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・第320話:「秘密の部屋」

・第320話:「秘密の部屋」


 リディアや聖女たちが閉じ込められていたガラス瓶が並ぶ部屋の、そのさらに奥。

 リディアには立ち入りが許されていなかったという、秘密の部屋。


 その場所に、エリックたちは以前よりも隊列の間隔を開いて向かって行った。


 ここから先には、きっと、聖母の罠が待ち受けているはずだ。

 そう考え、聖母の罠を警戒したエリックたちは、聖母の罠が発動されても一撃で多くの犠牲が生じることのないよう、被害が広がらないように分散したのだ。


 先頭を進む、ガルヴィン、ラガルト、ケヴィンの3人は、露骨ろこつな言い方をしてしまうと、生贄いけにえのようなものだった。

 聖母の罠の餌食えじきになるとしたら、この3人が真っ先にその犠牲となり、その犠牲と引きかえにして、エリックたちの安全は確保されることとなるからだ。


聖堂の地下空間は、広い。

 聖母が長年の支配の間、自身のテリトリーであるその地下空間を度々拡張してきたためか、ガラス瓶のある部屋からその奥にも、エリックたちがこれまでに通り過ぎてきたのと同じかそれ以上の奥行きがあるようだった。


「ウゲァッ!? 」


 唐突に、先を進んでいたラガルトが悲鳴をあげたのは、エリックたちがもういくつ目になるのか分からない、聖母の実験施設を越えた時のことだった。


 それは、おそらくは聖母が聖騎士たちをバケモノに作り変えたり、ヘルマンのような怪物を生み出すために使ったりしていたのであろう施設だ。

 リディアを閉じ込めていたのよりもさらに大きな、不気味な液体に満たされた巨大なガラス瓶のある部屋や、聖母が実験に使ったのか、あるいは研究の資料にしていたのか、様々な種族が標本として置かれているおぞましい部屋、薬品の調合に使われていたらしい製造設備のある部屋などがあったほか、かつてはなにかに使われていたらしいものの、いらなくなったのか設備を撤去した後、そのまま放置されているような部屋もあった。


 身の毛もよだつような光景に戦慄せんりつしながら進んでいたエリックたちは、そのラガルトの悲鳴に驚き、そして咄嗟とっさに身構えていた。


 いよいよ、聖母の罠に遭遇したのか。

 そう思い、そして、その罠の次には当然、聖母からの攻撃があるだろうと予想したからだ。


 しかし、前方を注視すると、どうやらラガルトは無事であるようだった。


 悲鳴をあげたのは、単純に、驚いたからであるらしい。

 視界を確保するための魔法の光の下で、ラガルトは尻もちをついてしまっていた。


 ラガルトは、勇敢な戦士だ。

 いつでもその戦闘力は頼りになっている。


 そんな彼が驚いたのは、不意に、これまでに通過して来たどんな部屋よりも広い空間に出てしまったということに加えて、そこに、無数の石像が並べられていたからだった。


 暗闇の中に、突然、いくつもの石像の顔があらわれて。

 ラガルトは、幽霊が出た、と驚いたようだった。


「まったく、ラガルト殿、脅かさんでください!

 ただの、石像ではありませんか! 」


「シ、シカタナイデハナイカ、ガルヴィンドノ!


 ワシ、オバケトカ、ユウレイッテ、ムカシカラ、ニガテデ……」


「なにを、情けないことを!

 ラガルト殿の大斧ならば、こんな石像、一刀両断できましょうに! 」


「ソレハ、ソウ……。


 ケド、オバケ、ユウレイ、ワシノオノ、ツウジナイ……」


 前方で交わされるガルヴィンとラガルトの会話が、地下の広い空間に出たためか、少し反響しながら聞こえてくる。

 その、少し間の抜けた会話にエリックたちは苦笑した後、ひとまずは先頭を進んでいた3人に合流するために前に進んだ。


 そこは、地下にあるのが信じられないほど広い空間だった。

 しかしその雰囲気には、見覚えがある。


 地上で通過してきた、聖母のための謁見えっけんの間。

 それに、構造や雰囲気がよく似ている。


 そして、ラガルトが幽霊と見間違えた石像たちは、地上でも見たものだった。


 聖母の謁見の間に飾られていた、歴代の勇者たちの彫像。

 それと同じもの、いや、よりリアルな質感のものが、その地下の謁見えっけんの間に並べられていた。


 地下の謁見えっけんの間は、地上の謁見えっけんの間よりも大きかった。

 幅も広く、天井も高く、左右に並べられた勇者の彫像の奥にも、いくつものアーチ構造で支えられた空間が続いているようだった。


 そしてその中央には、玉座が用意されている。

 地上にあったものと同じか、それ以上に壮麗で豪華な作りの玉座だった。


 魔法の光によってその玉座が照らし出されると、エリックたちはみな、一斉に表情を険しくし、それぞれの武器をかまえていた。


 その玉座には、聖母が、泰然と腰かけていたからだ。


 聖母の姿は、みなが知っている。


 直接面識のあるエリックたちはもちろん、元魔王軍の面々でさえ、聖母は魔法によって空中にその姿をあらわしたこともあったから、知っている。


「愚かな者たちよ。


 よくも、わたくしの聖なる地を、土足で踏みにじってくれましたね? 」


 エリックたちを前にしても聖母は足を組んだまま、余裕の態度を崩さない。

 だが、聖都を攻略し、聖母を倒すまでここまでやって来たエリックたちのことを、少なからず不快には思っているようだった。


 そんな聖母に向かって、エリックは進み出ると、聖剣の切っ先を向けていた。


「聖母!


 お前を滅ぼして、この世界を解放する! 」


 そしてエリックは、言葉少なに、だが鋭く強く、そう宣言する。


 聖母に向かって、言いたいことはたくさんある。

 たくさんあり過ぎて、とても、言葉になどしてはいられない。


 そしてなにより、エリックは、聖母という存在を1分1秒でも早く、この世界から抹殺してやりたかった。


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