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・第27話:「城塞:3」

・第27話:「城塞:3」


 エリックが声のした方へ顔を向けると、そこには、確かにバーナードの姿があった。


 魔王・サウラを滅ぼすための長い旅の中で、共に背中を預け合って戦って来た、親友の姿だ。

 見間違えるはずがなかった。


「バーニー……! バーニーッ!! 」


 エリックは、感極まってその場に崩れ落ちながら、ただ、彼の名前を呼んだ。


(安心するのは、まだ早いのではないか? ……かの者もまた、汝を裏切っている可能性とて、あろう)


 魔王・サウラがそうささやいたが、エリックはそれをきかなかったことにした。


 サウラの言っていることは、正しい。

 バーナードはエリックが裏切りに遭った時負傷していてその場にはいなかったが、それは魔王を倒すために自らを犠牲としたからで、エリックを裏切っていないと証明できるような根拠はなにもない。


 だが、エリックは、バーナードのことを少しも疑わなかった。

 バーナードは、苦しく、孤独な旅の果てに、ようやくエリックの目の前にあらわれた希望だったからだ。


「エリック! お前は、ヘルマン神父が、魔王軍の残党に奇襲されて、それで死んだって……。それなのに、どうして、ここにいるんだ……? 」


 喜びに肩を震わせているエリックに駆けより、その顔をのぞき込むようにしながら、バーナードは驚きと喜びの入り混じった表情を浮かべていた。


 その表情には、エリックを裏切ったことへの罪悪感や、後ろめたさといった感情は、少しも混ざってはいない。

 ただ、親友を心配し、その生還を歓迎する。

 エリックが信じ、願ったバーナードが、そこにいた。


「ち、違う……。オレは、魔王軍の残党なんかに、やられたんじゃない! 違う! 違うんだ……っ! 」


 エリックは涙を流しながらバーナードにすがりつき、たどたどしい口調でそう言う。

 バーナードはそんなエリックの肩をしっかりとつかみ、真っすぐに見つめた。


「エリック。大丈夫だ、もう、安心していい! オレがついてる! だから、落ち着いてくれ! 落ち着いて、なにがあったのか、話してくれ! 」

「バーニー……! 」


 エリックは、今すぐにでもすべてを打ち明けたかったが、言葉に詰まった。


 信じていた仲間に裏切られ、自分は、すべてを失ったように思っていた。

 だが、バーナードは変わらず、エリックの親友として目の前にいる。

 エリックにとっては、それが嬉しくて、嬉し過ぎて、うまく言葉が出てこない。


 それに、エリックには、話すべきことがたくさんあった。

 あり過ぎた。


 ヘルマン神父、そして、リーチによって裏切られたこと。

 リーチによって、谷底へと捨てられたこと。

 その谷底で、魔王軍の生き残りのエルフの黒魔術士によって黒魔術を施され、エリックの中に魔王・サウラの魂が存在するようになったこと。

 そして、サウラは、エリックが死んで魂がその肉体を離れるか、時が経ってエリックの魂を十分に浸食してしまえば、そのままエリックの肉体を乗っ取り、この世界に復活してしまうのだということ。


 エリックは、そのすべてをバーナードに打ち明けようとした。


 だが、そうすることができなかった。


「これは、いったい、なんの騒ぎですかな? 」


 エリックが、なにから話すべきかを決められず、口ごもっている間に、騒ぎを聞きつけたヘルマン神父が姿をあらわしたからだ。


────────────────────────────────────────


「ヘルマン……神父ッ!! 」


 エリックは、憎しみのこもった視線で、やって来たヘルマン神父のことを見上げた。


「ほほぅ……、これは、これは! 勇者様! まさか、生きておられたとは! 」


 野次馬となって集まってきていた兵士たちをかき分けながらあらわれたヘルマン神父は、そう言って驚くと、エリックからすればあまりにも嘘くさい演技で驚いてみせた。

 エリックは自身の内側から沸き起こる強い憎しみの感情に突き動かされ、そのまま立ち上がってヘルマン神父に襲いかかろうとしたが、その様子に気づいたバーナードはぐっとエリックを押さえつけた。

 エリックには到底、無理をさせられるような状態ではないと思ったのだろう。


「ヘルマン神父。これは、どういうことですか!? 」


 そしてバーナードは、ヘルマン神父を疑うように問う。


ヘルマン神父が「死んだ」と報告して来たエリックが、生きていたのだ。

 バーナードからすればエリックが生きていたということは、ヘルマン神父が嘘をついていたということになり、当然、なぜそんな嘘をついたのか、自分が治療のために運び出された後になにがあったのかを、疑わざるを得ない。


「いや、まったく。わたくしにも、なにがなんだか」


 憎しみの視線を向けるエリックと、疑いの視線を向けて来るバーナードに見つめられながら、ヘルマン神父は白々しい態度で首を左右に振った。


「あの時、わたくしは、確かに勇者様が命を落とされるのを目にしたのです! それなのに、なぜ、ここに勇者様がおられるのでしょうか? 」

「ヘルマン神父! お前は、オレをッ!! 」


 エリックはヘルマン神父を糾弾しようとして、激しく咳き込んだ。

 衰弱しているのだ。


「おやぁ? 勇者様、ずいぶん、弱っておいでの様子。さぁ、わたくしが治療いたしましょう」


 そんなエリックの様子を見てニヤリと微笑んだヘルマン神父は、そう言いながらエリックに近づいてくる。


「さわっ……るな……っ!! 」


 エリックは咳き込みながらヘルマン神父を遠ざけようとしたが、しかし、その言葉は不明瞭で、誰にも伝わらなかった。


「さぁ、勇者様。気持ちを楽に。……今、お助けいたしますから」


 ヘルマン神父は、温厚篤実おんこうとくじつな人格者のような穏やかな笑みを浮かべながら、咳き込んでいるエリックの身体に自身の手をかざそうとする。


 だが、次の瞬間、ヘルマン神父は弾かれたように後ずさり、驚愕きょうがくしたような表情で叫んだ。


「なんてことだ! こ奴は、勇者様ではない! ……魔物だ! 魔物が、勇者様の姿に化けているのだ!! 」


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