・第277話:「幼馴染:2」
・第277話:「幼馴染:2」
クラリッサの幼馴染で、竜騎士のロイという少年。
彼となんとか接触することに成功したエリックたちだったが、問題はまだこれからだった。
彼を説得し、竜騎士たちを味方につけることができなければ、エリックたちは多くの犠牲を払ってこの城塞を攻略しなければならなくなるのだ。
エリックたちが隠れていた物陰に来るなり、悪びれもせずに堂々としているクラリッサの姿を見つけて起こったような声を浴びせてきたロイだったが、すぐに、そこにいるのがクラリッサだけではないと気づいて、ぎょっとしたような顔をしてたじろいでいた。
「やっほ、久しぶり、ロイ」
そんなロイにクラリッサは、そこにロイにとっての敵であるはずの新魔王・エリックと、エルフのセリスがいることに驚き、戸惑っている彼に、ちょっとその辺でたまたま再会したような気さくさでそう言葉をかけていた。
少しのんきすぎるのでは、とエリックもセリスもそう思ったが、もしかするとそれはクラリッサの作戦であるのかもしれない。
わざとのんきな態度を見せることで相手の緊張の弛緩を誘い、話しをしやすくしようとしているのだ。
実際、そのクラリッサののほほんとした態度に、ロイは脱力したようだった。
「やっほ、じゃ、ないよ、クラリッサ姉さん。
姉さんは、反乱軍でしょ?
俺、竜騎士だからっ。
なんで、こんなところに来てんの?
てか、どうやって?
ここ、城の中なんだよっ? 」
「ふっふっふ。
我ら新魔王軍に、不可能などないのだよ」
問いつめて来るロイに、クラリッサはまるで悪役のような不敵な笑みを返す。
そのどこかふざけた様子に、エリックもセリスも緊張感を失ってしまった。
ロイに至っては、もう、頭を抱え込む勢いだった。
いくら幼馴染とはいえ、敵であるはずのクラリッサが目の前にいるという意味不明な状況に、軽く頭痛を覚えているようだ。
「それで、クラリッサ姉さん。
いったい、なにしに来たんだよ? 」
「そりゃ、あたしだって、おしめをかえるのを手伝ったこともあるあんたとは、戦いたくないからね。
寝返りなさいって、説得しに来たんだよ」
クラリッサはあくまで、のほほんとした、まるで日常のなにげない会話をしているような態度を崩さない。
それがロイに対するクラリッサの通常の態度、赤ん坊のころから面倒を見てきた相手に対する接しかたであるのだろうが、寝返りという重大な決断を迫るのに、あまり深刻な雰囲気を出してロイに難しく考えさせないようにしているようでもあった。
「寝返り、って……。
俺に、聖母様を裏切れって、いうことか? 」
「いんや、アンタだけじゃないよ、ロイ。
あたしはできれば、飛竜第64戦隊の他の人たちにも、この城を守っている兵士たちにもみんな、聖母を裏切って欲しいと思ってる。
ロイ、あんただって、あたしたちと聖母、どっちに正義があるかなんて、もうわかってるでしょ? 」
額に手の平を当てながらたずねて来るロイに、クラリッサは単刀直入に、ズバズバとはっきりとなにをしにこんなところまで来たのかを告げた。
そのクラリッサの言葉に、ロイは黙り込む。
そしてしばらく考え込んだ後に、その視線をちらりとエリックの方へと向けてから、またクラリッサの方へと視線を戻して、疑うような口調で質問してくる。
「あのな、クラリッサ姉さん。
聖母様は、姉さんたち反乱軍は、新魔王の邪悪な力によってあやつられているんだって、そうおっしゃっているんだ。
なんか、こう、洗脳とか、そんな感じのことされてない? 」
「ないない、洗脳とか、誰もされてないから」
そのロイの疑いに、クラリッサはいかにも「心外だ」と言うように手を顔の前で左右に振って見せる。
「あんただって、聖母のやりよう、見たでしょ?
あたしたちが解放した捕虜の人たちを生き埋めにするなんて、どう考えても異常だよ。
そんなことをする聖母に従っているままなのはおかしいって、あんただってわかってるでしょう? 」
そしてそう指摘するクラリッサに、ロイは難しい顔でしかめっ面をする。
頭では明らかに聖母の方が悪いとわかってはいるが、やはりエリックたちのことをすべて信用することもできないと、そう悩んでいる様子だった。
その時、クラリッサがエリックのことを肘で軽く突っついた。
どうやら、「あんたもなにか言いなよ」と、ロイの説得に参加するようにせっついている様子だった。
「ロイ殿。
確かに、オレは新魔王だ。
この世界を、聖母の支配を破壊し、新しい世界を作ろうと戦っている。
でもそれは、オレ自身の、私利私欲のためじゃない。
オレ自身が、聖母に騙され、裏切られたから。
そして聖母が邪悪な存在だと、この世界にとっての真の敵なのだと、そう気づいたから。
だからオレは、戦っているんだ。
そもそも、オレたち人間と、魔物やエルフたちとが戦争をしていたのは、聖母がそうなるように仕組んだことだったんだ。
聖母は人間を支配するためにわかりやすい敵を作っていただけなんだ。
オレたち人間と、魔物やエルフたちとは、本来、争う必要なんてなかったんだ。
そしてオレは、その、本来あるべき姿にこの世界を戻そうと思っている。
そのためには、ロイ殿。
竜騎士の力や、この城塞にいる兵士たちの力も、必要なんだ」
そのエリックの説得の言葉を、ロイは黙ったまま聞いていた。
そしてエリックが言葉を終えると、ロイはしばらくしてから、はぁ、と深いため息をついて言った。
「わかった。
オレは、あんたたちに協力する。
どう考えても、聖母のやり方はおかしいんだ」