の一点に攻撃力を集中することは難しかった。

 触手に妨害されて攻撃を狂わされ、さえぎられるだけではなく、確実に攻撃に巻き込まれて被害が増えていく。


『このっ……!


 いい加減、諦めて、滅ぼされなさいよ! 』


 いら立っているような、そして苦しそうなクラリッサの声。

 彼女も魔力を振り絞って戦っているのに違いなかった。


(もう、イチか、バチか……)


 無理やりにでも、自分が突入するしかないのではないか。

 エリックが真剣にそう考え始めた時、突然、レナータの声がエリックの意識に届いた。


『デューク伯爵の、かたきッ! 』


 そしてその次の瞬間、強烈な閃光が地上で生まれ、膨れあがり、光の槍となって、聖母へと突き刺さった。


 エリックが視線を落とすと、その光の槍の出所には、巨大な魔法陣が構築されていた。

 それは元々は、聖堂を守る魔法防壁を破壊するために使われた魔法陣だったが、地上に残っていたレナータや他の魔術師たちの手によって、聖母を攻撃するための魔法陣へと作り変えられたようだった。


『エリック……、頼み……ます……っ!


 わたくしにできる……のは……、これで、精一杯、の、ようです……』


 魔法陣の中央に立ち、聖母を攻撃する光の槍を制御していたらしいレナータからそんな、息も絶え絶えといった様子の声が届くのと同時に、崩れ落ちるようにレナータは倒れ伏した。


 どうやら、魔力を使い果たしてしまったらしい。

 それは、魔法陣を起動するのを手伝った他の魔術師たちも同様のようで、魔法陣の周囲に集まっていた魔術師たちはその場で膝を折ったり、手を突くこともできずにバタリ、と倒れ伏す姿が見えた。


 それと同時に、魔法で作られた光の槍も消滅する。


 だが、その、おそらくは命を賭したレナータたちの攻撃は、聖母の身体を奥深くまで貫き、聖母の心臓へと至る[道]を作り出していた。


「サウラ! 」


(承知! )


 エリックの意志に答え、サウラが力強く翼を羽ばたかせる。


 空中を高速で飛翔しながら、エリックは聖剣を両手でしっかりと握ってかまえ、その切っ先を深く、聖母の心臓へと突き立てることができるようにする。

 そしてその姿勢のまま、エリックは光の槍が生み出した[道]の中へと、躊躇ためらうことなく突っ込んで行った。


 光の槍は、エリックが翼を広げた状態でも十分に通過できるような大きさの穴を聖母の身体に開けていた。


 だが、その穴は、急速に狭まりつつある。

 聖母の身体は自らの致命的な弱点へと至るその道を塞ぐべく、必死にその穴を修復しようとしているようだった。


 エリックが広げた翼の先端が、迫ってくる聖母の身体に触れる。

 自身の命が吸い取られる不愉快な感覚が広がり、エリックの全身から力が抜き取られようとし、意識がかすんだ。


 だが、エリックは止まらない。


 きっと、エリックがこの世界にただ1人だけであれば、耐えられなかっただろう。

 一瞬でエリックはその命を聖母に吸いつくされ、この世界から消滅させられ、聖母の肉体の一部にされてしまっただろう。


 だが、今のエリックは、1人ではなかった。


 エリック内側には、魔王・サウラの魂がある。

 エリックの周囲には、エリックと望みを同じくし、必死に戦っている仲間たちがいる。


 そして、セリスの笑顔が、エリックの脳裏に浮かんでくる。

 セリスと共に旅をし、戦い続けてきた間、エリックが目にしてきた彼女の表情のほとんどは憮然ぶぜんとしたものだったが、少しずつ、笑顔が増えて来て。


 人間と、エルフ。

 そんな種族の違いなど、関係ないと思えるほどになった。


 そのセリスの、決して、曇らせて欲しくないと、そうエリックが願う笑顔。


 その、何人もの力に支えられて。

 突き進んだエリックは、その聖剣を、聖母の心臓へと突き立てていた。


(……泣かせてしまう、かな? )


 目の前で聖母の心臓が停止し、鮮血を吹き出しながら壊死えししていく様を見つめながら、ちらり、とそんなことを考える。


 だが、未練はあっても、決して、後悔はなかった。


 エリックは、自身の復讐ふくしゅうを果たしただけではない。

 聖母を滅ぼすことで、この世界を救い、そして、この世界に生きるすべての人々に、未来をもたらしたのだ。


 エリックは、本当の意味で、この世界を救った。


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