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・第274話:「水路:2」

・第274話:「水路:2」


 クラリッサの幼馴染を説得し、竜騎士たちを味方に引き入れようという作戦は、人目につかないように夜を待ってから決行された。


 セリスが発見した潜入経路を使って城塞へと潜り込むのは、3人。

 1人は案内役のセリスで、もう1人は説得役のクラリッサ、そして最後の1人は、エリックだった。


 潜入には、大きな危険が伴っている。

 城塞の内部の構造の概要については、反乱軍に参加して来た人間の兵士たちの中に城塞にいたことがある者がいて、その兵士から説明を受けることができていた。

 しかし、現在の城塞内部の正確な状況を知っている者は反乱軍にはいなかったし、潜入に成功しても、どんなトラブルが起こるかもわからない。


 エリックは、潜入中になにかトラブルが起こって緊急脱出をしなければならなくなった時に、セリスとクラリッサを救出して脱出するために同行することとなっていた。


 潜入できるのなら、内部にエリックを始めとした精鋭を送り込んで、一気に攻略してしまえばよいではないか。

 そんな意見も出たのだが、エリックたちはできれば犠牲は少なく、そして今は敵であっても、城塞を守っている城兵たちをなるべく無傷で味方にしたいと考えていたから、少々回りくどい方法だが、クラリッサの案がそのまま決行された。


 城塞への潜入経路となっている水路までは、運河から接近していく。

 城塞は夜間でも警戒が厳しくされており、多くのかがり火と魔法の光で照らして死角をなくしていたが、それらの光でも運河の水面下までは照らすことができず、エリックたちはうまく水路の入り口まで接近することができた。


 クラリッサは泳げなかったが、問題はなかった。

 エリックたちは上流側から接近したから、水の流れに身を任せて、そのまま流されて行けば、後はエリックとセリスが少し手伝ってやることで水路へと無事にたどり着くことができたからだ。


「……ああ、怖かった」


 無事に水路へとたどり着き、鉄格子をくぐって城塞の内部へと潜入を果たして、水路の整備用の通路に上陸したクラリッサは、青ざめた表情でそう呟いた。

 彼女は小刻みに震えているが、その震えは水の冷たさからではないのだろう。


「昔ねぇ、故郷の近くの川で、おぼれかけたことがあってねぇ……。

 それ以来、どうしても水の中ってのは、怖くってねぇ……」

「しっ、静かに。


 ここに見張りは来ないはずだけど、万が一ってこともあるんだから」


 ガタガタと震えながら自分の過去の恐怖体験を語り始めるクラリッサを、セリスが小声で制止する。

 それから、水路の奥の方に意識を集中し、城兵の気配がないことを確認したセリスは、エリックとクラリッサのことを振り向いて視線をかわして合図をしてから、ゆっくりと慎重に進み始めた。


 その後に、クラリッサ、エリックの順番で進んでいく。


 3人とも、水の中からあがって来たばかりだというのに、ほとんどぬれていなかった。

 というのも、出発前にアヌルスが水にぬれないように魔法をかけてくれたおかげで、3人ともほぼいつも通りの格好で潜入してきている。


 ただし、エリックは聖剣を持ち込んではいなかった。

 長大なツヴァイハンダ―の形状をしている聖剣は、城塞内での取り回しが悪く、また、目立つ恐れがあるからだった。


 その代わりに、エリックは片手剣を持ってきている。

 短剣よりは刀身が長い剣だったが、これなら十分に屋内でも振り回せるはずだった。


 水路の中は暗く、じめじめとしていて、足元にはコケが生えている。

 そんな中を、3人はクラリッサが唱えた暗視の魔法を頼りに、慎重に進んでいった。


 この城塞にいたことがあるという兵士の話によると、城塞の内部には竜騎士たちを受け入れるための宿舎や、竜たちを受け入れるための竜舎が用意されているのだという。

 だとすれば、クラリッサの幼馴染がいる可能性がもっとも高いのは、そのあたりに違いなかった。


 やがてエリックたちは、上へと向かう階段の前にやってきていた。

 この水路は城塞内部に水などを供給する目的もあり、水路の天井にはいくつもの井戸が作られてそこから水をくみ上げることができ、直接水路へと降りていく必要はあまりないのだが、水路の整備・点検と警備のために出入りできるように階段が設置されている。


 一見すると城塞の警備は厳重だったが、その内部は緩んでいる。

 先に1度城塞内部に潜入したセリスからそう見破られていたが、やはり、水路から上の階層へとつながる階段は、ほとんど誰にも使われていない様子で、足元にはほこりがつもり、壁に立てかけられた松明なども、火が消えてからずいぶん長い間交換されていない様子だった。


 だが、この階段を上って行った先には、大勢の兵士たちがいる。

 今は夜間であり、兵士たちの多くは眠っているはずだったが、いくら士気が低下していようと、見張りの兵士くらいはいるはずだった。


 エリックたちは階段を上り始める前に、上の階層に潜入する準備を始めた。


 まず、セリスにやり方を教えてもらいながら履いている靴に布を巻き、足音が出ないようにする。

それから、魔法でぬれないとわかっていても用心のためにさらに防水性の布でくるんで持ってきていた、魔法のローブを取り出してそれを身につけた。


 それを着ていれば、布のある部分は魔法の力で周囲の景色と同化して見えにくくなる、魔法のローブだ。

 さすがに堂々と出歩けるほどの隠蔽いんぺい効果はなかったが、見張りの兵士たちに発見される危険性はずっと小さくできる。


 できれば、誰にも発見されずに説得を成功させたかった。

 もしエリックたちが侵入して来た形跡が見つかれば、頑なに聖母への信仰を守って抵抗してきている城塞の指揮官は警戒するだろうし、クラリッサの幼馴染の説得に成功しても、離反するタイミングが難しいものとなってしまう。


 準備を整え終わったエリックたちは、再び、セリスを先頭に、クラリッサ、エリックという順番に並んで、静かに階段をのぼり始めた。


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