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・第211話:「1人で行く:1」

・第211話:「1人で行く:1」


 エリックたち反乱軍を一気に叩き潰す。

 そのために聖母はその支配下にある教会騎士団の全力を差し向けてきたが、その中に、なぜ、竜の姿がなかったのか。


 その疑問の答えが、明らかになったようだった。


 聖母たちは初めから、教会騎士団を、エリックたちをおびき出す[囮おとり]に使っていたのだ。


 エリックたちが籠城を選ぶのであれば、それでもいい。

 魔王城でそうしたように、竜たちと教会騎士団とを合わせて、圧倒的な戦力で反乱軍を包囲して殲滅せんめつするだけのことなのだから。


 そして、エリックたちが籠城せず、出撃して来たとしても、聖母たちにとっては作戦通りだっただろう。

 教会騎士団とエリックたちが戦っている間に手薄となっているはずのデューク伯爵の城館を竜で奇襲し、制圧してしまえば、根無し草となったエリックたちなど後からどんなふうにでも始末することができるからだ。


 聖母たちとエリックたちとの間には、圧倒的な戦力差がある。

 その現実を、エリックたちは改めて思い知らされているような気持だった。


 もっとも、聖母たちにもきっと、誤算はあったはずだった。

 エリックたちは出撃したが、教会騎士団を迎えうつのにその全力ではなく1000名だけを選び、デューク伯爵の城館にはそれなりの兵力が残されている。

 それだけではなく、竜たちが奇襲を開始する時間までの間に、教会騎士団が壊滅してしまったのも、聖母たちにとっては誤算に違いなかった。


(だから、なんだっていうんだ……!

 こっちが不利なのは、なにも、変わらないじゃないか! )


 聖母たちだって、思うようにはいっていないはずだ。

 そう思いはしたものの、エリックは聖都で悠然とかまえている聖母の姿を想像すると、悔しかった。


「若様。

 ただちに、城に戻りましょう! 」


 そんなエリックに、伝令からの報告を聞いていたガルヴィンがそう進言する。


「留守には、城を守るのに必要な人数を残してあります。

 いくら竜による奇襲を受けたからといって、そう簡単に陥落するはずはありませんぞ。


 また、敵は竜に歩兵を乗せてきて、城に上空から攻め入っている、とのことですが、いくら竜が巨大な生物であるとは言っても、何千と兵力を送り込んでくることは無理でしょう。

 せいぜい、400か、500程度でございましょう。


 きっと、聖母たちは、こちらが教会騎士どもの迎撃に、その全力で向かうと考えていたはずですぞ。

 だとすれば、こちらが守備兵を残していたために、攻略にてこずっているはず。


 今から救援に向かえば、なんとか、持ちこたえているうちにたどり着けます」

「ガルヴィン殿のおっしゃる通りだ。


 今からすぐに向かえば、十分、救援することができる」


 ガルヴィンの意見に、ケヴィンも賛同した。


「我々を虐げ、人間たちをあざむき続けてきた聖母のその罪。

 それに正当な報いを与えるまで、我々反乱軍は、倒れるわけにはいかない。


 相手が竜であろうとも、今の我々が力を合わせれば、きっと、勝てるはずだ! 」


 そして、声を大きくして、まるで周囲の者たちに呼びかけるようにケヴィンが言うと、反乱軍の兵士たちは口々に「そうだ、今の我々なら、竜とだって戦える! 」とはやし立てる。


 だが、エリックには、それが空元気であるということがわかってしまった。


 確かに、エリックたち反乱軍は、10倍の敵を壊滅させるという大勝利を得た。

 十分に聖母の軍隊と戦えるということを示すことができたし、人間と魔物と亜人種が力を合わせれば、強大な相手にも勝利できるのだということを、戦いに参加した全員が理解できたはずだ。


(だが、相手が竜となると、話しは別だ)


 このエリックの危惧きぐは、実際のところ、反乱軍の兵士たちはその誰もが共有しているはずだった。


 大昔、まだ神々がこの世界にいたころ、竜は[神の乗り物]として数多く存在していた。

 しかし、聖母によって神々が滅ぼされたのちは、聖母の力の象徴となり、竜騎士と呼ばれる特殊な技能を身に着けた人々によってあやつられる存在となっている。


 竜は、その肉体が強靭であるというだけではなく、空を自在に飛行することができる。

 その、飛行するということこそが、竜の最大の強みであり、威力であった。


 空を飛ぶ強大な敵。

 それに対抗するためには、たとえば、[竜殺し]のような、手の込んだ兵器を用意しなければならないのだ。


 その兵器を、反乱軍はほとんど保有していない。

 デューク伯爵の城館にはいくつか配備されてはいるものの、それだけでは、100頭もの竜たちを相手にするには、まるで不足している。


 いくら兵士たちが竜と戦うという気概を持っているのだとしても、空を飛びまわる竜を攻撃するための武器がないのだ。

 弓兵や魔法で攻撃すること自体は可能だったが、普通の弓では竜の全身を鎧のように包んでいるうろこを貫くことは難しいし、竜に通用するほど威力のある魔法を使いこなせる魔術師は、数が少ない。

 魔物の中には飛行能力を持つ種族もいたが、残念なことに、今の反乱軍の中にはいなかった。


 これでは、たとえ反乱軍が今の10倍いたとしても、どうすることもできない。


「いや……。

 オレ1人で、行く」


 少しの間考え込んだエリックは、やがて、決意のこもった表情で、断固とした口調でそう言っていた。


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