・第250話:「親友激突:1」
・第250話:「親友激突:1」
エリックは聖剣を手にし、セリスに導かれて、バーナードがあらわれた場所に向かって駆け出していた。
建物を飛び出すと、そこに用意していた馬に飛び乗り、そして人類軍の攻撃に応戦するために動き回っている人々の中を抜けていく。
「急いで、エリック!
もう、作戦は始まってるんだから! 」
「ああ、セリス、わかっているさ! 」
セリスに言われるまでもなく、エリックは馬を急かして、走る速度をあげさせる。
人類軍による攻撃は、激しく続いていた。
幸いなのは、ヘルマンの作戦で多くの竜を失ってしまったことからか人類軍には竜の数が少なく、空からの反乱軍への攻撃が少ないということだったが、反乱軍が押されているという事実は変わりがない。
だが、人類軍の猛攻を受けている城門のうち、2か所は持ちこたえていた。
そこを守る兵力は500名弱に過ぎなかったが、事前に城壁や城門を補強し、武器や矢玉などを十分に集めてあったから、どうにか人類軍の攻撃を押し返すことができているようだった。
その一方で、残りの1か所の門は、人類軍の突入を許している状況だった。
城門の上や城壁の上にかかげられた反乱軍の旗が倒され、代わりに人類軍の旗が、一番乗りを果たした諸侯の武勇を誇るようにかかげられ、雪崩れ込んできた人類軍の兵士たちが城下町の奥へと向かってきている。
そしてその先頭に、新勇者、バーナードがいるようだった。
すべて、エリックたちの作戦通りだった。
人類軍は城門を突破したと思って我先にと突き進んできているが、すでにその城門を奪還し、再度封鎖するための決死隊が、元々城門を守っていた部隊と連携して動き始めている。
突破された城門の左からラガルトが、右からガルヴィンが、志願した100名の決死隊を従えて突き進んでいく。
それに、元々城門を守備していた兵士たちも続き、城内に押し寄せる人類軍を徐々に押し返し始めていた。
そしてその決死隊の攻撃を支援するために、ケヴィンに率いられた遊撃隊の騎兵たちが活躍していた。
普通、城下町のような市街地では、騎兵はその最大の強みである機動力を発揮できず、その力を出し切れないのだが、ケヴィンは事前に城下町でどのように戦うかを他の騎兵たちと共に協議し、練り上げていたようだった。
ケヴィンに率いられた騎兵たちは、数騎ずつの少数に分かれて、個別に城内に入り込んだ人類軍の将兵に攻撃をしかけ、かき乱していた。
人類軍が追ってくれば、その先で待ち伏せをしかけて逆襲し、追ってこなければ攻撃を続けて、少しずつ人類軍の戦力を削り取り、その勢いを削いでいった。
その攻撃の効果があったのか、城内に突入して来た人類軍の勢いは弱まって行った。
そしてそのチャンスを、ラガルトとガルヴィンの決死隊はモノにした。
決死隊は突破を許した城門にまで、見事にたどり着いていた。
そしてあらかじめ城門の近くの建物に用意してあった魔法陣を作動させ、建物を爆発させ、その瓦礫によって城門を完全に封鎖したのだ。
エリックは城門の上に反乱軍の旗が再びひるがえるのを確認しながら、馬を飛び降りていた。
なぜなら、かつての親友、バーナードの姿を、エリックは目の前にしていたからだった。
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城門を奪還し、城外の人類軍と、城内に攻め込んできたバーナードたちを分断することには成功した。
だが、城内にはすでに、数百もの人類軍が突入してきていた。
エリックたちの周囲では、予備兵力として置かれていた反乱軍の1個大隊や、城壁を奪還して逆襲に転じた決死隊の兵士たちと人類軍とが、激しく戦い続けている。
人類軍は城門を奪還されて外部と分断されたことで、これが反乱軍のしかけた罠だと悟り、動揺している様子だったが、それでも戦い続けている。
いくら不利な状況に追い込まれたのだとしても、そこにはまだ、[新勇者]がいる。
人類が自らの守護者だと信じ、信仰している聖母の[加護]を象徴するその存在がいる限り敗北は決してないと、人類軍の兵士たちはそう信じているのだ。
だが、その戦いの喧騒も、エリックとバーナードには、聞こえていなかった。
「なるほど。
狙いは、この俺、っていうわけだ」
聖剣を手に馬を降り、目の前に立ったエリックの姿を目にしたバーナードは、自身がエリックたち反乱軍の罠にはまったということを理解したのか、そう呟くように言っていた。
そのバーナードの前でエリックは聖剣をかまえると、ここまでエリックを案内してきたセリスに向かって短く、有無を言わせぬ口調で言った。
「セリス、下がってくれ。
バーニーとは、オレ1人で、決着をつける」
「そんな、エリック! 」
セリスは驚きと心配とが入り混じった表情でエリックの横顔を見つめたが、すぐにぐっと言葉を飲み込んでいた。
なぜなら、エリックはもう、セリスのことを見てはいなかったからだ。
セリスがなにを言おうと、どうしても、自分1人でバーナードと決着をつけるのだというゆるぎない意志を感じ取ったセリスは、少し悔しそうに唇をかむと、エリックに言われた通りに引き下がった。
自分だって、エルフ族の偵察兵としての自負を持っている。
自分は1人の戦士だと、セリスはそう思っている。
だが、勇者を前にした時、対抗できるのはエリックだけで、自分は足手まといにしかならないと、セリスも頭では理解できている。
だからセリスは、エリックの戦いを見守り、そして、周囲から邪魔が入ることのないように警戒する役割を果たすことにしていた。
「……エリック。
なかなか、いい顔になったじゃないか」
そんなエリックとセリスの姿を眺めていたバーナードは、なぜか少し嬉しそうに笑うと、聖母から与えられた聖剣と、自身が愛用して来た騎士の盾をかまえていた。
「さぁ、来いよ、エリック! 」
そして、その挑発するようなバーナードの声とともに、エリックは、雄叫びをあげてバーナードに向かって斬りかかって行った。