・第248話:「総攻撃:1」
・第248話:「総攻撃:1」
エリックたち反乱軍は、人類軍によって四方が完全に包囲されていく様子を、黙って眺めていた。
兵士たちの士気を少しでも上げるために、騎兵部隊による出撃を実施し、人類軍に対して一撃を加えようという意見もあった。
しかしエリックたちは慎重に、その意見は採用しなかった。
なぜなら、反乱軍が保有している騎兵戦力というのはわずかなものでしかなく、奇襲に成功したとしても人類軍に意味のあるダメージを与えることができないからだ。
これに加えて、デューク伯爵の城の城門はそういった積極的な奇襲攻撃を行うための構造になっていないという理由もあった。
城外に出た味方を収容するために、城門を閉じることができず、結果として城門を敵に突破されて城が陥落する、という出来事は、歴史上散見されることなのだ。
だから安全に味方の部隊を出撃させるためには、味方部隊を追撃して追いかけてきた敵軍と味方の部隊とを分断し、安全に味方の部隊を収容できるような構造に城門がなっていなければならない。
だが、デューク伯爵の城は、人類社会を構成する一つの領地を防衛するものとして、人類軍からの援軍をアテにして設計されたものであるため、城から出撃して敵に逆襲をしかけ、城の守備兵力の自力で敵軍を撃破できるようにはできていないのだ。
あくまで、籠城し、援軍を待つという構造になっている。
だからエリックたちは、なにもせず、そして、バーナードにエリックが一騎打ちで勝利するという作戦にすべてを賭けることにしていた。
なにもせずに敵軍を迎えうつのは、勝算があってのことなのだ。
エリックたちは自分たちの作戦を、「隠したとところで今さら状況が好転するわけでもないし、それよりも共に戦う兵士たちには自分たちが戦う意味をきちんと理解してもらった方がいい」という判断で隠さずに明かしていたため、兵士たちはそう考え、籠城を決め込んだエリックたちの方針に静かに従ってくれた。
そうして静かに見守っていたエリックたちが見ている前で、人類軍は包囲を完成させた。
それは、一切の逃げ道のない完全な包囲だったが、しかし、長期戦に備えた陣地や本格的な野営地の建設などはまったく行われてはいなかった。
テントなどは張られ、物資なども大量に運び込まれてはいたものの、人類軍はせいぜい2、3日しかこの場に留まるつもりがないかのような準備しか行ってはいなかった。
今すぐにでも、総攻撃が始まる。
反乱軍はそんな予感と共に神経を張り詰めさせたが、しかし、人類軍は包囲して1日目には、攻撃を開始することはなかった。
どうやら彼らは、攻城兵器の組み立てや据えつけなどを行っているようだった。
いくら反乱軍を圧倒する大軍とはいえ、固く閉ざされた城門を突破したり、自力ではのぼることのできない城壁を乗り越えて突入したりするためには、多くは必要なくとも攻城兵器が必要なのだろう。
人類軍は攻城兵器をすぐに組み立てることができるよう、あらかじめ部品にして、持ち込んできていたようだった。
その組み立て作業は一晩中続き、そして、夜が明けるころには、その配置も終わっていた。
人類軍が用意した攻城兵器は、三角屋根つきの破城槌に、高い城壁に兵士たちを送り込むために、移動式の車輪のついた攻城塔。
それに、反乱軍側が防衛に用いている兵器を破壊するための、大きな槍を撃ち出すバリスタと呼ばれるものや、城壁や建物などを破壊するための投石機など。
そうして反乱軍を圧倒するための準備を整えると、人類軍はついに、反乱軍に対する総攻撃を開始した。
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反乱軍を包囲した人類軍の陣営から、攻撃開始を告げる無数の角笛の音が鳴り響く。
そしてその音を合図として、一斉に、バリスタから槍が、投石機から石が発射され、破城槌と攻城塔をともなった歩兵部隊が前進を開始した。
投射された槍や石が次々と城壁に命中し、あるいはそれを飛び越えて、内部の建物へと命中していく。
デューク伯爵の城の城壁は十分に堅固に分厚く作られていたからこの程度ですぐに破壊されるようなことはなかったが、城下町の建物は簡単に倒壊してしまった。
もっとも、城の城下町は今、ほとんど無人だった。
そこに暮らしていた人々は今、戦闘員とその補助員以外はすべて魔法学院へと避難しており、学長のレナータの下で、この戦闘がどういう結末になるのかを待っている。
人類軍側からの攻撃が開始されると、反乱軍側も、反撃を開始した。
攻城戦において用いられる攻城兵器は、城壁を破壊できる威力を持っているために、放っておけばどうあがいても城は陥落してしまう。
だから防御側も、攻撃側と同じようにバリスタや投石機などを装備して、攻撃側の攻城兵器を破壊するために準備を整えてある。
城壁の上や、城内に設置されたバリスタや投石機から、反乱軍は次々と槍や石を放った。
決して命中率は高くはないものの、人類軍側の攻城兵器が完全に露出しているのに対し、反乱軍側の兵器は城壁などの障害物によって防御されているため、数は少なくとも人類軍側にとって十分に脅威だった。
バリスタが放った矢の直撃を受けて人類軍側の兵士たちが何人も串刺しになって倒れ、投石機の直撃を受けた攻城塔が衝撃で転倒し、バラバラになる。
だが、人類軍側の攻城兵器は数が多く、その前進は止まらず、そして反乱軍側の兵器類にも損害が生じて行った。
そしてそこにさらに、魔術師たちの攻撃が加わった。
人類側は、各地からかき集めた魔法使いをこの戦いに投入しており、その魔法使いたちが次々と魔法の呪文をとなえ、攻撃魔法を反乱軍に向かって浴びせかけた。
その攻撃を、反乱軍の魔術師たちが迎えうった。
相手の呪文を無効化する対抗呪文を唱えるのと同時に、放たれた攻撃魔法を打ち消すための魔法を使い、降り注ぐ魔法の火の玉や、爆裂する魔法の玉などを、空中で迎撃していく。
魔法学院を守っている魔法のシールドで城を完全に防御できれば、それが理想だったのだが、しかし、反乱軍は避難させた民衆の保護のために、魔法学院のシールドを維持させるために多くの魔術師を割いていた。
このため、エリックたちは人類軍側からの魔法攻撃に対し、個別に対応するしかない。
反乱軍の魔術師たちは数で劣りながらもうまく攻撃を防ぎ続けたが、しかし、すべてを防ぎきることはできなかった。
魔法の攻撃のいくつかは確実に城内に着弾し、徐々に被害を広げていく。
そしてその間にも前進を続けた人類軍は、ついに、矢の射程にまで入り込んでいた。