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・第190話:「師匠と弟子:3」

・第190話:「師匠と弟子:3」


 ガルヴィンの刺突を受けきったエリックは、反撃に転じた。

 ガルヴィンが突き入れてきた何度目かの刺突をエリックはツヴァイハンダ―の刀身の根元の方で受け、そして、つばとは別に、刀身の根元の刃のない部分を握った時に滑り止めとなるように設けられていた突起に、ガルヴィンの剣を引っかけ、ぐりん、とねじるような力を加える。


 そうしてガルヴィンの剣を絡め取り、ガルヴィンに隙を作ったエリックは、そのまま柄頭でガルヴィンへと殴りかかった。

 時間をかければガルヴィンは態勢を立て直してしまうから、できるだけ素早く追撃を加え、ガルヴィンの態勢をさらに崩そうとしたのだ。


 ガツン、と、勢いよく、エリックのツヴァイハンダ―の柄頭がガルヴィンの兜を叩いた。

 十分な厚みを持った鋼鈑でできたガルヴィンの兜を貫くことなどできはしないが、その打撃はわずかにガルヴィンをのけぞらせた。


 そしてエリックは、そのまま、ガルヴィンに自身の全身を使って体当たりを加える。


 これは剣を使った決闘ではあったが、必ずしも、剣を使わなければならないというルールはない。

 真剣勝負の、実戦だ。

 使えるものはなんでも使うし、体当たりだろうと、自身の拳だろうと、なんでも使う。


 エリックはガルヴィンの態勢を完全に崩して、ここで決着をつけるつもりだった。

 だが、その目論見は外れてしまう。


(ビクとも、しないッ!!? )


 体当たりした瞬間、エリックは、自分が巨大な岩石の塊にぶつかったのではないかと、そう錯覚してしまっていた。

 ガルヴィンはエリックの体当たりを受けてもこゆるぎもせず、1歩たりとも動かなかったからだ。


ガルヴィンが、重厚な全身鎧を身に着けているというだけではない。

 その鍛え上げられた筋肉ダルマのような肉体が、エリックの全体重を使った体当たりを押しとどめてしまったのだ。


「足腰の鍛え方が足りませんぞォ、若様ァ! 」


 エリックに向かってそう叫んだガルヴィンは、その全身にぐっと力をこめ、エリックを押し返して来た。


 まるで、巨大な闘牛を相手にしているような感覚だった。

 ぎっしりと筋肉の詰まった塊がエリックを押し出し、エリックは思わず、数歩、後ろに下がってしまう。


「デリャァッ!! 」


 そこへ、雄叫びとともに飛んできたのは、ガルヴィンの拳だった。

 しかも、金属製のガントレットにおおわれた拳だ。


 咄嗟とっさにエリックは左腕で自身の顔をかばったが、ガルヴィンの拳の威力はエリックの腕を貫通した。


 頭が、クラクラとする。

 衝撃と共に頬に熱い感覚が広がり、口の中に血の味が広がったから、きっと、エリックは口の中を切ってしまっただろう。


 だが、エリックは動きを止めるわけにはいかなかった。

 エリックは一度間合いを取って立て直すために素早くその場に転がり、ツヴァイハンダ―を身体の中心に抱え込んでグルグルと回転して、ガルヴィンから距離を取って立ち上がってかまえをとりなおした。


 ガルヴィンは全身鎧を身に着けた重武装だったが、エリックは、比較的軽装だった。

 もちろん、革と鋼鈑を組み合わせた、軽量で動きやすいタイプの鎧を身につけてはいるものの、なるべく動きを阻害しない程度にとどめてある。


 すべて、素早く動き回るためだ。

 エリックはガルヴィンの強さは良く知っているし、中途半端な攻撃はすべて防がれるとわかっているから、なるべく動き回って隙を作ろうと考えていた。


 しかけるなら、今だ。


 エリックは、ガルヴィンがエリックの方にようやく向き直るのを目にしながらそう判断すると、ガルヴィンの死角に向かって走り込んだ。


 ガルヴィンは、兜を身に着けている。

 面頬をはねあげて視界を確保してはいるものの、それでも視界は制限を受けるし、周囲の音も聞こえにくくなっている。


 当然、死角は大きかったし、そこに入り込まれてしまっては対処が難しかった。


「ぬぅんッ!! 」


 エリックがガルヴィンの死角に入りこもうとしている。

 一瞬だけとらえることのできたその動きでエリックの意図を見抜いたガルヴィンは、そうかけ声を発するのと共に、ツヴァイハンダ―を大きく横なぎに振り払った。


 ガルヴィンの死角に入りこんだエリックは、ガルヴィンに攻撃をしかけて来るはずだ。

 だったら、ツヴァイハンダ―の間合いの中に入り込んでいるはずで、見えていなくともガルヴィンがツヴァイハンダ―を振るえば、エリックにも届くはずだった。


(オレの、計算通りッ! )


 そしてエリックは、ガルヴィンがそういう行動を示して来るだろうということを、予想していた。


 ブゥン! っと低く空気を鳴らしながら振りぬかれたガルヴィンのツヴァイハンダ―をエリックは身軽にジャンプして回避した。

 できるだけ動きを阻害しない、軽い鎧を身に着けていたのは、ガルヴィンの死角に入りこむためでもあったが、ガルヴィンが悪あがきで横なぎに振るって来るはずのこの一撃をかわすためでもあったのだ。


 着地したエリックは、ツヴァイハンダ―を振りかぶる。

 そして、ガルヴィンが、自身が横なぎに振るった剣に手ごたえがなかったことで慌ててエリックの方を振り返った直後。

 エリックはガルヴィンを正面から攻撃できる状態になるのに合わせて、ツヴァイハンダ―をガルヴィンの兜に向かって振り下ろした。


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