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・第251話:「親友激突:2」

・第251話:「親友激突:2」


 バーナードに向かって雄叫びをあげながら突っ込んでいったエリックは、長大な両手剣であるツヴァイハンダ―の間合いに入ると、上段から思いきり、聖剣を振り下ろしていた。


 それは単純な動きだったが、しかし、エリックの全力での斬りこみだった。

 エリックはまだ魔王としての力は使わず、自分自身と勇者の力だけでバーナードに向かって行ったが、長大なツヴァイハンダ―の形状をした聖剣の力と相まって、その一撃さえ入れば、相手の身体を上から下に真っ二つにできるほどの威力があった。


 そのエリックの全力の一撃を、バーナードは、自身の持った騎士の盾で受け止めていた。


 バーナードが愛用して来た騎士の盾、カイトシールドの形状をした物は、元々、強い魔法の力で強化されていたものだったが、エリックが全力で振り下ろした聖剣を受け止められるほどのものではなかったはずだった。

 だが、今のその盾は、聖母によってさらに強化されているらしく、エリックの振るった聖剣を難なく受け止めていた。


 それでも、エリックの斬撃の衝撃は、バーナードの身動きを封じる。

 エリックの全力で振るわれた一撃はそれだけ重く、それを受け止めたバーナードはその力を支えるために、全身の力を使わなければならなかった。


 だが、それも一瞬のことだ。

 最初の一撃の衝撃が過ぎ去ると、バーナードは反撃に転じた。


 バーナードの技量ならば、エリックのこの一撃をわざわざ受け止めずとも、避けることもできていたはずだった。

 しかしそれを正面から受け止めたのは、あえてエリックと近接した状態を作り出すことで、その状態から反撃に転じるために違いなかった。


 エリックがリディアからゆずり受けた聖剣は、ツヴァイハンダ―の形状をしていた。

 しかし、エリックがかつて振るっていた、今はバーナードの手にある聖剣は、より一般的な剣である長剣の形状をしている。


 これは両手でも片手でも使うことのできる汎用性の高い剣だったが、長大なツヴァイハンダ―に比べて取り回しは良いが、間合いは短い。

 だからバーナードは、エリックの一撃をわざと受けることで、自身の剣の間合いにエリックを誘い込んでいたのだ。


 バーナードは、盾の表面でエリックの聖剣を滑らせながら、自身の身体を前に出す。

 そして聖剣を振り下ろした姿勢のままでいるエリックを、自身の力で一気に押し込んで、エリックの体勢を崩そうとした。


 剣と、盾。

 その両方を使うのが、バーナードの戦い方だった。


 剣と盾で、攻撃と防御ではない。

 剣も盾も、その両方を攻防に使いこなすのだ。


 エリックは自身の体勢を崩そうとするバーナードの動きに、逆らわなかった。

 押し負けないように踏ん張ろうとすれば、その瞬間に、バーナードが前に押し出している盾に隠れて剣が振るわれ、その剣の切っ先がエリックを斬り裂くのだということを、よくわかっていたからだ。


 エリックはバーナードに押されるままに、大きく背後に飛び下がっていた。


 エリックが思った通り、バーナードは盾を前に押し出すことでエリックの視界を遮り、そして、その盾に隠れるように聖剣を振るってきていた。

 エリックが思い切って背後に飛び下がったことで、バーナードの聖剣の切っ先はただ空を切っただけだったが、並の戦士であればそれで討ち取られてしまっていただろう。


「分かっているじゃないか、エリック! 」


 自身の攻撃を見破られていたにもかかわらず、バーナードは嬉しそうに笑いながら、エリックに追撃をしかけていた。


 せっかく詰めた間合いを離されてしまっては、また、エリックを自身の間合いにおびきよせることから始めなければならない。

 バーナードはこのまま一気にエリックとの決着をつけるつもりでいるようだった。


 バーナードの動きは、速い。

 元々優れた技量の騎士だったが、聖母から勇者としての力を与えられ、バーナードは以前よりもその身体能力を増しているようだった。


 エリックは着地するのと同時に防御する体勢を取り、バーナードが振るった聖剣を、自身の聖剣の根本付近にある突起で受け止める。


「ぐっ! 」


 だが、今まで感じたことのないほどの衝撃を感じ、必死に歯を食いしばって、バーナードの斬撃を耐えなければならなかった。


 聖剣と、聖剣。

 形は違っても、同等の力を持った2つの聖剣は、その強大な力で互いに反発しあい、バーナードの斬撃の威力にその反発力が加わってエリックにのしかかっているのだ。


 聖剣同士の反発する力が作用しているのは、バーナードも同じであるはずだった。

 しかしバーナードはそれをものともせず、再び盾を前に出し、エリックを追撃して来た勢いのままエリックに当て身をかけて来る。


 エリックはバーナードの攻撃を正面から受け止め、渾身こんしんの力で耐えた。

 バーナードの今度の狙いは、当て身によって体勢を崩したところに一撃を加えるというものだと、エリックにはわかっていたからだ。


 だてに、親友だったわけではない。

 共に長く苦しい旅を同じ目的をもってやり抜き、互いに信頼しあっていたバーナードの考えることは、エリックには手に取るようにわかるのだ。


 ただ1つ、なぜ、エリックを裏切ったのかという、その理由を除いては。


 よほどの事情があるのだということは、わかる。

 そして敵となったバーナードを相手に戦い、討ち取るという覚悟も、今のエリックにはできている。


 しかしながら、その理由を直接バーナードの口から聞くまでは、エリックはとても、すべてに納得することはできなかった。


「バーニーッ! 」


 エリックはかつての親友の名を、今、自身にとっての最大の敵、聖母の手先となった者の名を叫ぶと、全身の力でバーナードを押し返していた。


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