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・第242話:「親友決裂:2」

・第242話:「親友決裂:2」


 バーナードが、エリックに向かって聖剣を振り下ろそうとしている。

 その現実をエリックの目は見ていたし、バーナードが叫んだ声も耳に聞こえ、そして、肌にはバーナードから向けられた敵意を感じ取ってもいた。


 だが、その現実を信じられない、受け入れることのができないエリックは、呆然として、動くことができなかった。


(エリック、かわせ! )


 魔王・サウラがエリックの内側で、鋭い声で警告しても、エリックはショックから立ち直ることはできなかった。


 立ち尽くしたままのエリックを、バーナードが振り下ろした聖剣が斬り裂こうとする。

 だが、その寸前で、横に転がったエリックは、かろうじてその斬撃をかわすことができていた。


 エリックが、自分で動いたわけではなかった。

 このままでは一撃で致命傷を負わされると判断したサウラが、一時的にエリックの身体の制御を乗っ取り、回避させたのだ。


 サウラによって、命を救われた。

 バーナードが、エリックを、聖剣で斬り殺そうとした。


 その事実をエリックは理解していたが、しかし、エリックの心は、その現実を受け入れることを拒否し続けていた。


「なんで……、なんでだ……」

(エリック、しっかりしろ! )


 バーナードから斬撃をかわすために地面の上に転がった姿勢のまま、呆然自失として土にまみれながら、そううわごとのように呟いたエリックに、サウラが必死に呼びかける。


(目を、覚ますのだ!

 すでにあ奴は、新勇者は、聖剣を抜き、汝に斬りかかってきておるのだぞ!


 我の力では、まだ、汝の身体を完全に制御することは、叶わぬのだ!

 汝が自ら動かなければ、次の一撃は、避けられるぬぞ!? )


 魔王らしからぬ、切羽詰まった声だった。

 なぜなら、空を飛んで逃げようにも、地面に転がったままエリックが動かなければ翼を広げることができず、飛び立てない状態にあるからだった。


 呆然自失としたまま動けないエリックに代わってサウラが必死に身体を動かそうとするが、エリックが受けた強いショックの感情が、サウラのその試みを邪魔している。

 未だにエリックに主導権のある肉体は、それを動かそうとするサウラと、ショックのあまり動けないエリックであったら、エリックの方に従うのだ。


 サウラは必死にエリックを立ち上がらせ、翼を広げようとしていたが、そのモタモタとした動きでは到底、バーナードから逃れることなどできなかった。


「エリック、ここで、死ねェッ! 」


 鋭い叫び声をあげつつ、エリックを追って来たバーナードが、聖剣を突き入れて来る。

 その突きは、危ういところでエリックを外れ、代わりに地面を突き刺していた。


 エリックは、緩慢かんまんな動きながらも、どうにか立ち上がることができていた。

 しかしそれはサウラの努力のおかげであり、エリックはまだ、指先1つ満足に動かせないほどのショックから立ち直れてはいない。


(逃げるぞ、エリック! )


 どうにか翼を広げることができた瞬間、サウラは翼を制御することだけに意識を集中し、エリックにそう叫びつつ、翼をはためかせていた。


「くっ……!

 待て、[新魔王]ッ! 」


 サウラがはためかせた翼によって起こされた強烈な風によってそれ以上の追撃を妨げられ、飛んでくる土塊つちくれなどから手で顔をかばったバーナードは、エリックに向かってそう叫んでいた。


 さが、エリックは振り返らなかった。

 サウラによって制御されるまま、バーナードから一目散に逃げるように、必死に翼をはためかせ、できるだけの速度でその場から離脱していく。


 この騒ぎは、すでに人類軍の野営地にも伝わっているようだった。

 戦いの音を聞きつけた兵士たちはざわめき、急いで臨戦態勢を取ろうと、互いに叫びながら駆けまわっている。

 そして、敵襲を知らせるために、けたたましく早鐘はやがねが打ち鳴らされた。


 野営地の各所に配置されていた[竜殺し(ドラゴンキラー)]が射撃体勢を取り、竜騎士たちがすぐに飛び立てるように待機状態にあった飛竜たちに向かって駆けよっていく。

 そして、陣営に参加している魔術師たちはすでに魔法の呪文を唱え始め、エリックがどこにいるのかを把握するために、いくつもの魔法の光の球を夜空に打ち上げていた。


 ここにこのままとどまっていては、バーナードからの攻撃だけではなく、人類軍からの集中攻撃を受けることになる。

 1秒でも早く、遠くに、エリックは逃げる必要があった。


「なんで……、なんでだよ、バーニー……ッ! 」


 だが、エリックはまだ、強いショックから立ち直れずにいた。


 バーナードが、自分に向けて、攻撃してきた。

 エリックに、明確に殺意を向けてきた。


 バーナードは、親友だった。

 聖母に裏切られ、捨てられたエリックに、この世界で誰よりも先に手を差し伸べ、支えようとしてくれた存在だった。


 そんなバーナードならば、必ず、エリックの言葉を信じ、力になってくれるのに違いない。


 それが成功の見込みの小さなことだと、エリックは理性ではそう理解していたが、しかし、心のどこかで、(バーニーなら……)と、そう信じていたのだ。


 そのエリックの願いは、信頼は、もろくも崩れ去った。


 それは、エリックとバーナードが決裂し、戦わなければならなくなったことを意味するだけでは、ない。

 人類軍による攻撃に反乱軍が直面し、多くの人々が傷つくことになるという未来が、確定した瞬間だった。


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