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・第177話:「檄(げき:1)」

・第177話:「檄(げき:1)」


 まずは、エリックの故郷を聖母の支配から解放し、魔法学院と合わせて解放区とする。

 その方針を定めたエリックたちは、慌ただしく動き始めた。


 エリックたちには、とにかく、時間がない。

 のんびりしていては聖母たちがどんな動きを見せてくるかわからないという問題があり、内側でも、魔王軍の残党と人間という、今まで戦争という関係しか知らなかった2つの勢力同士が、安定して協力関係を維持できるのかという懸念けねんがあるからだ。


 ショック状態にある人々をまとめあげ、聖母への反抗の力とする。

 そのためにエリックは、解放作戦を開始すると決めた次の日、魔法学院に収容された避難民を前に、城壁の上にのぼって、聖母の罪を明らかにし、抵抗することを呼びかけた。


 それは、一晩かけて話し合い、作りあげた、聖母を倒すために人々を導くための、ストーリー。

 真実を織り交ぜた、偽りだった。


「みんな、聞いて欲しい!


 聖母が、これまでに犯して来た、その罪を!

 オレたち人間は、聖母にずっと、だまされて来たんだ! 」


 魔法学院中に、建物の中に入りきらずにあふれるように集まっていた人々に対し、エリックは、クラリッサの魔法の力ですべての人々に自分たちの声が届くようにしながら、呼びかける。


「聖母は、一千年以上昔に、[神々から地上の支配を任された]と言い、オレたち人間を、この世界を、我が物顔で支配して来た!


 だが、それは、ウソだったんだ!


 聖母は、神からこの世界をゆずり受けたんじゃない!

 神々をだまし、争わせ、弱らせたところを襲って、神を殺し、自分自身の手で奪い取ったんだ!


 そして、聖母はオレたち人間を、その、奴隷どれいとして!

 いや、[家畜]として!


 支配するべき正当な理由もないのに、この世界を支配して来たんだ! 」


 エリックが城壁の上から呼びかけていることに気づいた人々が、みな、驚いたような顔でエリックのことを見上げていた。


 その表情は、驚きで、きょとんとしている。

 エリックの言葉をまだ半ばも理解できていないような、ほうけたような顔をしている人々がほとんどだ。


「聖母は、かつて、1人の魔術師に過ぎなかった!

 その力は強大で、いつしか、不老不死のすべさえ手に入れたが、その正体は、神殺しの大罪人であり、オレたち人間をずっとだまし続けてきた、詐欺師だった!


 力を得た聖母は、増長し、自分を、神に代わる存在としようと企んだ!

 そして、そのために、オレたち人間を、聖母に支配される存在として、[家畜]同然の存在へと変えた!


 そして、そんなオレたち人間が、聖母の正体に気づき、反攻することを防ぐために、聖母は、その支配に従わなかった魔物や亜人種たちを敵とするように仕向け、オレたち人間を戦いに駆り立てた! 」


 人々に、少しでもエリックの気持ちが伝わるよう。

 聖母の支配へと抵抗しようという気持ちに、火がつくよう。


 必死に呼びかけたエリックは、そこで言葉を区切ると、手招きをして、ケヴィン率いる残党軍の中で、できるだけ年配に見えるエルフを自身の隣へと呼びよせた。


「その事実は、ここにいる、エルフの長老が教えてくれた!


 みんなも、知っているはずだ!


 このエルフ族は、オレたち人間よりはるかに長命な種族で、偉大な魔法使いであり、叡智えいちを伝えてきた人々だ!


 そのエルフ族は、聖母がかつて、神殺しという大罪を犯し、この世界の支配権を強奪したことを、知っていた。


 知っていたからこそ、彼らは聖母の支配に抵抗し、そして、魔王軍として、聖母の支配に反抗して来たんだ!

 彼らは、聖母という偽りの存在からの自由を望んで、戦っていたんだ! 」


 エルフの、長老。

 それは、真っ赤なウソだった。


 確かに、エリックがこの場に呼び寄せたエルフは、残党軍の中でもっとも長く生きてきたエルフだった。


 しかし、彼が生きてきた年月は、せいぜい、300年ほど。

 とても、1000年以上昔の歴史など知らないはずで、とても、エルフ族の中では[長老]などと呼べる年齢ではなかった。

 ただ、残党軍の中では最年長である、というだけのことだった。


 だが、人間は、エルフが長命であることは知っていても、その外見と年齢がどれほど比例しているのかは知らないことがほとんどだ。


 エリックたちの予想していた通り、白髪交じりではあるものの、人間でいう50代から60代ほどにしか見えないそのエルフの姿を見て、人々はそのエルフが、1000年以上昔のことを知っている、長老クラスのエルフであると勘違いした様子だった。


「聖母は、正当な理由なく、オレたち人間を支配して来た!


 それも、[家畜]として!

 聖母は、オレたちを、自分を[偉く]してくれる[僕しもべ]として必要とし、オレたち人間をそんな存在にし続けるために、オレたち人間を、だまし続けて来たんだ!


 あの、魔王軍との戦いも!

 すべて、聖母が、オレたち人間をだまし続けるために、そうなるように仕向けたものだったんだ!


 オレたちは、本当は、魔物や、亜人種たちと、戦わなければならない理由なんて、本当はなかったんだ!


 すべて、聖母によって、聖母の支配を続けるために、オレたちをだまし続けるためにつかれてきた、ウソだったんだ! 」


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