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・第182話:「騎士・ガルヴィン:2」

・第182話:「騎士・ガルヴィン:2」


 デューク伯爵の城下には万を超す人々が住んでいるが、ウワサというのは広まるのが早いもので、エリックたちが敵情を偵察している間にほとんどの人々がそのウワサを耳にしたようだった。

 尾ひれがついて様々な流言が飛び交うことにもなったが、エリックとしては、人々が聖母の主張する[真実]に疑問を持ってくれただけでも、十分な成果だった。


 そして、ガルヴィンや、デューク伯爵に仕えていた人々がどこにいるのかも、つかめた。

 どうやら、1度は教会騎士たちの監視下に置かれたガルヴィンたちだったが、少し前から「聖母の命だ」として駆り出され、以前のように城の守りにつかされたり、雑用をさせられたりしているらしい。


 デューク伯爵やエリックに近い人々として聖母たちに警戒されていたガルヴィンたちが監視を解かれたのは、エリックの故郷を占領している教会騎士たちが、思った以上に少数だということに原因がある様子だった。


 残党軍の野営地を攻撃した時に加えて、魔法学院で起こった惨劇さんげき

 その出来事によって、聖母の直接の支配下にある軍事力である教会騎士団は、かなりの損害を受けていたのだ。


 エリックの故郷には最初、残党軍の野営地を攻撃するために数千の教会騎士たちが集結していたが、その教会騎士たちは実際の戦場で消耗し、そして、魔法学院で、クラリッサを救いに来るはずのエリックたちを待ち伏せするために集まった残存兵力は、聖騎士たちの暴走によってさらなる打撃を受けた。


 それによって、教会騎士団は態勢を立て直すために撤退せざるを得なくなり、エリックの故郷には占領を維持するための少数の兵力だけを残して、聖都へと帰還してしまったのだということだった。


 また、ヘルマンの仕組んだ罠かもしれない。

 エリックはそう警戒したものの、どうやら、教会騎士たちが少ないというのは、本当であるようだった。


 ウワサを広めるために、旅人や承認をよそおって潜入した者たちからの報告によれば、城館と城下町にいる教会騎士たちは、せいぜい500ほどに過ぎないのだという。


 意外なことに、今のエリックたちよりも少数なのだ。


 だから教会騎士たちは、ガルヴィンたちを駆り出した。

 聖母たちとしては、反逆者であるエリックに連なる者として、ガルヴィンたちを[同罪]とし、見せしめにしたいと、あるいは、エリックに対する人質にしたいと考えていたのかもしれなかったが、その思惑は教会騎士団が受けた大打撃によって実行できなくなったようだった。


 エリックにとっては、好都合だった。

 教会騎士たちに軟禁なんきんでもされていたら手の出しようもなかったが、監視を解かれてこれまで通りに城で働いているというのなら、説得の機会を得られるかもしれない。


 きっと、ガルヴィンにも、城下町で広がっているウワサが届いているころだろう。

 説得をする準備が整ったと思ったエリックは、日が落ちるのを待ってから、城館への潜入を決行することにした。


────────────────────────────────────────


 潜入は、スムーズに成功した。

 以前、デューク伯爵に会うために潜入した時とまったく同じ方法が、そのまま通用したからだ。


 教会騎士たちによって占拠されてから、城下町の外側に教会騎士の駐屯地が作られるなど、エリックの故郷は大きく手が加えられてはいたが、城館の構造には手つかずであったらしい。

 エリックは再び、鉤縄を使って城館へと潜入し、うまく内部へと入り込むことができた。


 城館には、およそ、100名ほどの教会騎士が入っているということだった。

 500名の教会騎士のうち、100名が城館の支配を続けるために割かれ、残りの400名が、城下町を支配し続けるために、駐屯地に残っているのだという。


 だとすれば、ガルヴィンを味方につけることさえできれば、城館を奪還することは簡単なはずだった。

 なぜなら、城館には少なくとも200名程度の、デューク伯爵に仕える兵士たちが常駐していて、ガルヴィンさえエリックの味方になってくれればその兵士たちもそっくり味方になってくれるはずだからだ。


 状況は、エリックが思っていたよりもずっといい。

 城館の警備はエリックが知っていたころと変わらない配置だったし、教会騎士たちも人数が少なく、セリスの手助けがあれば、闇にまぎれ、気づかれずに城館の奥深くへと入り込むことは容易だった。


やがてエリックは、ガルヴィンの部屋の近くにまでやってきていた。


 騎士であるガルヴィンは、デューク伯爵に仕えてはいるが、その中で、自分の領地というものを持っている。

 数百人を数える領民もいて、その領民たちが住んでいる村に、ガルヴィンは自身の屋敷を持ってもいる。


 だが、ガルヴィンは、デューク伯爵が死んで以来、自分の屋敷には帰らず、デューク伯爵の城館の中に、デューク伯爵から与えられた部屋にずっと住んでいるのだという。


 それは、教会騎士たちによる監視下に置かれ、屋敷に戻ることが許されなかったからだという理由もあるのだろうが、デューク伯爵がいなくなった今、デューク伯爵に代わってガルヴィンが人々をまとめあげなければならないという理由もあるだろう。


(昔は、この廊下に立つのが、怖かったな)


 エリックは、ガルヴィンの部屋へと続いている、昔となにも変わらない廊下の姿を見て、なつかしい気持ちになる。

 厳しいガルヴィンの部屋の前を通り過ぎる時、エリックはいつも緊張したものだった。


 だが、今は不思議と、早くガルヴィンに会いたいという気持ちでいっぱいだった。

 ガルヴィンの厳しさが、エリックへの優しさだったのだと、今のエリックは気がついているからだ。


「ここが、ガルヴィンの部屋だ」


 最低限の明かりしかなく、薄暗い廊下を、音をたてないように慎重に進んだエリックは、ガルヴィンの部屋の前にたどり着くと立ち止まり、セリスの方を振り返った。


「私が、先に部屋の中を確かめてみる」


 するとセリスはそれが自分の当然の仕事だといった雰囲気でそう言い、エリックと位置を代わって、部屋の中の物音に耳を澄ませた。


「……静か。


 今は、誰もいないみたい」

「なら、部屋の中で待たせてもらおう。

 確か、隠れていられるような場所も、あったはずだから」


 中にガルヴィンがいないようだとセリスから教えられたエリックは、そう言ってうなずいていた。


 きっと、ガルヴィンは夜間の見回りにでも行っているのに違いない。

 エリックはそんなふうに、軽く考えていた。


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