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・第275話:「城内」

・第275話:「城内」


 運河を守る城塞。

 反乱軍が聖都へと至るための道を守る、聖母にとっての最後の砦。


 その城内は、思った以上に静かだった。


 現在、この城塞は7万もの反乱軍によって包囲されている。

 つまり戦時下なわけで、通常であれば警備の兵士などが多く出され、城内は夜間であっても厳重に警備されていなければならないはずだった。

 各所に見張りの兵士が配置されるほか、定期的・不定期に、見回りが巡回していなければならないのだ。


 しかし、そういった警備の兵士たちの姿は、少なかった。

 見張りの兵士はいても、通常2人で見張るべきところを1人だけになっていたり、その1人も居眠りしていたり。

 見回りの兵士たちも、やる気がなさそうにあくびを噛み殺しながら、注意力散漫になりながら巡回している。


 聖母のための戦いなど、やっていられない。

 こんな戦い、早く終わりにしてしまいたい。


 兵士たちはみな、そんなふうに思っている様子だった。

 そんな士気の低い兵士たちが相手なのだから、エリックたちの潜入は順調に進んでいった。


 だが、注意しなければならない相手もいた。

 それは、聖都から派遣されてきている、教会騎士たちだ。


 聖母にとっての直接の軍事力である教会騎士団は、これまでのエリックたちとの戦いでほぼ壊滅状態にある。

 かつてのように、聖母への忠誠心に富み、騎士としてふさわしい戦闘力を持った教会騎士たちは、ほとんど残ってはいないのだ。


 今、この城塞に派遣されてきている教会騎士のほとんどは、即席でその地位を与えられたものたちであるようだった。


 戦闘の技能はなくとも、聖母への忠誠心だけはある教団の関係者たちや、一般の民衆たち。

 そういった者たちを徴集し、訓練もそこそこに、装備だけを与えて教会騎士とし、送り込まれている。


 その能力の低さは、明らかなものだった。

 教会騎士たちは聖母の威光をかさに着て態度だけは大きく、他の兵士たちを見下しているようだったが、その歩き方は訓練を受けた者のそれではなく、突然襲撃されたら、剣の柄に手をかける間もなく討ち取られてしまいそうなものだった。


 しかし、聖母への忠誠心はあるから、教会騎士たちは熱心に見回りに励んでいた。

 そして、他の兵士たちがサボっているのを見つけると、横柄な態度でそれをとがめて、警備の任務に引き戻している。

 はっきりいって簡単に倒せるような相手ばかりだったが、教会騎士たちが姿を見せると一時的に警備が厳重となるために、厄介だった。


 幸いなことに、目指すべき大まかな方向はわかっている。

 エリックたちは、以前、この城塞にいたことがあるという兵士から城塞の内部構造の概要について教えられており、具体的にどこになにがあるのかまではわからずとも、どの方面へ進んでいけばいいのかははっきりとしている。


 そうしてエリックたちは、目的の場所へとたどり着いていた。


 どうして、そこがそうだと言い切れるのか。

 それは、すぐ近くに、飛竜たちがいる竜舎があるからだった。


 竜舎は、馬小屋などよりもずっと大きな建物だった。

 その内部には竜たちが快適に休むことができるよう、厚くわらが敷き詰められ、天井は通気性をよくするために屋根が2段構造にされていて、今も数十頭もの飛竜たちが翼を休めている。

 そして竜舎には併設するように、竜たちが飛び立てるように大きな広場が作られており、他の施設とは異なる明らかな特徴を持っていた。


 竜騎士たちの宿舎は、その竜舎に併設するように作られている。

 竜という、人類軍の中でも重要な戦力を操る人々だからか、その宿舎は通常の兵士たちのものよりも豪華な作りで、壁は漆喰しっくいで塗りこめられ、窓や内装などにもところどころ細工が施されて、貴族の邸宅並みの作りになっていた。


「問題は、どこにアイツがいるかなんだけど……」


 少し離れた物陰から竜騎士たちの宿舎を観察しながら、クラリッサが呟く。


 エリックたちはここまで、戦意の乏しい兵士たちのやる気のない見張りをかいくぐってここまでやってきていたが、竜騎士の宿舎の周辺は警備が厳重だった。


 というのはきっと、竜騎士たちの統制がきちんととれているからなのだろう。

 彼らは聖母が正義ではないとうすうす気づきながらも、それでも竜という特別な存在を乗り回す竜騎士としての誇りを持ち、規律を守っている。


 竜舎の周辺の要所には、しっかりと2人で2組の見張りが立てられ、その見張りたちも居眠りなどはしていない。

 巡回にやってくる兵士たちもみな、きびきびとした動きで、即席でその地位についただけの教会騎士たちとは大違いだった。

 きっと、不意に襲われても即座に剣を抜いて身を守ることができるような者たちばかりなのだろう。


「ここから隠れながら帰ることを考えても、まだ、時間は十分にあるわ。


 探してみましょう」


 油断なく周囲の様子をうかがっていたセリスが、難しそうな顔で目をこらしていたクラリッサにそう言った。


「うん、そうだね。


 えっと、アイツがいそうな場所……。


 いくら竜騎士が仲間内での階級差を作らないって言っても、一番の若手だし、そういう若手がやらされてそうなことと言えば……」


 セリスの言葉にうなずいたクラリッサは、そう呟きながら、少しだけ考え込む。

 それから彼女は、その視線を竜舎の方へと向けた。


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