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・第282話:「進撃」

・第282話:「進撃」


 反乱軍の進撃路を塞いでいた、聖都を守る最大の城塞。

 運河の閘門こうもんを守るために作られた城塞は、エリックたちが内部に潜入したその夜のうちに陥落した。


 エリック、クラリッサ、セリスの3人は、夜明けとともに開門された城塞の門から、堂々と反乱軍の陣営へと帰還した。

 そして、その姿を目にし、城塞の城壁の上から聖母の旗が引きずり降ろされる光景を目にした反乱軍の兵士たちはみな、歓声をあげてエリックたちを出迎えた。


 竜騎士たちの説得が成功したとしても、城塞が陥落するまでには、もっと時間がかかるだろうと誰もがそう思っていたのに。

 城塞はいとも簡単に、たった一晩で陥落してしまったのだ。


 しかも、反乱軍の兵士たちにほとんど被害が出ていないばかりか、城塞を守っていた人類軍の兵士たちも、そっくりそのまま反乱軍に加わった。

 反乱軍の規模はいよいよ10万に届くほどになったのだ。


 反乱軍の兵士たちを喜ばせたのは、それだけではなかった。

 今まで聖母の威光の象徴でもあった、竜騎士たちが反乱軍に加わったのだ。

 それがあの有名な飛竜第64戦隊なのだから、兵士たちが喜ばないわけがなかった。


 エリックは兵士たちの歓声で出迎えられながら、しかし、憂鬱な気持ちだった。


 聖母こそが、悪である。

 その現実を目の前にしてもなお、聖母を頑なに信仰し続ける者たち。


 狂信者。

 そんな、どんなに言葉をつくしても受けつけようとしない、異質な者たちを相手に、エリックたちはこれからも戦い続けなければならないのだ。


 司令室でエリックたちが目にした光景は、凄惨なものだった。

 そこに立て籠もっていた指揮官も教会騎士たちも、みな自身の首をかき切って死んでおり、床にも壁にも鮮血が飛び散り、力なく横たわる死体が折り重なるようになっていた。

 流れ出た血の量は多く、まるで池のようであり、足の踏み場もないようなありさまだった。


 エリックたちはこれから、聖都へ向けて進撃する。

 補給を継続的に確保するために重要な運河を、この城塞を攻略したことで確保することに成功したから、もう、エリックたちが聖都に向けて進撃するのになんの障害もない。


 道中にある諸侯の城もみな、すでに反乱軍に対して帰順する意志を示してきている。

 もはや聖母を守るものは聖都の城壁しかなく、エリックたち反乱軍がいよいよ、聖都を包囲して聖母を追い詰める時がやって来たのだ。


 しかし、聖都に向かって進むということは、聖母を盲信する狂信者たちと、これまでとは比較にならないほどの密度で遭遇するということでもあった。


 なにしろ、聖母の本拠地である聖都は、聖母を信仰する教団の本部でもあり、大陸中から聖母を信仰する聖職者や信徒たちが集まっているからだ。

 その数はきっと、今の反乱軍に匹敵するか、それ以上に多い。


 エリックたちはこれから、それだけ多数の狂信者たちと相対しなければならない。

 しかもその狂信者たちのほとんどは、まともに戦うことすらできない者たちなのだ。


 たとえ、武器を手にし、エリックたちに抵抗する意志を持っているのだとしても、

 本質的にそれらは兵士ではなく、民衆なのだ。


 戦えば、今の反乱軍であれば、勝てるだろう。

 聖都を守る城壁を突破し、エリックを聖母の下へとたどり着かせることは、可能だろう。


 エリックは、自身の復讐ふくしゅうを果たし、この世界を救うチャンスを得ることができるのだ。

 しかし、その代償として、ほとんどただの民衆と変わらない聖母の信徒たちを、多数、殺戮することとなる。


 それは、考えただけでも気分が重くなるような事実だった。


────────────────────────────────────────


 エリックたち反乱軍は、攻略した運河の城塞で再編制を行い、聖都に向かって進撃を開始した。

 城塞を確保したことでエリックたちは聖都までの間、運河を自由に交通することが可能となり、反乱軍は船舶を利用して聖都へと一気に迫って行った。


 運河を利用した進撃は、徒歩で行くものよりもずっと素早いものとなった。

 運河の水は聖都へ向かって流れて行っているから、なにもしなくても船に乗ってさえいれば勝手に到着するし、船は帆を張ることもできるから、風向きさえよければ進撃はさらにはかどった。


 そして、順調に進撃を続けるエリックたちには、さらに多くの諸侯の軍勢が参加してきていた。

 度重なる反乱軍の勝利によって、人々は形勢が聖母にとって不利であることを悟り、今まで反乱軍への参加を躊躇ちゅうちょしていた諸侯も積極的に参加するようになってきたのだ。


 城塞を出発する時に10万近くにまで膨れ上がっていた反乱軍は、さらに拡大した。

 その数は、聖都の周辺へと到着するころには、とうとう、20万を数えるほどにまでなっていた。


 驚くべきことに、反乱軍に加わって来た者たちの中には、魔王軍の残党たちもいた。

 ケヴィンに率いられていた集団とは別に、生き残っていた者たちがいたのだ。


 彼らは今までサエウム・テラで散り散りになって、それぞれ潜伏していたのだが、エリックが[新魔王]として聖母によって大きく糾弾されたことで反乱軍の存在を知り、今こそ聖母を倒す好機と、集まって来たのだ。


 人間と、魔物と、亜人種たち。

 長い間、聖母の策謀によって分断を強いられ、互いに殺し合ってきたそれぞれの種族が、今、聖母を倒すという目的のために1つになりつつある。


 その光景は、反乱軍の将兵の士気を大きく高めるものだった。

 多種族が共闘するという、誰も見たことのないその現実に、誰もが聖母のいない新しい世界の到来を予感したのだ。


 しかし、エリックの憂鬱な予感の通り、聖都での戦いは、すんなりとは終わらないはずだった。

 エリックたち反乱軍がその勢力を拡大し、聖都へと迫るのと並行して、聖母は各地から自身の教団に参画している信徒たちをかき集め、聖都を防衛するための戦力にしたてあげつつあったからだ。


 聖母との決戦の時が、近づいてきていた。


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