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・第286話:「ライ:2」

・第286話:「ライ:2」


 魔王軍との戦い。

 それは、今となってはずいぶん昔のことのようにエリックには思われた。


 エリックは、勇者として必死に戦った。

 魔王軍にサエウム・テラに攻め込まれ、人類軍が各所で劣勢となる中で、人類を守ろうと戦い続けた。


 そのおかげで、人類軍は戦況を盛り返し、勝利することができたのだ。


 エリックはあの戦いをそんな風に思っていたが、しかし、魔王軍の側では、エリックという存在以外の敗因も考えられていたようだった。


 魔王軍には裏切り者がいて、聖母の側に情報を流していた。

 その情報があったために、魔王軍は勇者であるエリックの力に押されただけではなく、各地で敗北することとなった。


(その裏切り者が、ライだったって、言うのか? )


 エリックは、ちょうど天幕を去っていくところだったライの後ろ姿を目にしながら、サウラにそう問いかける。


(証拠は、なにもない。


 しかし、サエウム・テラの、それも、聖都にこれほど近い場所で、200もの我が残党たちが隠れ潜んでいられたとは、到底、思えぬ)


 サウラにそう言われてみると、確かにその通りだった。


 聖都は、今までずっと、人類社会の中心地だった。

 必然的にその周囲には多くの人間たちが集まり、土地の開発は進んでいる。


いくら200という少数であろうと、人間とは外見が異なる魔物や亜人種たちがうまく隠れ潜んでいられるような場所は、とっくに残ってはいないはずだった。

 エリックたち反乱軍も、聖都の情報を探るためには、ずいぶんと苦労してきたのだ。

 そんな、1人2人でも偵察に送り込むことさえ難しい場所で、ライたちは本当に隠れていたのかどうか。


(ライだけではなく、ライが連れてきた200の魔王軍の残党も、みな、裏切り者かもしれないと? )

(まだなんとも言えぬ。

 スパイもいるだろうが、そうでない者も混ざっておるかもしれぬ。


 しかし、ライのことを疑っているのは、少なくとも、我だけではないようだ)


 そのサウラの指摘で、エリックも気づいた。

 エリックと同じように作戦会議のために用意されたイスに腰かけたままのケヴィンが、かたわらにセリスを呼んで、なにごとかを耳打ちする様子に。

 そしてセリスはケヴィンに向かって小さくうなずくと、まるでライの後をつけるように天幕を出て行ったのだ。


(ケヴィンたちも、ライのことを? )

(おそらくは。


 あの者たちは、生き延びるために、必死にこの大陸で生き残った同胞を探していた。

 しかし、ライたちのことは、その痕跡さえつかむことができなかった。


 ライたちがよほど巧妙に隠れていたという可能性もあるが、裏切りの功績として、聖母からの庇護ひごを受けていたのだと、そう疑っておるのだろう)


 エリックは表情を険しくして、考え込む。


 反乱軍は、20万という規模にまで膨れ上がった。

 そしてそれは、エリックたちからすれば当然の結果であり、反乱軍に参加したいと申し出てくる者は拒むことなく受け入れてきた。


 聖母の行いを見れば、誰だって支持をしようとは思わなくなる。

 そんなふうに考えていたから、聖母が意図して、反乱軍の内側にスパイを送り込んできているという可能性を考えていなかった。


 たとえライが裏切り者、スパイではないのだとしても、他にスパイとして聖母に送り込まれて来た者がいないとは限らないのだ。


(ひとまず、ライのことは、ケヴィンやセリスに任せておいてよかろう。

 あの者たちであれば、うまく、その正体を探り当てるであろうよ)

(ああ、そうだろう)


 サウラの言葉にエリックはうなずいたものの、また、気分が重くなってきた。

 聖都を攻略する作戦を立てる以前に、自身の味方に、裏切り者がいないかどうかを心配しなければならなくなってしまったからだ。


────────────────────────────────────────


 ライに、探りを入れて欲しい。

 ケヴィンにそう言われて、セリスはライの身辺について、探りを入れていた。


 最初は、偵察兵スカウトとして鍛えた隠密スキルを用いて、こっそりと。

 それから、同じ魔王軍の残党だということで、何食わぬ顔で堂々と。


 しかし、決定的な証拠はなにもつかむことができなかった。


 たとえば、ライが聖母となんらかの取引をした証拠となるようなものや、聖母に渡すために、エリックたち反乱軍の内情を示した手紙などが見つかれば、決定的な証拠となる。

 だがライの周辺からは、そういったものはなにも出てこない。


 それでもセリスは、怪しいと感じていた。

 同じ魔王軍の残党だということで堂々と近づいてみた時、ライや、その部下だったという魔王軍の残党たちの様子に、違和感を覚えたのだ。


 どうにもライたちは、口裏を合わせて、セリスになにかを隠しているような様子なのだ。

 それに、同じ魔王軍の残党として、隠れ潜んでいた間の苦労話などをしようとした時も、ライたちの話はおかしかった。


 セリスは、人間に支配されたこのサエウム・テラで隠れ潜むのにどんな苦労があったのかを、詳細に話すことができた。

 しかしライたちは、そういった苦労話をすることができず、できたとしても従軍中の苦労話だけだった。


 つまりライたちは、このサエウム・テラで隠れ潜んでいたというのに、その間、さほど大きな困難には直面して来なかったということだった。


 証拠はまだつかめないが、ライたちは怪しい。

 そう確信したセリスは、危険な賭けに出ることにした。


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