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・第252話:「親友激突:3」

・第252話:「親友激突:3」


 エリックとバーナードは、互いに、目の前の[敵]との戦いに集中していた。


 しかし、2人の周囲では、以前として激しく戦いが続いている。


 人類軍はその大軍であることを生かし、次々と新手を差し向けてきていた。

 その攻撃を反乱軍はどうにか押し返し続けてはいるものの、徐々に損害は増え、城壁の上に人類軍の兵士が上って来ることを許してしまう回数も増えている。


 反乱軍はできる限りの準備をしてきたが、矢玉は無限ではなく、有限だった。

 そしてなにより、戦い続けていれば、どんなに強靭な兵士であろうとも疲弊する。


 エリックがバーナードと1対1で戦っていられる時間は、限られたものだった。

 もし決着をつけることができずに戦いが長引けば、反乱軍の防衛線は各所で突破され、人類軍が雪崩こんでくることになるだろう。


 そうなればもう一騎打ちなどしてはいられないし、反乱軍の敗北は決定的だった。


 誰もが、懸命に戦っていた。

 ケヴィンやラガルトやガルヴィンたちは前線で将兵を指揮しながら自らも陣頭に立って戦い、クラリッサとアヌルスは魔法の呪文を唱え続け、聖女であるリディアは、エリックに代わって防衛線を移動して回り、自ら剣を手に取って戦いながら兵士たちを激励し続けている。


 その必死の戦いも、ここで、エリックがバーナードに敗れるようなことがあれば、すべて、無駄になってしまうのだ。


(行け、エリック! )


 エリックは、自身の内側からサウラが向けて来る激励の言葉と共に、バーナードを力いっぱい、押し返していた。


 エリックは今、魔王としての力はまだ、使ってはいなかった。

 それは、バーナードを倒すのは、自分自身の力でと、そう決めていたからだ。


 それは、手加減や、おごりなどではない。

 エリック自身が固めた[覚悟]を、エリックがエリック自身にはっきりと示すためだった。


 だから、今のエリックとバーナードの力の差は、ほとんどないはずだった。

 同じ勇者の力を持ち、同じ聖剣を振るう、[元]勇者と、[新]勇者。


 だが、エリックはバーナードに押し勝った。


「エリックッ、お前ッ! 」


 エリックに押され、身体をのけぞらせたバーナードは、驚きと共にその名を叫んでいた。


 同じ力の持ち主なのに、正面からの押し合いで、エリックが勝った。

 それはおそらく、エリックとバーナード、2人の、それぞれの覚悟の強さに、差があるからだった。


 エリックを裏切り、聖母の手先となる。

 その決断を下したバーナードは、[絶対]と心に誓ったものを捻じ曲げなければならないほどの理由があるはずだった。


 しかしそのバーナードの覚悟を、エリックの覚悟は、上回った。


 自身の、復讐ふくしゅうを遂げるために。

 それだけではない。


 聖母による支配を終わらせ、この世界を解放するために。

 もう2度と、聖母の都合によって、人々が傷つくことのない世界を生み出すために。


 そのために、バーナードに勝利する。


 そう、エリックは決めたのだ。


 バーナードに押し勝ったエリックは、聖剣を振り上げ、躊躇ちゅうちょなく、体勢を崩したバーナードに向かって振り下ろしていた。


 以前のエリックであれば、きっと、体勢を崩したバーナードに斬りかかっていくことを、躊躇ちゅうちょしたのに違いない。

 だが、エリックはもう、迷わなかった。


 エリックが振り下ろした聖剣は、しかし、バーナードが咄嗟とっさにかまえた盾によって、防がれていた。


 バーナードも、一流以上の技量を持った騎士なのだ。

 咄嗟とっさにエリックの攻撃を防ぐことは、十分にできる。


 だが、体勢を崩した状態では、エリックの渾身こんしんの斬撃を防ぎきることはできなかった。

 バーナードは全身の力を振り絞って耐えようとしたが、無理な体勢で筋肉は引き延ばされて千切れそうになり、とてもこらえきることはできなかった。


「アアアァアァアッ!!! 」


 さらに体勢を崩したバーナードに向かって、エリックは聖剣を振るった。

 横なぎに振るわれたエリックの聖剣は、バーナードの盾を横からとらえ、そして、バーナードの手からそれを弾き飛ばしていた。


 エリックに力負けしたことに驚愕していたバーナードの表情に、しまった、という焦燥が加わる。

 剣と盾、両方を使いこなすバーナードの戦い方を十分に生かすのには、両方の武器が必要だが、その片方を奪われては、満足の行く戦いはもうできないからだ。


 エリックは、躊躇ためらわない。

 バーナードにトドメを刺すために、すでに聖剣を振り上げ、そして、勢いよく、叩きつけるように振り下ろしていた。


 バーナードは咄嗟とっさに地面に片膝をついて身体を支えなおし、残された武器である聖剣の柄を両手で握りしめて、エリックの斬撃を受け止めていた。


 上から振り下ろされ、エリックの膂力りょりょくだけではなく、重力も乗った一撃。

 その一撃は、バーナードの身体をきしませ、衝撃が骨を突き抜け、手をしびれさせるものだった。


 だが、バーナードは、どうにかそれを受け止めた。


 受け止めることができなければそのままエリックに頭蓋を割られていたのに違いない一撃を受け止めたバーナードに、エリックはさらに力をこめて、聖剣の刃を無理やり押し込もうとする。


(バーニーッ! )


 エリックの脳裏には、バーナードとの様々な記憶があふれ出ていた。


 エリックにとって親友であり、そして、兄のようでもあったバーナード。

 そのバーナードと話したこと、笑い合ったこと、共に戦ったこと。


 すべての記憶は、エリックにとって懐かしく、そして、暖かいものだった。


 しかし、エリックは勝たなければならない。

 バーナードを討ち取って、そのことを高らかに叫び、勝ち誇らなければならない。


 そうしなければ、反乱軍が今の窮状きゅうじょうから逆転し、聖母を滅ぼすことなど、できないからだ。


 いつの間にか、エリックの双眸そうぼうからは、涙がとめどなくこぼれ落ちていた。


 バーナードを、倒す。

 エリックはそう覚悟し、その決意は少しも揺らいではいなかったが、しかし、やはり親友の命を奪うことは、エリックの心に耐えがたい痛みを生じさせることだったのだ。


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