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・第208話:「待ち伏せ:4」

・第208話:「待ち伏せ:4」


 斜面を愛馬に乗って駆け下ったガルヴィンは、突撃してくる反乱軍の姿を目にして恐怖で立ちすくんでいた教会騎士に馬を当て、がけ下へと突き落とすのと同時に斜面を駆け下って来るうちについた勢いを相殺すると、そのまま、他の教会騎士たちへ向かって突き進んでいった。


 強靭なガルヴィンの軍馬は、その全身を、馬鎧と呼ばれる装甲で守られている。

 また、それにまたがるガルヴィンも、上質な全身鎧で身を包んでおり、混乱しながらも反撃しようと槍や剣で攻撃して来る教会騎士たちの攻撃を、まったくよせつけなかった。


 人間の何倍もの質量を持った騎士の攻撃に、狭い道で右往左往していた教会騎士たちは、次々と跳ね飛ばされていった。

 ある者は燃え盛る炎の中に跳ね飛ばされ、また別の者は、がけ下へと落とされ、悲鳴と共に落下していった。


 蜘蛛くもの子を散らすように、ガルヴィンは突き進んでいく。

 その姿に、反乱軍の兵士たちは勇気づけられた様子で、さらに大きな喚声かんせいをあげて突撃した。


 ガルヴィンに続いてエリックも教会騎士たちの間に飛び込むと、魔王の力を得て強力になった腕力で聖剣を軽々と振るい、鎧の上から教会騎士たちを次々とぎ払って行った。


 さらに、反乱軍の歩兵たちが殺到してくる。

 その勢いは、まるで土砂崩れでも起こったかのようだった。


 戦う前は、10倍の敵を前に、少数で勝てるのかと、不安に思っていた者は多かった。

 しかし、今の反乱軍の兵士たちで、そんな不安を抱いている者は誰もいない。


 奇襲が完全に成功したことで、教会騎士たちはいくつもの小さな集団に分断され、逃げまどっている。

 それだけでなく、先頭をきって突っ込んでいったガルヴィンやエリックが、一方的に教会騎士たちを蹴散らしているのだ。


 この機会に、聖母から受けた仕打ちの報いを与えてやりたい。

 そう願った反乱軍の兵士たちは数多く、特に、残党軍の兵士たちは、意気盛んだった。


 特に血気盛んで勇猛なことで知られるドワーフ族の戦士たちなどは、その短い脚で駆け下っては他の種族に後れを取る、と、自ら丸まって斜面を転がり、まるで落石のようになって、まっさきに教会騎士たちの中へと飛び込んでいった。


 その反乱軍の猛烈な攻撃に、数で圧倒的に勝っているはずの教会騎士たちは、なすすべがなかった。

 いくつもの集団に分断された教会騎士たちは互いに連携を取ることもできず、混乱したまま次々と反乱軍に討ち取られていく。


 戦う戦意を失って、逃げ出そうとする教会騎士も多くいた。

 しかし、この狭い道では逃げ場などなく、そうやって背を向けた教会騎士たちを、反乱軍、特に残党軍の兵士たちは、喜んで討ち取って行った。


 特に豪快だったのが、リザードマンのラガルトだった。


「ハハハ!


 サスガハ、ガルヴィンドノ!

 ワシも、マケラレヌゾ! 」


 彼はガルヴィンの活躍を見て心底楽しそうに笑いながら、自身も得意の武器である大斧をブンブン振り回し、目の前にあらわれる教会騎士たちを吹き飛ばしてがけ下へと落としていく。


 その勢いに、教会騎士たちは炎上した馬車などを盾にして、隠れようとする。

 しかし、無駄なことだった。


 ラガルトはその怪力で大斧を振るい、邪魔な馬車をがけ下へと突き落とし、そして、その怪力に驚愕して、恐怖している教会騎士たちを、次々と叩き割って行った。


 教会騎士たちは、逃げ場も、隠れる場所もなかった。

 ラガルトや魔物たちが怪力で障害物となるものを片っ端からどけて迫ってくる上に、頭上には反乱軍の弓兵や魔術師たちがいて、どこにいても狙撃されてしまうからだ。


 それは、まさに蹂躙じゅうりんだった。

 反乱軍を圧倒するはずだったその数が災いし、混乱を収拾できないまま、教会騎士団は一方的に損害を増していく。


 持ち込んだ数々の兵器も、意味をなさなかった。

 その多くは使用される前に燃やされてしまい、生き残ったわずかな兵器も、接近戦では使用することができなかった。


 聖母から[祝福]をされた選ばれた者たちであるはずの聖騎士たちも、他の教会騎士たちと同じように、ほとんどその力を発揮できないまま倒されることとなって行った。


 さすがに聖母から選ばれた者たちだけあって、聖騎士たちは他の教会騎士たちよりも戦意が旺盛おうせいで、たとえ周囲に他に戦おうとする者がいなくともひるまずに立ち向かって来た。

 しかし、彼らは他の教会騎士とは異なった衣装を身に着けているために判別が容易で、反乱軍からの集中攻撃を受けやすく、その力を満足に発揮できないまま打ち倒されていった。


 中には、魔法学院の時と同じように、聖母から与えられた[祝福]の力を使おうとする聖騎士たちもいた。

 そんな聖騎士は、彼らが異形のバケモノに変異することをすでに知っている反乱軍によって特に集中的に攻撃され、見つけ次第、まっさきに倒されていくことになった。


 ほどなくして、10000名を数えた教会騎士団は、総崩れとなった。

 戦おうとする者よりその場から逃げ出そうとする者が多くなり、その戦意はほとんど失われていた。


 無事に逃げ延びた者は少なかった。

 反乱軍からしたら、向かって来るものを倒すことよりも、背中を見せて逃げようとする相手を倒す方が、ずっと、ラクだったからだ。


 そもそも、教会騎士たちに逃げ道はほとんどなかった。

 峠を越えたところまで進んでいた先頭集団は全滅し、中央を進んでいた主力部隊もほとんど全滅に近かった。

 わずかに逃げ出すことができたのは、隊列の後方にいて、まだ峠道の深くにまで到達していなかった者たちだけだった。


 生き残った教会騎士は、その、後方にいて難を逃れることのできた1000名ほどの小さな集団と、戦いの中で、武器を捨てて命乞いをし、幸運にも反乱軍の兵士たちから慈悲を受けることのできたわずかな者たちだけだった。


 やがて戦場からは、まだ戦おうとする教会騎士の姿は消え去った。

 残されたのは、炎上する馬車や兵器の群れと、無数の教会騎士たちの遺体だけ。


 圧倒的な勝利を得たエリックたち反乱軍は、勝利の喜びに湧き、その歓呼の声は、教会騎士たちの遺体が折り重なるように転がっている谷中にとどろき渡った。


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