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・第316話:「突入:2」

・第316話:「突入:2」


 エリックの合図で、集まった魔術師たちが一斉に魔法の杖をかまえ、魔法の呪文を唱え始める。


 人間の魔術師だけではなく、魔法が得意な魔物や、エルフなどの亜人種の魔術師たち。

 いくつもの種族の魔術師たちが協力して、聖母を倒すために、大きな力を生み出していく。


 唱えられる魔法の呪文は、様々だ。

 魔術師それぞれに役割があり、異なる呪文を唱えているというだけではなく、いくつもの種族の魔術師が参加しているために、魔法に使われる言語や発音のしかたに違いがあるようだった。


 魔術師たちは魔力を集め、練り上げ、実際の効力を持った力として具現化していく。


 魔法陣が、輝きを帯び始める。

 そしてその輝きは空中へと浮かび上がり、徐々に、グルグルと回転し始める。


 その回転を制御しているのは、レナータであるようだった。

 彼女は大勢の魔術師たちの力を制御し、魔法陣がその効果を最大限に発揮できるように、慎重に、着実に、魔法を操り続ける。


 相当な集中を必要とする作業なのだろう。

 レナータの表情は険しく、その額には汗が浮かび、心なしか、目に見えて老け込んでいくようにすら感じられた。


 エリックたちは魔術師たちが行っている儀式を、静かに見守った。

 集中している魔術師たちの邪魔をしないため、という理由もあったが、誰もが、おそらくは一生に一度見られるかどうかというその儀式に、見入っていた。


 やがて、空中に浮かび上がり、グルグルと回転していた魔法陣は、垂直に立ち上がっていく。

 そしてほぼ地面と直角になるまで立ち上がると、魔法陣は一層輝きを増し、そして、聖堂めがけて突進していった。


 巨大な魔法と魔法がぶつかり合う、その瞬間。

 膨大な魔力が辺りにはじけ飛び、衝撃波となってエリックたちを襲った。


 魔法の呪文を唱えていた魔術師たちの多くは、呪文に集中していたために衝撃波によってバタバタと、なすすべもなく倒れていく。

 エリックたちは踏ん張ってかろうじて衝撃波に耐え抜いたが、しかし、目を開いていることもできないほどだった。


 やがて、衝撃波が治まった。

 エリックは、恐る恐る、目を開く。


 そこには、ヒビの入った聖堂の姿があった。

 聖堂全体に大きなヒビのようなものが走り、風景がところどころで歪んでいる。


 エリックはすぐに、そのヒビが聖堂そのものに入っているのではなく、聖堂を覆っていた魔法防壁に入っているものなのだと気がついた。


(まさか、足りなかったのか……? )


 エリックは一瞬、そう思って、不安になる。

 しかしすぐにレナータたちの魔法は成功したと知ることができた。


 まるでガラスが砕け散るような音を立てながら、ヒビの入った魔法防壁が崩れ落ちていく。

 その破片はキラキラと輝きながら、地面の上に落ちて砕け散り、そして、消えて行った。


「やったぞ! 成功だ! 」


 誰かがそう言い、そしてその言葉をきっかけとして、兵士たちの間で歓声があがる。


「レナータ学長! 」


 その歓声を背中に受けながら、クラリッサが慌てて、倒れこんでいるレナータに駆けよっていった。


 クラリッサに助け起こされたレナータは、力なく、だらんとしたような様子だった。

 その様子に(まさか)と思ったエリックは、兵士たちに聖堂の門を警戒するのと共に、倒れている他の魔術師たちを救護するように命じ、それから自分自身も、仲間たちと共にレナータへと駆けよっていた。


 レナータは、かなり衰弱しているような様子だったが、無事だった。

 クラリッサに抱きかかえられながら駆けよって来たエリックたちに気がついたレナータは、うっすらと微笑みを浮かべ、聖堂の方を指さす。


「うまく、いきました。


 魔法防壁は、破壊し、無力化しました。


 ですが、わたくしは……、しばらく、動けそうにもありません」


「ありがとうございます、レナータ学長。


 あとは、オレたちに、任せてください」


 息も絶え絶えに、震える声でそう言うレナータに、エリックは力強くうなずいてみせる。

 するとレナータは、エリックのことを真剣な目で見上げ、声を振り絞って願った。


「エリック殿。


 どうか……、ああ、どうか!


 聖母に、正当な報いを!

 デューク伯爵の無念を、晴らして差し上げてください! 」


「……必ず、そうします」


 エリックは、そう言ってレナータに約束した。


 レナータと、エリックの父親であるデューク伯爵とは、古くからの友人だった。

 その信仰は最後までずっと続いていたし、レナータは、デューク伯爵の死の真相を知ったからこそ、エリックに力を貸してくれていた。


 その2人の関係は、単に、友人という枠にはとどまらないものだったのだろうと、今のエリックには理解できる。


 レナータからたくされた思いは、大きかった。

 聖母を倒すことは、当然、エリックは必ずやり遂げるつもりだったが、レナータからたくされた思いを背負った分、エリックが振るう聖剣には少し、重みが増したはずだった。


 エリックは、レナータたち魔術師たちを治療のために後方に下げさせると、あらためて、反乱軍の兵士たちに隊列を組ませ、聖堂と相対した。


 残すところは、聖堂の門だけ。

 そこを突破すれば、きっと、聖母たちの最後の抵抗と遭遇することになるだろう。


 その戦いに勝って、聖母との決着をつけるために。


「突撃!


 聖母を、倒せ! 」


 エリックは聖剣を引き抜いてかまえると、声を張りあげ、聖堂への攻撃開始を命令した。


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