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・第253話:「決別:1」

・第253話:「決別:1」


 バーナードを、殺したくない。

 その、心の底から発せられる悲鳴を、エリックは自ら抹殺した。


「バーニィッ! 」


 エリックは、腹の底から思いきり、その名を、親友の名を叫んだ。

 そしてその雄叫びによって、自身の心の痛みを覆いつくし、そして、エリックが出せる最大の力をすべて出し切った。


 あくまで、バーナードと同じ、勇者としての力だけで、対等に戦って。

 エリックは、そうすることで完全に、バーナードへの思いと決別した。


 バーナードは態勢を崩しながらも、それでもエリックの力に耐え続けていた。

 それはやはり、バーナードにも、エリックと戦い、勝たなければならない理由があるからなのだろう。


 しかし、親友同士の戦いに勝ったのは、エリックの方だった。


 一瞬、バキッ、という鋭い音が響く。

 そしてその音が、バーナードの聖剣にヒビが生じた音だと、エリックとバーナードが気づくのと同時に、バーナードが手にしていた聖剣はエリックの力に耐え切れずに、砕け散っていた。


 かつて、聖母から「世界を救え」と渡された聖剣。

 そして今は、「エリックを殺せ」と、バーナードへと渡された剣。


 そんな呪われた運命を持つ聖剣は、粉々に砕け散っていた。


 どうして、エリックの方が上回ったのか。

 単純にエリックの力の方が大きくなっていたのか。

 それとも、聖母からバーナードに与えられた勇者としての力が、不完全なものだったのか。


 あるいは、世界を救うという役目を果たすのと同時に、「用済み」と言われ、リディアの手によって葬り去られて来た多くの勇者たちと、リディア自身の無念の感情が、エリックの聖剣に宿っていたのか。


 聖剣が砕けた瞬間、エリックとバーナードの間には、強烈な爆発でも起こったかのような衝撃波が吹き荒れていた。

 その衝撃でエリックもバーナードも小さく悲鳴を漏らしながら、互いに距離を取ることとなった。


 飛散した破片から目をかばうために腕で守っていたエリックが再び前を見ると、そこには、エリックと同じように腕で顔をかばっていたバーナードの姿がある。

 エリック自身も目立った負傷はなかったが、バーナードにもどうやら、目立った負傷はないようだった。


 だが、2人の間の地面には、砕け散った聖剣の破片と、刀身の部分を失った柄が転がっている。

 それはすでに魔法の輝きを失い、聖剣が完全に破壊されたことをはっきりと示していた。


 エリックと同じように前を見て、エリックの姿を目にしたバーナードは、手をおろすと、表情を和らげ、エリックに向かって微笑みかけた。


「エリック。

 どうやら、俺の負けのようだな」


 そしてバーナードは、エリックに向かって、もう自分にはなんの武器もないことを示すように両手を左右に広げて見せる。


「さぁ、エリック。

 決着を、つけてくれ。


 元より俺は、そうなる覚悟で、ここに来たんだ」


 そのバーナードの言葉を耳にしながら、エリックは無言で自身の聖剣をかまえなおしていた。


 だが、すぐには斬りかかっていくことができない。


 今さら、バーナードが最後の悪あがきをするためになにかを企んでいるとは、エリックは少しも心配をしていなかった。

 ただ、バーナードの聖剣を砕いたことで実質的に戦いの決着がついた以上、バーナードにトドメを刺さずともいいのではないか、という思いが、ちらりとエリックの脳裏をよぎったからだった。


「エリック、また、迷っているのか?


 少しは成長したなと思ったのに、俺を、がっかりさせないでくれ」


 そんなエリックに向かって、バーナードは穏やかな笑みを浮かべながら言う。


「お前だって、この戦いの決着がどうつくのかを、わかって来ているんだろう?

 そうでなければ、お前が、この俺の聖剣を砕き、勝つことなんて、できるはずがない。


 あの、甘ちゃんのお前が、だ!


 ……いいか、エリック。


 俺と、お前。

 俺たちの戦いの結末は、どっちかが死ぬしかない。


 それしか、ないんだ。

 お前だって、そうわかっているからこそ、この場にいるのだろう? 」


 エリックは今さら、「どうしてだ」とたずねるつもりはなかった。

 なぜなら、バーナードのそのすべてを覚悟し、受け入れている穏やかな笑みは、エリックの考えが正しかったことを証明しているからだ。


 バーナードは、エリックを裏切りたくて、裏切ったのではない。

 ただそうしなければならない理由ができてしまったからこそ、エリックと戦うことを選んだ。


 そうせざるを得なかったのだ。


 エリックは、自身の歯を自身の力で噛み砕こうとでもしているかのように強く、噛みしめていた。

 バーナードをそんなふうな状況に追いやったのは、聖母に違いなかったからだ。


 きっと、聖母にとっては、これも[見世物]にしか過ぎないのだろう。

 かつての親友同士を戦わせ、それで、エリックを始末できるのならそれでよし。

 しかし、たとえバーナードが敗れるのだとしても、エリックに[親友を殺す]という、これ以上ないほどの苦しみを与えることができる。


 この場に、聖母がいるわけではない。

 しかしエリックは、聖母はきっとどこかでこの戦いの様子を眺めているのだということがわかっていた。


 そしてきっと、さぞ、楽しんでいることだろう。


 エリックは、やはり、バーナードを殺したいとは思えなかった。

 だが、今のエリックには、バーナードが言うように、そうするしかないのだということがわかっている。


「バーニーッ! 」


 もう1度、エリックはその名を叫ぶ。


 そして次の瞬間には、バーナードに向かって聖剣を突き入れていた。


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