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・第324話:「聖母の真実:2」

・第324話:「聖母の真実:2」


 かつてこの世界に存在した、神々。

 その下で暮らしていた、魔物や亜人種たち。


 それが、人間を[家畜]として、[飼って]いた。


「デタラメを言うな! 」


 その聖母の言葉を、エリックは即座に否定した。


 今現在、この世界でもっとも数が多く、繫栄している種族は、間違いなく人間だ。

 なぜなら、人間は聖母の支配の下で魔物や亜人種たちをサエウム・テラから駆逐し、不毛の大地が続く魔大陸へと追いやり、そして、聖母が作り出した[戦争という仕組み]の中で、魔物や亜人種たちを厳しく弾圧して来たからだ。


 魔物や亜人種たちは今も、大勢が生きている。

 きっと、あちこちにまだ隠れ住んでいることだろう。


 だが、人間に比べれば、彼らの数は圧倒的に少数だ。

 この世界を支配している多数派は、間違いなく人間なのだ。


 その人間が、かつては、魔物や亜人種たちの[家畜]だった。

 セリスたちと触れ合い、心を通わせ、信頼するまでになったエリックには、信じられるような話ではなかった。


「いいえ、エリック。

 そして、サウラよ。


 これこそが、真実なのです」


 だが、聖母はその主張を曲げない。


「そもそも、我ら人間は、この世界の創造主たる神々によって、[資源]として生み出されました。


 農耕を行い、牧畜を行い、採鉱を行い、奉仕を行い、神々と、その支配下にある魔物や亜人種たちが必要とする様々な資源と労働を提供するための働き手として、人間は相応の知性と身体能力、そして神々や魔物や亜人種たちを上回る繁殖力を持って生み出されました。


 エリックに、サウラよ。

 なぜ、人間の平均寿命が、50年ほどしかないか知っていますか?


 それは、元々人間が、家畜として生み出されたからなのです。

 効率よく繁殖させ、必要な数を増やし、そして適度に[消費]しやすいように、寿命を短く作ったのです。


 そして、数の増えた人間が反抗して来ても容易に対処できるよう、人間には必要以上の力も知恵も与えませんでした。

 多くの魔物や亜人種たちが人間の身体能力や知恵を上回るものを持ち、魔力に関する素養も優れているのは、元々、我ら人間が家畜として生み出されたからなのです」


「黙れ!


 今すぐ、その仮面を砕いて、お前の首をねてやる! 」


 エリックは叫んだが、聖母は、彼女が言うところの真実を語り続ける。


「そうして、ただ、労働力として人間を生み出し、使役するだけなら、まだ良かったのです。


 しかしながら、神々も、魔物も亜人種たちも、人間をただ、労働力として使うだけでは済まさなかった。


 彼らは、人間を、食べていたのです」


「ウソを、つくなっ! 」


「いいえ、これは、本当のことです」


 エリックの言葉を、聖母は即座に否定すると、魔法防壁を打ち破ろうとエリックが押し込んでいる聖剣に向かって、自身の手をのばした。


「エリックに、サウラ。

 お前たちには、血から記憶を読み取る力を、備えさせていましたね?


 今からお前たちに、わたくしの[記憶]を、お見せいたしましょう」


 そして聖母はそう言うなり、自ら、聖剣の刃を手でつかんで見せた。


 聖母の手の平の皮膚が、すっと、裂ける。

 そしてそこからにじんだのは、人間と同じ、赤い血。


 聖母のその突然の行動にエリックが驚いて呆然としている中、聖剣を聖母から流れ出た血がしたたり落ちていく。

 そしてその血はやがて、エリックの手に触れる。


 その瞬間、エリックの脳裏で、聖母の記憶が弾けた。


 聖母が持つ、数百年の、いや、一千年以上もの記憶。


 そしてその出発点には、聖母が語る[真実]を証明する記憶が、確かに存在していた。


 その記憶の中で、人間たちは首輪をはめられ、粗末な衣服を着せられ、そして、労働に従事させられている。

 美しく着飾った魔物や亜人種たちの従者として、あるいは、農地を耕し、牧畜をし、地下深くの坑道で、過酷な労働を強いられている。


 そんな人間たちの姿を、魔物や亜人種たちは監視している。

 その手にむちを持った監視者たちの視線は、自分たちよりも劣っている存在を見る侮蔑ぶべつ的なものだ。


 人間と、魔物と亜人種たち。

 その異なる種族の間には、明らかに生活水準の乖離かいりがあった。


 人間には一切の自由がなく、生きるのに最低限の衣食住が与えられているだけなのに対し、魔物や亜人種たちは人間が生み出した資源を好きなように消費し、自由に、豊かに、思うままに暮らしている。


 そしてその魔物や亜人種たちの頂点にいる存在、神。

 様々な姿をし、それぞれ強大な力を誇る神々は、定期的に人間たちを[生贄いけにえ]として消費していた。


 それは、人間を食肉として、食らうというわけではない。

 神々は自身の寿命を延ばすために、人間の命を[吸って]いたのだ。


 人間を生贄いけにえとして消費することで、神々は永遠の命と若さを保ち、そして、自身が神としてあり続けるための、強大な力を保っていたのだ。


わたくしには、かつて、思い人がいました」


 愕然がくぜんとしているエリックの脳裏に、聖母の声が響く。

 同時に、エリックの脳裏で嵐のように吹き荒れている聖母の記憶の中に、1人の若い男性の姿がクローズアップされる。


「彼は、勇敢で、知的で、そのために、神々の従者として仕えていました。

 そしてわたくしは、ただの1人の人間でしかなかったわたくしは、そんな彼に恋をしたのです。


 年頃の乙女であれば誰でもそうするように、ごく当たり前に、わたくしは彼を愛し、彼もまた、わたくしを愛してくれたのです。


 しかし、彼の才能は、神々の目に留まりました。


 すぐれた能力を持った人間ほど、生贄いけにえとして好まれたからです。

 そして彼は……、神々の[糧かて]とされました」


 その時に感じた、聖母の絶望と、怒りと、憎しみの感情。

 それが直接的に、エリックの心にも伝えられてくる。


「だからわたくしは、誓ったのです。


 神々を滅ぼし、そして、神々の恩恵を一身に受け、贅沢をむさぼり、人間を家畜としていやしみ、虐げた魔物と亜人種たちに、復讐ふくしゅうをすると。


 エリック。

 そして、サウラ。


 お前たちが、わたくし復讐ふくしゅうしようと決意したのと、まったく同じように」


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