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・第296話:「残酷な運命」

・第296話:「残酷な運命」


 今まで静かだった城門が、自ら開いていく。

 その光景に、エリックたちは警戒せざるを得なかった。


 聖母たちがエリックたちに最後で最大の反撃をしようと、自ら城門を開いて討って出て来るのではないかと、そう思ったからだ。


 しかし、身構えるエリックたちには、突撃してくる敵の喚声かんせいも、足音も聞こえては来なかった。


 呆気に取られているエリックたちの目の前で、城門はズズズズ、と重苦しい音を響かせながら、開いていく。


 そしてとうとう、完全に城門が開き切ると、エリックたちはその城門の向こうに、聖堂の巨大な門扉の姿を目にすることができた。


 毎日、毎日、大勢の信徒たちの来訪でにぎわい、大勢の信徒たちが一度に渡ったとしても耐えられるように橋は広く頑丈に作られ、それだけでなく技巧を凝らした装飾もふんだんに施されている。


 そして、城門から一直線に聖堂へとつながるその橋の奥、聖堂の門扉の前に、10数人の人影が立っていた。


 やはり、教会騎士たちが待ち構えているのか。

 エリックは一瞬そう思ったが、すぐに、たった10数人だけしかいないというのはおかしいと気づいていた。


 いくらこれまでの戦いで多くの教会騎士が討ち取られ、教会騎士団が壊滅的な打撃を受けているのだとしても、聖堂を守る最後の拠点にたった10数名、遠目に数えてみておそらく13名だけしかいないという少人数は、おかしい。


 そこにいるのは教会騎士ではなく、聖騎士たちなのではないかとも思ったが、しかし、聖堂を守るように並んでいる13人の服装は、聖騎士のものではなかった。


 エリックは思わず、半ば呆然と立ち尽くしている元聖女・リディアの方へ視線を向けていた。

 なぜなら、聖堂の前にいる13名は、リディアが聖女であったときに身に着けていた衣装とよく似た、いや、まったく同じ衣装を身に着けているように思えたからだ。


「な、なん……で……? 」


 そう呟くリディアの声が、震えている。

 その瞳は、焦点が定まらず、リディアの動揺の大きさを物語るように、小刻みに激しく揺らいでいた。


 リディアには、あの13名の[聖女たち]がどのような存在なのか、わかっているのかもしれない。

 そのことについてエリックはリディアにたずねたかったが、しかし、今のリディアはなにをたずねてもまともな反応を示してくれなさそうだった。


 それほどリディアは、大きなショックを受けている様子だった。


「エリック、敵が、動く」


 リディアに声をかけるべきかどうかエリックが躊躇ちゅうちょしていると、セリスがそう言ってエリックに、状況に変化があったことを教えてくれる。


 急いで視線を正面へ、聖堂を守る13名の聖女たちの方へと向けたエリックは、「んなっ!? 」と、驚きの声を漏らしていた。


 13名の聖女たちが、エリックたちに向かって、ゆっくりと向かってきている。

 そしてその中央、聖女たちの先頭にいる1人が、目深にかぶっていたフードを取り払う。


 あらわれたのは、見事な、美しい色の金髪。


 そしてその金髪の色に、エリックは見覚えがあった。


────────────────────────────────────────


 エリックは、思わず駆け出していた。

 仲間たちが驚いてエリックを引き留めようと声をかけたが、エリックにその声は聞こえてはいなかった。


 一目見ただけで、気づいた。

 そして近づいていくにつれて、(もしかしたら……)という思いは、確信へと変わった。


 聖女たちの先頭を進んでくる、金髪の少女。

 もう、その顔立ちも、瞳も、見える距離にいる。


「エミリア! 」


 エリックは、その名を叫んでいた。


 エリックの、おそらくは最後の肉親。

 ヘルマンによって連れ去られ、それ以来、まるで行方をつかむことができなかった、この世界でただ1人の妹。


 そのエミリアが、目の前にいる。

 今すぐに駆けよって、抱きしめて、言葉を聞いて、その無事を確かめたかった。


 しかしすぐに、エリックの足は鈍って行った。

 エミリアの様子がおかしいと、そう気づいたからだ。


「エミリア……? 」


 そして立ち止まったエリックは、愕然としながら、妹の名を呼ぶ。


「エミリアっ! 」


 エリックは目の前にある現実を信じられずに、そう叫ぶ。


 エミリアは、エミリア以外には見えないソレは、しかし、エリックからの呼びかけに答えない。

 ただ、虚ろな、意志を感じさせない瞳でエリックのことを見つめつつ、それまでと変わらない足取りで、他の聖女たちと隊列を組んで近づいてくる。


 エリックは、認めざるを得ないのに、認めることができなかった。

 だから、何度も、何度も、エミリアの名を、妹の名を叫ぶ。


「エミリアっ、オレだ!

 エリックだ!


 兄さんだよっ!? 」


 いつしか、エリックの言葉は、悲鳴へと変わっていた。


 だが、エミリアはやはり、なんの反応を示さない。

 ただ、彼女は静かに、聖剣そのものにしか見えない剣の柄を握りしめ、鞘から引き抜き、かまえる。


 他の聖女たちも、エミリアのその行動を合図としたように一斉に、聖剣らしき剣を引き抜いてかまえていく。


「エミリアッ!!! 」


 エリックの、悲痛な叫び声。


 エミリアと12人の聖女たちが一斉に、聖剣を手にエリックに向かって来たのは、そのエリックの叫び声が虚しく響き渡ったのと、同時だった。


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