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・第234話:「本当の仲間として」

・第234話:「本当の仲間として」


 エリックは反乱軍のリーダーだったが、この数日間、他の反乱軍の人々とまったく同じように、負傷者の救出や消火のために働き、そして、墓穴を掘っていた。


 それは単純に反乱軍では人手がまったく足りていないということと、そうやって身体を動かしていた方が、ヘルマンを逃がしてしまったという後悔を思い出さずにいられたからだ。


 今も、エリックは上半身裸になって、墓穴を掘っていた。

 シャベルを振るって土を掘り返し、麦藁むぎわらで作られた袋に詰め込んでいく。

 そして土がいっぱいになると、担当の作業者がやってきて、穴の外側に運び出し、近くに作られた土置き場に積み上げていく。


 その墓穴は、深く、広い。

 それは、焼いて骨だけにした竜の死骸をまとめて葬るための墓穴だった。

 焼いて骨だけにしたとはいえ、元々が大きな生物である竜を葬るためには、とにかく、大きな穴が必要だった。


 エリックは一心不乱に、黙々と土を掘り続けている。

 やらなければ終わらない、ということもあったが、少しでも作業の手を止めると、ヘルマンの哄笑を思い出して、いらだたしい気持ちになるからだった。


 そんなエリックの肩を、トントン、と、軽く誰かの指が叩いた。


 ごつごつとしていて固く、突起のようなものがある指。

 明らかに人間の手ではないその感触に、エリックはそれが誰なのか察しながら、顔をあげていた。


「エリックドノ。

 セリスガ、ヨンデ、イルゾ」


 それは、元魔王軍のリザードマン、ラガルトだった。

 彼もエリックと同じように反乱軍の幹部であり、本来なら人々が効率よくかつ安全に働けるように差配して監督するべき立場だったが、「ワシハ、チカラガツヨイカラ」と、自分が単純作業の肉体労働をすることが[適材適所]だと主張して、エリックと一緒に働いていたのだ。


 うろこの上に土汚れをたっぷりとつけたラガルトが指さした先には、確かに、セリスがいる。

 エルフの偵察兵スカウトである彼女は、穴の縁に立って両手を腰に当てながら、なぜか憮然ぶぜんとした表情でエリックのことを見おろしていた。


「セリス、どうか、したのか? 」


 エリックがそうセリスにたずねると、セリスは、「やっとこっちに気づいたわね……」と呟いてから、用件を言う。

 どうやら彼女は何度かエリックの名を呼んだようだったが、作業に集中していたエリックはそれに気づかず、だから少し不機嫌になっているようだった。


「リディアが、目を覚ましたの! 」

「……えっ!? 」


 セリスからのその知らせに、エリックは一瞬、きょとんとしてしまう。


 だが、すぐにその意味するところを理解すると、エリックはラガルトに「すまない、後は任せる! 」と言って、シャベルを地面に突き刺し、駆け出していた。


────────────────────────────────────────


 リディアはこの数日ずっと、臨時の病院として利用されている城下町の家屋の1つに用意されたベッドで、眠り続けていた。


 クラリッサや魔法学院の学長のレナータ、元魔王軍のエルフの魔術師であるアヌルスらの見解によると、リディアもやはり、聖女として、通常の人間とは異なった力を与えられているのだという。

 その中には、人間よりも強靭な生命力もあり、その力によってリディアはかろうじて命をつないでいた。


 時間はかかるだろうが、必ず、リディアは目を覚ます。

 ひとまずの治療を終えたクラリッサは、そう言って心配していたエリックに微笑んで見せ、それ以来ずっと、自分が主体となってリディアの看病をしてくれていた。


「リディア! 目が、覚めたのか!? 」

「コラ、エリック!

 リディアは目を覚ましたばっかりなんだから、静かにしなさい!

 ここには、他のけが人もいるんだから! 」


 エリックがセリスと共にリディアの病室に勢いよく入ると、リディアが寝かされているベッドのかたわらでリディアの様子を見ていたクラリッサがジロリ、と睨んできた。


 そしてそれからクラリッサは、優しい微笑みを浮かべる。


「安心してよ、エリック。

 まだ本調子じゃないけど、リディアはもう、大丈夫だから」


 クラリッサに注意されたエリックは、その言葉に、無言のまま、だが嬉しそうにうなずいていた。

 ベッドの上に寝かされているリディアの双眸そうぼうが開かれ、エリックとセリスのことを、嬉しそうに、そして、申し訳なさそうに見つめていることに気づいたからだ。


「……ごめんなさい、勇者様」


 エリックが近くにまでやってくると、リディアは、エリックに向かって、あらためてそう謝罪した。


 自分のせいで、ヘルマンにトドメを刺すことができなかった。

 リディアはそう思っているのだろう。


「いいんだ、リディア。


 ヘルマンも聖母も、必ずオレの手で滅ぼすさ。

 だけど今は、リディアが生きていてくれて、本当に、よかった」


 その申し訳なさそうなリディアの表情に、エリックはそう言うと、精一杯、微笑んで見せる。


「確かに、リディアはオレを裏切った。

 そのことは、今でも、どうしても、忘れることはできない。


 ……だけど、オレは、それじゃいけないって、そう思うんだ。

 オレは、もう一度、リディアと、仲間として。

本当の仲間として、一緒に戦いたいんだ。


 ……頼まれて、くれるかい? 」


 リディアへの恨みは、消えてはいない。

 それでもエリックは、リディアを許そうとしている。


 そのエリックの決意がにじみ出ている言葉に、リディアは、双眸そうぼうを閉じ、涙をこぼしながら、「はい」と、小さく絞り出すように、うなずいていた。


 その時エリックは、リディアと、本当の仲間になれたような気持がしていた。


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