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・第184話:「騎士・ガルヴィン:4」

・第184話:「騎士・ガルヴィン:4」


 まずは、話しをさせて欲しい。

 ガルヴィンは完全に警戒を解いたわけではなかったが、ひとまず、そのエリックからの願いに応じてくれるつもりであるようだった。


「さて、若様。


 ワシとしては、いろいろ、よからぬウワサも耳にしておりますが、いったい、今宵こよいはどのようなお話で、こんなところまでおいでになったのですかな? 」


 ガルヴィンの気合の声を聞きつけ、なにごとかと確認に集まって来た人々を、「いや、少々剣の手入れをしていたのだが、あまりにもうまく仕上がったので、ちょっと、試し斬りをな」と言って、わざわざ用意した真っ二つに斬られた古いイスを見せて追い払った後。

 ガルヴィンはイスに腰かけたエリックに向かって、その対面に腰かけながら、一見すると穏やかな様子だがその内心では強く警戒しているような油断のない表情で、エリックの用件を問いただした。


「それに、その、エルフ。


 確か、以前、この城館にお戻りになった時にも、一緒にいた者でしたな。

 暗がりであったために気づかなんだせいで、危うく斬り捨てるところでしたわい。


 若様は、今でも、魔王軍の残党らと共に行動しておるのですかな? 」


 ちらり、とガルヴィンから視線を向けられたセリスは、憮然ぶぜんとした表情で「フン」と鼻を鳴らして、背中を壁にあずけて立ったまま、そっぽを向いた。

 長年愛用して来た短剣をダメにされてしまったことを、セリスは根に持っているようだった。


 それだけではなく、セリスは、ガルヴィンが部屋にいることに気づけなかったことを、かなり悔しがっているようだった。


 ガルヴィンは、セリスとエリックの接近に、敏感に気づいていた。

 気づいていたからこそ、エリックたちが部屋に入って来る前に、事前に蝋燭ろうそくの火を消して部屋の明かりをなくし、暗がりの中に隠れて、侵入者たちを待ちかまえていることができたのだ。


 エルフの偵察兵スカウトとしての長い経験を持ち、その間につちかった技術で、しかも手抜きや油断もせずにいたのに、ガルヴィンに自身の存在を気づかれ、逆に不意を突かれる形となってしまったことに、セリスは屈辱くつじょくを覚えているらしい。


「オレは、勇者として、使命を果たした。

 それなのに、聖母たちから裏切られたんだ。


 だから今は、彼女たち、残党軍と行動を共にし、聖母を倒すために協力している」


 ガルヴィンの不信感まるだしの問いかけに、エリックはそう言って、はっきりと肯定した。


「デューク伯爵から、内々に、なにがあったかは聞かされておりましたが……。


 正直言って、ワシには、なにが真実やら、わからんのじゃよ」


 今も、残党軍と行動を共にし、聖母を滅ぼすべく戦っている。

 そうはっきりとエリックに肯定されたガルヴィンは、難しそうな顔で身体の前で腕組みをした。


「まずは、ガルヴィン、オレの見てきた真実を話させてくれ。


 それが正しいかどうかは、すべての話を聞き終えたとところで、ガルヴィン自身がどう思ったかで判断して欲しい」


 そんなガルヴィンのことをまっすぐな視線で見つめながら、エリックはそう前置きをすると、さっそく、ガルヴィンにこれまでの出来事を明かし、この城館を取り戻すために協力してもらえるよう、説得を開始した。


────────────────────────────────────────


「……単刀直入に申しましょう。


 ワシは、今の若様のことは、信用できませぬ」


 ガルヴィンは、エリックの話を最後まで聞いてくれた。

 しかし、その返答は、エリックやセリスが期待していたようなものではなかった。


「ガルヴィン、どうしてだ? 」


 エリックは、ショックを隠せない表情で、ガルヴィンに、彼がエリックを信用できないと言った理由を問いかけていた。


 ガルヴィンは頑固だったが、真実を話せば、きっと、協力してくれる。

 エリックはそんなふうに思っていたのに、ガルヴィンから、エリックに協力できないと言われてしまったのだ。


「ワシは、いろいろなウワサを、聞いております」


 ガルヴィンは腕組みをしたまま、しかめっ面で、自分がエリックを信用できないと言ったワケを話し始める。


「ワシは、騎士として生きるしか能のない人間なんじゃ。

 剣こそがワシの生きがい、剣こそがワシの生きる道で、飛び交う様々なウワサの中で、なにが真実かを導くようなことは、はっきりと言って苦手だ。


 じゃが、そのウワサの中には、若様。

 あなたが、[魔王に身体を乗っ取られた]というものもある」


 そのガルヴィンの言葉に、エリックは悔しそうに唇をかんだ。

 それは、ヘルマンが、エリックを人々から孤立させるために流したウソだったからだ。


「ワシには、判断できん。


 今の若様が、本物の若様か。

 それとも、若様をとりこんだ、魔王なのか。


 じゃから、ワシは、今、この場で、なんの疑いもなく若様の言葉を信じることは、できん」


 この場で、エリックしか知らないはずのことを、ガルヴィンに話せばいいのか。

 どうやら、そう簡単にいくような状況ではなかった。


 もし、魔王がエリックの身体を乗っ取り、エリックをとりこんだのだとしたら、エリックにしかわからないことを魔王が知っていたとしても、なにも不思議ではないからだ。


 どうすればガルヴィンに、エリックが、本物のエリックであることを信じてもらうことができるのか。


 険しい表情で悩みこんだエリックは、やがて、ガルヴィンが油断せずに近くに置いたままの剣を見ると、なにかを思いついたようにうなずいていた。


 そしてエリックは、ガルヴィンのことをまっすぐに見つめると、真剣な表情で言う。


「なら、ガルヴィン。


 オレと、1対1で、戦ってみて欲しい」


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