表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

274/339

・第273話:「水路:1」

・第273話:「水路:1」


 クラリッサの幼馴染を説得して、飛竜第64戦隊を味方につける。

 そう決まったものの、肝心なことがまだ決まっていなかった。


 どうやって、クラリッサを幼馴染だという竜騎士と接触させるのか。

 そもそも、本当に城塞に籠もっている敵の中に、クラリッサの幼馴染がいるのかどうか。


「それで、クラリッサ。


 あなた、どうやってその幼馴染と会うつもりなの? 」


 その肝心なことを自信満々なクラリッサにたずねたのは、セリスだった。


「あー、うん、そのことなんだけどね? 」


 するとクラリッサはそう言うと、両手を合わせてセリスの方を拝む。


「……私になんとかしろってこと? 」


 そのクラリッサの仕草に、セリスは少し嫌そうな顔をした。


「いくら私が偵察兵スカウトだからって、無茶なことは言わないでもらえないかしら?


 あの城塞の守りは、とても堅固なものだって、これまでの小競り合いでわかっているし、正直なところ、外からこっそり潜り込むのは難しいわ。

 ましてや、いる[かもしれない]だけの相手のところにたどり着くなんて……」

「ェェー、セリスさんでも、できないの? 」


 憮然とした表情で城塞への潜入が難しいことを明かすセリスに、クラリッサは大げさに驚いてみせる。

 わざとらしい仕草だった。


「セリスさんなら、エルフの偵察兵スカウトのセリスさんなら、なんとかしてくれると思ってたのになー。

 人間のあたしじゃどーしようもないけど、エルフのセリスさんならできるって思ってたのになー。

 あたしの何倍も生きてるエルフのセリスさんにできないんだったら、もう、どうしようもないかもなー」


 クラリッサは、ことさらに[エルフの]というところを強調していた。


 挑発しているのだ。

 そのあからさまなやり口に、ケヴィンも、アヌルスも呆れたような顔をしている。

 いくらエルフであろうと、できないことだってあるのは当然のことなのだ。


「はー、しかたないなー。


 ごめんね、エリック?

 やっぱり説得は無理そ……」

「待ちなさい! 」


 しかし、セリスの反応は違った。

 残念そうに、あきらめたようにエリックの方を振り向いたクラリッサに、バン、と机を叩きながら立ち上がったセリスは、睨むような視線を向けながらビシッ、とクラリッサを指さして見せる。


「言わせておけば、クラリッサ!

 いくらあなたでも、その言い分は我慢ならないわ!


 それに私は、難しいと言ったのであって、できないと言ったわけじゃない!


 いいでしょう、見ていなさいな!

 敵の城塞への潜入、やって見せようじゃない! 」


 セリスはどうやら、クラリッサからの挑発がよほど腹にすえかねたらしい。

 すっかりやる気になってしまったセリスの様子に、クラリッサは顔をそむけながらニヤリと不敵な笑みを浮かべ、エリックたち他の反乱軍の幹部たちは苦笑するしかなかった。


────────────────────────────────────────


 城塞への潜入を成功させると請け負ったセリスは、それから数日の間、城塞へ潜入する方法を熱心に探っていた。

 運河を守る城塞の守りは固く、一見するとつけ入る隙などどこにもなかったが、意地でもそれを見つけ出してやると、セリスは他の偵察兵スカウトたちと協力しながらその弱点を探し続けた。


 そして、セリスはとうとう、城塞への侵入経路を発見した様だった。


「クラリッサ、エリック、やっと、入り込めそうなルートを見つけたわ。


 城塞には、上流から下流に流れる水をせき止めないためと、飲料水なんかを確保するための水路があるの。

 そこから、なんとか中に入りこめそうなの。


 さ、案内してあげるから、準備してちょうだい」


 セリスが見つけたのは、閘門こうもんのところで水を貯め込まないようにするために作られた水路であるようだった。

 その水路は城塞の内部へと続いており、そこから内部へと潜入できるということで、セリスは実際に城塞の内部まで行って、戻って来たらしい。


運河から水路への取水口、排水口には共に外部からの侵入者を防ぐために鉄格子が配置されているのだが、そこに、経年劣化による損傷が見つかった。

 簡単に手を加えるだけで、人がどうにか通り抜けられるだけの隙間を作ることができ、セリスはそこから城塞の内部へと入り込んで、そこの警備が手薄であり、意外に思うほど簡単に内部へと潜入できることを確認してきていた。


 鉄格子があるから、そこから敵が侵入してくることはないと、城兵たちはそう油断しきっているようだった。

それに加えて、聖母の本性を知った今、城兵たちの戦意はダダ下がりであり、警備もだいぶ手薄に、手抜きになっているらしい。


「え、えーっと……、もしかして、泳ぐの? 」


 せっかくセリスが城塞内部への侵入経路を発見してきてくれたのにも関わらず、クラリッサはなぜか気乗りしない様子で、そうたずねていた。


 その場に居合わせたエリックは、そう言えば、と思い出す。

 クラリッサは、泳げないのだ。


「……残念だけど、他に侵入できそうな経路は、ないわ」


 そのクラリッサの様子で、セリスもクラリッサが泳げないことを察したのだろう。

 ニヤリ、と意地悪な笑みを浮かべ、クラリッサに徴発されたことの仕返しだとばかりに、そう断言して見せる。


「ぅう……。

 なんとか、頑張ります」


 クラリッサは、城塞に潜入しようという作戦を言い出した本人でもあり、嫌だとは言えず、がっくりとうなだれながらそう言っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ