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・第216話:「救援」

・第216話:「救援」


 空中から見下ろすと、地上に、何十体もの竜の死体が転がっているのが見える。

 あるものは墜落する時の勢いで畑を筋状に掘り返した状態で、別のものはほぼ垂直に落下して地面に叩きつけられたような状態で、また他のものは、燃え盛る建物に衝突した状態で、死んでいる。


 エリックも、無傷ではいられなかった。

 何度も飛竜の牙や爪で攻撃され、火竜の炎で焦がされそうになった。


 傷を負うたびに、エリックの肉体は、瞬時に再生された。

 それは、エリックの身体で未だに黒魔術が有効に働いていることに加えて、より魔王の身体に近づいたエリックの身体は、魔王が有していた強力な再生能力を発揮できるようになりつつあるからだ。


 しかし、エリックはまだ、消滅していなかった。

 エリックの意識はまだこの世界にはっきりと存在しており、エリックは竜たちを撃退したことでこれ以上故郷が攻撃されなくなったことと、自分がまだ自分自身で射られることに、ほっと安心していた。


 生き残った竜と竜騎士たちは、わずかなものだった。

 彼らはこの戦いの不利を思い知らされると逃走に転じ、聖都のある方角に向かって逃げ去って行った。


 その竜たちを、エリックは追撃しなかった。

 今後のことを考えればここで徹底的に全滅させておく方がいいはずなのだが、地上では降下した聖母の歩兵部隊との交戦が続いており、そちらを片づけなければならないからだ。


 エリックは、少し疲労感を覚えていた。

 今日は、教会騎士団を迎えうつために戦い、それから、こうして竜たちと戦ったのだ。

 肉体的な疲労もあるが、なにより、精神的な疲労感が大きかった。


 だが、戦いは終わってはいない。

 そしておそらくはこれからも、こんな過酷な戦いが続くのに違いなかった。


 エリックが地上の様子を見回すと、火竜たちの攻撃によって起こされた火災の黒煙の合間から、まだ激しく戦いが続いていることがわかる。


 どうやら降下して来た歩兵部隊は、地上でその戦力を徐々に集中させ、デューク伯爵の城館を陥落させることに全力をあげている様子だった。

 城下町の方では戦闘が少なくなり、竜がいなくなったことで隠れていた人々が外に出てきて、消火作業や負傷者の救出を始める姿が見えている。


 聖母の降下部隊は、エリックの手によって上空から竜たちが一掃されてしまったことで、焦っている様子だった。

デューク伯爵の城館をなんとか陥落させ、今度は自分たちがそこに籠城することで、聖母かさらなる増援を送り込んでくるまで耐え抜こうとでも考えている様子だった。


 はっきりいって、詰んだ状況だった。

 聖母の降下部隊の兵力は数百程度でしかなく、頼みの竜部隊を失ってしまった今となっては、デューク伯爵の城館を守備していた反乱軍の兵士たちの反撃を受けて壊滅するという未来が待っているはずだった。


 エリックたち反乱軍は、デューク伯爵の城館とその城下町を守備するために、1500名もの兵力を残してきている。

 竜の攻撃によって身動きが取れなくなり、各個撃破されていくという状況から抜け出した今、守備隊が連携した反撃を開始すれば、それだけで聖母の降下部隊は全滅させられてしまうだろう。


 それだけではなく、教会騎士団を迎撃するために出撃していた反乱軍の精鋭1000名も、こちらへ急行してきている様子だった。

 すでに先鋒として馬で駆け戻って来た者たちは城下町に到達して、竜の攻撃の余波で混乱している兵士たちや街の人々を落ち着かせるために奔走ほんそうしているし、残りの歩兵たちも、街道をこちらに向かって急いで進んで来る姿が空にいるエリックからは見えていた。


 どうやら、[竜殺し]もいくつか使えるものがあったらしく、大きくて力の強いオークやリザードマンといった魔物たちが必死に押して運んできているのが見える。


 エリックの力だけで竜たちはほぼ倒すことができ、生き残りも追い払うことができているので、教会騎士たちが用意していた[竜殺し]を探して修理し、ここまで運んできた彼らの苦労は完全に無駄になってしまったが、エリックは、自分と同じように街の人々を救うために必死に急いできている大勢の仲間たちがいることが嬉しかった。


 だが、視線をデューク伯爵の城館へと戻し、まずはどの部分から救援していけばいいのかを探したエリックは、奇妙なことに気がついた。


 城下町の方はすでに反乱軍の手によって掌握しょうあくされ、消火や負傷者の救出が始まっているのに、デューク伯爵の城館の方は、もう、陥落寸前の様子だったからだ。


 城壁の上に、デューク伯爵の家紋が描かれた軍旗と一緒に、大勢の兵士の遺体が倒れ伏している。

 聖母の降下部隊の兵士たちの死体もあったが、多くは反乱に参加してくれた、デューク伯爵に以前から仕えていた兵士たちだった。


 辺りには血の海が広がっている。

 竜たちの攻撃によってところどころ炎上し、戦いの犠牲者たちの血で彩られたデューク伯爵の城館は、エリックの記憶の中にある穏やかな姿とは似ても似つかない、凄惨な姿へと変貌へんぼうしていた。


 いったい、なにが起こっているのか。

 エリックが見る限り、聖母の降下部隊の兵士たちは間違いなく精鋭ぞろいではあったものの、反乱軍に参加している兵士たちも訓練は積んだ兵士たちで、あんな風に一方的に犠牲を出すことは考えにくい。

 しかも、反乱軍の側は城館の防御設備を利用して戦うことのできる籠城側であって、城館の構造もあまり知らないような侵攻して来た敵に対して、有利であるはずなのだ。


 なんだか、嫌な予感がする。

 考えられないようなことが実際に起こっているということは、エリックが知っている以上のなにかが、あそこで、デューク伯爵の城館で起こっているということだった。


(リディア……)


 エリックは、自分に匹敵する存在、元・聖女として城館の防衛に残ってもらっていたリディアのことが急に心配になってきて、彼女の姿を探していた。


 リディアが、少しでも多くの人々を守るために必死に戦ってくれているだろうということには、なんの疑いもない。

 しかし、問題なのは、リディアが戦っている相手が、誰なのか、ということだった。


 聖剣をエリックに委ねているとはいえ、リディアは聖女の力を持っている。

 その戦闘の経験と技術は高いものであって、聖母の降下部隊がいくら精鋭であろうとも、苦戦することはないはずだ。


 だが、城館では、敵よりも味方の犠牲者が多くなっている。

 リディアがついていて、あんな事態になるということは、リディアの手にもおえない敵がいる、ということを示唆しさしていた。


 そしてエリックはすぐに、その敵の正体を知ることができた。


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