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・第207話:「待ち伏せ:3」

・第207話:「待ち伏せ:3」


 エリックたち反乱軍は、静かに待ち続けた。

 教会騎士団の先頭集団が峠の頂上を越え、その主力部隊が頂上部分にさしかかり、教会騎士団が反乱軍の罠に深くはまる、その時を。


「今だ、落とせッ!! 」


 そして、そのタイミングが来た、と判断すると、ガルヴィンが大声で待ち伏せをしていた反乱軍の兵士たちに命令した。

 同時に、ガルヴィンの近くで待機していた魔術師が魔法で光と音を発する球を打ち上げ、教会騎士団が進んで来る道に沿って待ち伏せしていた反乱軍の兵士たちに攻撃開始を知らせた。


 命令が伝わるのと同時に、兵士たちは即座に隠れていた場所から姿をあらわし、打ち上げられた魔法の球に気づいてざわついている教会騎士団の頭上から、岩や丸太などを蹴り落とした。


 教会騎士たちは、反乱軍が待ち伏せていて、攻撃をしかけてきたことに気づき、慌てて臨戦態勢を整えようとしていた。

 しかし、彼らが進んでいた道は細長く曲がりくねったもので、戦闘隊形を取ろうとしてもうまくできず、前後にも他の教会騎士たちがいるために身動きもできず、混乱が広がっていくだけだ。


 そこへ、反乱軍が蹴り落とした岩や丸太が落ちてくる。

 逃げ場のない教会騎士たちは次々と岩や丸太の直撃を受け、悲鳴をあげながらがけ下へと転落していった。


 反乱軍の攻撃は、これだけではない。

 いくつものか所で待ち伏せを受け、道の上に転がって来た岩や丸太で前後を塞がれ、身動きの取れなくなった教会騎士たちに向かって、反乱軍は頭上から矢や魔法による集中攻撃を加えた。


 長い行軍隊形で進んでいた教会騎士たちは、狭い道をできるだけ短時間で突破できるよう、できるだけ密度を高めて行軍してきていた。

 それは、反乱軍がこうして奇襲をしかけて来ることを警戒してのことだったが、その配慮が逆に彼らにとってのあだとなったようだった。


 反乱軍は、もっとも基本的な攻撃魔法の1つであるファイヤーボールや、着弾と同時に爆発を起こす魔力弾による攻撃を浴びせただけでなく、放つ矢の先端に爆薬を詰めたものも用い、密集していた教会騎士たちを次々と薙ぎ払って行った。


 爆発によって、さらに多くの教会騎士たちががけ下へと落ちていく。

 それに加えて、ファイヤーボールや爆発の炎が教会騎士たちの衣服や、物資などを満載した馬車に引火し、燃え上がった。


 教会騎士たちは、もはや、戦闘態勢を整えるどころではなかった。

 彼らは突然の奇襲によって混乱し、統制を失い、そして、燃え上がった炎と頭上からの攻撃から逃れようと、右往左往、逃げまどう。


 だが、反乱軍は、攻撃の手を緩めなかった。


「よォシ!

 このまま、一気に殲滅せんめつだ!


 皆の者、ワシと、エリック殿に、続けェッ! 」


 眼下で広がる教会騎士たちの阿鼻叫喚あびきょうかんを目にして力強くうなずいたガルヴィンは、そう言ってランスをかまえると、脚が太くたくましい彼の愛馬にまたがり、雄叫びをあげながら斜面を駆け下っていく。


「オレに、続け! 」


 聖剣を手にしたエリックが馬にまたがってその後に続くと、魔術師や弓兵が攻撃する間じっと合図を待っていた反乱軍の騎兵と歩兵が一斉に喚声をあげて教会騎士たちへと襲いかかった。


 奇襲を完全なものとするには、時間が重要だった。

 なにしろ、相手はこちらの10倍もの兵力を誇っているうえに、聖母が自身の身辺を守らせるために聖都に温存していた精鋭たちなのだ。


 今は反乱軍の待ち伏せを受けて混乱し、落ちてきた岩と丸太、そして燃え上がった炎によっていくつもの小さな集団に細分化されて分断されてしまっているが、その混乱から立ち直ってしまえば、その大きな総兵力によって反乱軍に反撃に出てくるかもしれない。


 教会騎士団は、逃げ道のない、狭く細長い峠道に誘い込まれ、罠にはめられている。

 しかし、逃げ道がないという点では、エリックたち反乱軍も何も変わらないのだ。


 後ろには、斜面。

 前には、教会騎士団。


 バラバラに逃げてもデューク伯爵の城館へと無事にたどり着ける保証はないし、エリックたちは前方の教会騎士団をなんとしてでも撃破しなければ、聖母と対峙する前に反乱を鎮圧されてしまうことになる

 だから教会騎士団が混乱から立ち直る前に突撃して、白兵戦に持ち込み、徹底的に叩き潰さなければならなかった。


 ガルヴィンが1000名の精鋭だけを選んで待ち伏せ攻撃をしかけたのは、この場所の狭さを知っていて、1000名を待ち伏せさせるので精いっぱいだとわかっていたからだった。

 そして、その狭さを生かすことによって、はじめて、戦力で圧倒的に劣勢な反乱軍にも、勝機が生まれていた。


 斜面の上から射撃を続ける弓兵や、魔法による攻撃を加え続けている魔術師たちを残し、700ほどの兵士たちが、急斜面を駆け下っていく。


 エリックは乗馬も十分に鍛錬していたが、しかし、これだけの急斜面を一気に駆け下ったことは、経験がなかった。


(本当に、降りて行けるのかッ!? )


 今さらではあるものの、斜面を馬に乗って駆け下るエリックは不安を覚えずにはいられなかった。


 もっとも、魔王と融合した今のエリックならば、落馬した程度でどうなるわけでもないだろうが、それでも怖いと思うのは、生き物としての本能だからどうしようもない。


 先頭を駆け下っていくガルヴィンは、躊躇ちゅうちょがなかった。

 彼の愛馬は特に足腰が強靭な馬であるらしく、急斜面でも少しもバランスを下さずに進んでいく。


 そのガルヴィンの後姿を追いかけるように駆け下って行くと、エリックが乗っている馬も、問題なく斜面を駆け下ることができるようだった。


 どうやらガルヴィンは、きちんと騎馬が駆け下れる斜面を選んで、兵士たちを伏せさせていたらしい。

 そのことがわかると、エリックは覚悟を決め、聖剣を手にして、教会騎士たちに向かって突撃していった。


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