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・第243話:「甘さを捨てろ:1」

・第243話:「甘さを捨てろ:1」


 バーナードが、自分を裏切った。


 その現実をエリックは受け入れることができないまま、デューク伯爵の城館へと帰還した。


「エリック!

 ちょっとアンタ、どこに行っていたのさ!? 」


 エリックがバルコニーに降り立ち、反乱軍の司令室へと戻ってくると、そこに待機していたクラリッサが、驚きながら駆けよって来た。


「もぉ、アンタが急にいなくなるから、みんなもう、大騒ぎなんだよ!?

 ケヴィンさんなんか、捜索隊を出すって言って、自分も用意してるくらいなんだから!


 エリック、アンタ一体、なにをしに行っていたのさ!? 」


 クラリッサがエリックを問いつめるのは、当然のことだった。


 エリックは、反乱軍のリーダーだ。

 そしてその反乱軍は、存亡の危機に立たされている。


 そんな状態でエリックが突然、周囲になにも言わずに消えてしまったのだ。

 圧倒的な戦力を誇る人類軍を敵にするという絶望的な状況で、魔王であり勇者であるというエリックがいるからこそかろうじてまとまっているという状態にある反乱軍は、エリックの不在により、ヘタをすれば自然に瓦解してしまう恐れすらあった。


 エリックが、逃げた。

 そう人々に思われてもおかしくないような状況だったのだ。


「……ごめん、クラリッサ」


 頭ではそのことがわかっているエリックは、今にも消えそうな声でそう謝った。


 そしてそのエリックの沈痛な様子で、クラリッサはエリックがなにをしに行っていて、そして、そこでなにが起こったのかをすべて、理解したようだった。


 クラリッサははっとしたような顔でエリックのことを見つめ、それから悲しそうに表情を曇らせる。

 だが、彼女にもエリックにかけられるような言葉は見つからなかったようだった。


「……ケヴィンさんたちに、アンタが戻って来たって、知らせて来る。

 今なら、まだアンタを探しに出発していないはずだから」


 クラリッサはようやくそれだけを言うと、エリックに背を向け、慌ただしく駆け去って行った。


────────────────────────────────────────


 司令室に戻って来た反乱軍の幹部たちはみな、口々に、エリックが一体どこに行っていたのかを知りたがった。

 しかしエリックは、そのどの問いかけにも、「ごめん……」とか、「オレが、間違っていた」と謝罪の言葉を口にするだけで、詳しいことを話さなかった。


 エリックが勝手に抜け出したことの重大さを考えれば、そんな態度が許されるはずもなかった。

 しかし、エリックのあまりの落ち込みように、誰も深く問いつめることができなくなってしまった。


 親友に、バーナードに、裏切られた。

 その事実は、エリックにとってはあまりにもショックの大きいことだった。

 それはエリックにとって、聖母たちによって使い捨てにされたことと、エリックの父親、デューク伯爵を失ったことに並ぶほどの出来事だったのだ。


 結局、ほとんどの人々は、エリックをそれ以上追及することはやめ、それぞれの仕事に戻って行った。

 現状の反乱軍で10万を数える人類軍を相手取って戦い、勝利できる見込みもとるべき作戦もさかったものの、それでも応戦の準備を整えるためにやるべきことは数多かったからだ。


 エリックにとっても、今は、1人にしてもらえるほうが、ありがたかった。


 間違っていたのは自分だ。

 そのことはエリックもよくわかっていたし、自分も、少しでも勝利の確率を高めるために、なにかをしておかなければならないということもわかっている。


 しかし今は、エリックは1人で、バーナードに裏切られたという事実と向き合う時間が欲しかったのだ。


 だが、エリックは、1人きりにはなることができなかった。

 次々と他の反乱軍の幹部たちが去っていく中で、最後まで、ケヴィンが残っていたからだった。


 ケヴィンは司令室に戻ってきてもずっと、険しい表情で、黙ったままエリックのことをにらみつけていた。


「すまない、ケヴィン。

 オレが、全部、間違っていたんだ。


 ……だけど、今は、1人にしてくれないか? 」


 両腕を組んで壁を背中にあずけながらエリックのことをじっと睨みつけているケヴィンからの威圧に耐えかねて、エリックはそう、弱々しい口調で懇願していた。


 だが、ケヴィンハその場を立ち去らなかった。

 むしろ、エリックにまっすぐに近づいてくると、そのことにエリックがなにか反応を示すよりも先に、ケヴィンはエリックの胸ぐらをつかんで、うつむいていたエリックの顔を自分へと向けさせていた。


 ケヴィンの鍛え抜かれたたくましい腕が、エリックを決して逃すまいと強く胸ぐらをつかんでいる。

 その唐突なケヴィンの行動にエリックは驚きと戸惑いをその表情に浮かべていた。


 そしてそんなエリックの顔面を、横合いから、ケヴィンの拳が殴りつけた。


 それは一瞬意識が遠のき、視界が白と黒に明滅するほどの、ケヴィンの本気の殴打だった。


 いきなりケヴィンに殴られるなどと少しも予想していなかったエリックは、そのまま、受け身さえとることができず床の上に転がっていた。


そんなエリックのことを、ケヴィンは怒りに満ちた視線で見おろしている。


「エリック殿!


 貴殿はいつまで、その甘さを捨てずにいるのだ! 」


 そして、呆然としているエリックに向かって、ケヴィンは怒鳴り声をあげた。


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