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・第249話:「総攻撃:2」

・第249話:「総攻撃:2」


 弓矢による射撃戦の間合いにまで入ってくると、人類軍は一斉に喚声かんせいをあげ、突撃を開始した。

 射撃戦の間合いで、城壁に守られ、高所から打ち下ろすという優位な位置にいる反乱軍とダラダラと射撃戦をするよりも、一気に間合いを詰めて接近戦に持ち込み、城を強襲して奪取しようというのが、人類軍の作戦であるようだった。


 城壁と城門を守る反乱軍は激しく矢を浴びせかけたが、数で圧倒しているだけでなく、充実した装備を持つ人類軍は犠牲を出しながらもその攻撃をかいくぐり、城壁や城門にとりつくと、攻撃を開始した。


 斧や棍棒などで城門を激しく殴打し、城壁にははしごをかけ、人類軍は盾を前にかまえながら、次々とはしごをよじ登って来る。

 そしてその攻撃を支援するために、人類軍の弓兵隊が矢を放って、反撃しようとする反乱軍の行動を射すくめた。


 やがて攻城兵器が接近すると、戦いはいよいよ、激しいものとなっていった。

 破城槌は城門を激しく殴打し、城壁にとりついた攻城兵器からは次々と人類軍の兵士たちが城壁の上に駆けのぼり、そこを守る反乱軍と激しい白兵戦が展開される。


 多くの血が、流れて行った。


────────────────────────────────────────


 激しい戦いの音。

 人々が叫び、断末魔をあげ、剣と剣を打ち鳴らし、激しくぶつかり合う音。


 その戦争が生み出す音を、エリックは反乱軍の司令室で、静かに双眸そうぼうを閉じ、まるで瞑想でもしているような様子で、聞いていた。


 その音は、かつてのエリックであれば、いてもたってもいられなくなるような、そんな音だった。

 なぜなら、その音が続いている限り、たくさんの人々が、エリックが守り、救おうと誓った人々が、傷ついてくということだからだ。


 だが、今のエリックは、静かにその音を聞いていることができた。


 必死に戦う人々の、犠牲。

 それはすべて、聖母を倒し、この世界を聖母の支配から解放するためだった。


 そしてその目的を果たすためには、エリックはここで、動揺し、取り乱すわけにはいかなかった。


 もし人々の犠牲を放っておけないからと直情的にエリックが飛び出して行けば、唯一の勝機であるバーナードとの一騎打ちに万全の状態では望めなくなるかもしれない。

 そしてそうなってしまって、仮に、エリックがバーナードに敗れるようなことがあっては、戦いの中で傷つき、犠牲となって行った人々の覚悟が、すべて、無駄になってしまうからだ。


 人々の犠牲に、意味をもたらすために。

 エリックはただひたすら、バーナードがどこにあらわれるのかという、その報告を待っていた。


 かつてのエリックであれば、とても、こんなふうに落ち着いていることなどできなかっただろう。

 しかし、ケヴィンにさとされ、自分の甘さを知ったエリックは、もう、人々が傷ついていることを知っていても、じっと、待っていることができる。


 自分が失敗すれば、すべての犠牲が、無駄になる。

 そのことをエリックは理解し、そして、その事実に向き合うだけの覚悟を、固めているからだ。


(今の汝であれば、あの者に……、新勇者にも、勝てよう)


 そしてそのエリックの変化を誰よりも身近に知っている魔王・サウラは、エリックの内側で、エリックを励ますようにそう言った。


 それは、単純にエリックの成長を喜んでいるというよりは、サウラ自身と同じ覚悟を身に着けたことを喜んでいるようだった。


(サウラ。

 お前もずっと、こんな気持ちだったのか? )


 エリックは戦いの音に耳を澄ませ、そして、バーナードがどこにあらわれたのかの報告が入ることをじっと待ち続けながら、サウラにそうたずねていた。


 聖母が世界を支配し続ける[仕組み]を維持するために、サウラは、人類の敵として聖母に生み出された。

 人類の脅威を演出し、その脅威を聖母が勇者という存在を使って解決することで、人々に聖母の加護の存在を信じ込ませるというのが、その役割だった。


 そうして、人々の聖母への信仰が揺らぎそうになるたび、魔王・サウラは復活し、世界の危機を演出し続けた。

 それが、この世界の歴史だった。


 だが、サウラは自我に目覚めた。

 元々は魔物や亜人種たちを自在に操るための力だった、血から記憶を読み取る力を使ううちに、サウラは聖母の操り人形としてではなく、虐げられてきた魔物や亜人種たちの真の解放者となることに、目覚めたのだ。


 サウラは多くの同志たちを得て、聖母に対して反抗した。

 そして戦いに敗れていく中で、その同志たちを次々と失って行ったのだ。


 魔王・サウラと共に、この世界を聖母の支配から解放するために。

 多くの魔物や亜人種たちが決死の戦いを行い、そして、犠牲となって行った。


 その犠牲をきっと、サウラは、今のエリックと同じような気持ちで受け入れていたのだろう。

 そして、すべての犠牲を無駄としないために、全身全霊をもってエリックと戦った。


 その結果、サウラは敗れた。

 それがどれほど無念なことであったのか、今のエリックには想像しかできないが、決して、経験したいとは思わなかった。


 それはつまり、この世界がこれからもずっと、聖母によって支配され、その支配を維持するために多くの犠牲が生じ続けるということだからだ。


 必ず聖母に勝利し、その支配を終わらせ、エリックの復讐ふくしゅうを成し遂げ、世界を救う。

 そのためになら、たとえ親友であろうと、今のエリックなら、躊躇ちゅうちょなく討ち取ることができる。


(我は、汝を信じている)


 サウラはエリックからの問いかけには答えず、ただそう言って、自身の無念を、ここに至るまでに経験して来た多くの犠牲者たちの無念を、エリックが晴らしてくれることを祈った。


「エリック! 」


 そして、その直後、セリスが勢いよく司令室に駆けこんできて、エリックの名を呼んだ。


 バーナードがどこにあらわれたのかが判明したのに、違いなかった。


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