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・第178話:「檄(げき:2)」

※作者より

 いつもお世話になっております。熊吉です。


 本作に登場する魔術師、クラリッサのイメージイラストを投稿させていただきました。

 https://www.pixiv.net/artworks/98676463

 にて、ご覧いただけます。


 今後も頑張らせていただきますので、どうぞ、よろしくお願いいたします。

・第178話:「檄(げき:2)」


 人間は、聖母の奴隷どれい


 いや、[家畜]に過ぎない。


 その言葉を、エリックは何度も強調した。


 人々に、気づいて欲しかったからだ。

 聖母によって支配され、魔王軍という[作られた]脅威に目がくらんで見えなくなっていた、聖母の支配の残虐さに。


「聖母は、オレたち人間を、加護するなどと言っている!

 だが、実際には、そんなこと思っちゃいないんだ!


 聖母は、ただ、自分を偉くしてくれる、かしずいてくれる、しもべが欲しいだけなんだ!


 みんなも、見ただろう!?

 あの、聖騎士たちが変異した、おぞましいバケモノの姿を!


 あれこそが、聖母の本性だ!


 みんな、聖母から与えられる、[祝福]を知っているだろう!?


 あの祝福が、聖騎士たちを、あんなバケモノに変えてしまったんだ!


 聖母は、オレたち人間に、加護を与えていたんじゃない!

 オモチャにしていたんだ!


 本当は、不老不死になる力さえ持っているのに!

 それを与えることなく、その代わりに、オレたち人間をもてあそんできたんだ!


 この、街の惨状を見てみろ! 」


 エリックは城壁の上で身振りを大きくし、背後に広がる街の光景を指し示す。


 人々には、城壁でさえぎられて、街の様子などほとんどみえないはずだった。

 しかし、誰もが、その惨状を、詳細に思い出すことができるだろう。


 ここに集まっている人々はみな、聖騎士から逃げまどい、家を破壊され、命からがら、どうにか魔法学院に逃げ延びてきた人々ばかりだからだ。


「これが、聖母の正体だ!


 聖母は、自分を心の底からあがめ、信仰していた教会騎士や、聖騎士でさえ、ムシケラとしか思っちゃいないんだ! 」


 エリックが人々に伝えた、[聖母の正体]。

 その話の内容をまだ理解しきれていない人々は多くいたが、しかし、エリックの最後の一言は、その心の奥底にまで染み込んだだろう。


 聖母が、自分たちを、人間を、どんなふうに扱ったのか。

 その実例を、人々はみな、知っているからだ。


「敵は、魔物でも、亜人種たちでもない!

 本当は、オレたちは、争う理由なんて持っていない!


 オレは、勇者として戦い、務めを果たし、魔王・サウラと戦った!

 だが、聖母はオレを裏切って、オレを殺そうとした!


 だからオレは、今度は、魔王と共に、聖母に戦いを挑むつもりだ!


 聖母による、偽りの、残虐な支配を終わらせるために!

 聖母の支配下にある、だまされたままの人々を救うために!


 もはや、魔王も、魔王軍も、オレたち、人間の敵じゃないんだ!

 オレたちがあれだけ戦っていたのは、すべて、聖母が自分のためにそう仕向けたからだったんだ!


 こんな戦いは、もう、終わりにしよう!

 終わりにして、オレたちの本当の敵、聖母を、倒すために力を合わせるんだ!


 そうして、この世界を、自由を、そして平和を、取り戻そう!


 オレは、勇者のエリックだった!

 だが、今からオレは、魔王として立つ!


 聖母を倒し、この世界を、人々を解放する、反逆者として、オレは、みんなの先頭に立って戦う! 」


 そしてエリックは、そう叫ぶと、自身の手に持った聖剣を、天に向かって高々とかかげた。


「オレは今、2つの力を持っている!


 1つは、聖母から与えられた、勇者としての力!

 そしてもう1つは、オレの身体の内側に存在し、今は、オレと融合した、魔王・サウラの力!


 この、2つの力!

 そして、ここにいるみんなの力が合わされば、必ず、聖母を倒すことができる!


 オレが、オレたちが、勝利を導くんだ!

 聖母の偽りの支配を終わらせ、オレたち自身の手に、オレたち自身の運命を決めていく、その権利を取り戻すために!


 どうか、決心して欲しい!

 オレと共に、聖母と戦って欲しい!


 真に倒すべき敵、それは、魔物でも、亜人種たちでもない!

 それは、聖母なんだ! 」


 そして、エリックは言葉を止めた。


 人々は、シン、と静まり返っている。


 人類の守護者であると信じてきた聖母が、実は、人間をただの[家畜]として、もてあそんできた。

 その真実は、ここにいる人々が目にした現実を見れば、その通りだと信じざるを得ないことだった。


 だが、人間はみな、幼いことから、聖母を支える教会によって、聖母を信仰するように教えを受けて成長してきたのだ。


 自分が、これまでに信じてきたもののすべて。

 それは、世界そのものと言っていい。


 それがウソだったと知っても、すぐにはその事実を受け入れて、聖母に歯向かうという決断を下すのは、人々にとって難しいことだった。


「そうだ!

 聖母を、倒そう!


 そして、聖母の支配を終わらせよう! 」


 だが、静まり返っていた群衆の中から、誰かがそう叫び声をあげる。


 すると、その言葉に触発されたように、聖母を倒そうと訴えかける人が続出していく。

 そしてその「聖母を倒そう」「聖母こそ真の敵だ」と叫ぶ声は、どんどん、人々の中に広まって行き、やがて、聖母を倒すという意思は、この場に集まった人々の共通の願いへと変化していった。


 エリックのげきが、人々の心を大きく動かしていた。


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