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・第173話:「明かせぬ秘密:2」

・第173話:「明かせぬ秘密:2」


 サウラは最初、聖母に与えられた役割ロールを、演じるだけの存在だった。

 だが、サウラのことを信じ、共に戦う魔物や亜人種たちの記憶を、想いを知る内に、その存在は徐々に変質していった。


 聖母のやっていることを、許せない。

 サウラは、そう感じるようになっていったのだ。


 サウラに与えられた使命は、人類の滅亡の危機という脅威きょういを演じ、そして、その脅威きょういを、聖母の加護を与えられた勇者が打ち倒すという、物語ストーリーを演じることだった。

 サウラはあくまで人類を滅ぼそうとして[見せる]だけであって、本当に人類を滅ぼし、聖母を倒すことなど、考えてはいなかった。


 だが、いつしかサウラは、真剣に、聖母を倒そうとし始めた。


 聖母によって利用されるために、何回目かの復活をさせられたサウラは、その時、聖母に反逆することを決意した。

 聖母によって作られた自分自身が聖母の[道具]として扱われることはまだしも、魔物や亜人種たちをだまして戦わせ、本当は勝つつもりなどない戦争に向かわせることに、疑問と、罪悪感を覚えたからだ。


 聖母によって作られた[道具]であったサウラには、元々、そんな感情はなかった。

 しかし、戦いで犠牲となって行った者たちの記憶が、サウラにその感情をもたらした。


 反逆を決意したものの、サウラは、何度聖母に挑んでも、勝つことはできなかった。

 そもそもサウラは、聖母には絶対勝てないように、勇者によって必ず滅ぼされるように、そのように調整されて作られた存在だったからだ。


 それだけではなく、ダメ押しに、勇者の側には、聖女もいる。

 その本来の目的が用済みとなった勇者の始末にあるのだとしても、勇者を滅ぼせるだけの、勇者と同等の力を持った聖女・リディアは、サウラにとって絶対的な[壁]として立ちはだかった。


 その状況が変わったのは、エリックの前の代の勇者と戦った時のことだった。


 その戦いの時、魔王・サウラは、これまで自身がだまして来た魔物と亜人種たちの中に、同志と呼べる者を得たのだ。


 その同志こそ、あの、魔王城の谷底で、エリックに黒魔術を施し、サウラを復活させようとした、黒魔術士だ。

 聖母たちとの戦いによって長命であるはずのエルフもその多くが寿命をまっとうすることができずに倒れていく中、運よく生き残り、力をたくわえてきた黒魔術士は、くり返される戦いの中にある法則性があることに気づいた。

 そして黒魔術士は、魔王・サウラという存在の正体にも、気づいたのだ。


 しかし、黒魔術士はサウラが真剣に聖母を倒そうとしていることを知ると、同志となった。

 絶対に信頼のおけるごく一部の者にだけ真実を伝え、次の[演出]が行われる時に備えて、準備をしてきたのだ。


 サウラが、聖母の作り出した[道具]であるという真実。

 それを一部の者たちにだけ伝えたのは、ケヴィンが、「この事実は受け入れられない」と言ったのと同じ理由だ。


 エリックに施された、黒魔術、

 それは、サウラの正体を知り、同志となった黒魔術士が、失われたはずの古代の魔術を、聖母が用いた不老不死の術を、生命を操る禁断の魔術を調べ上げ、魔王・サウラに、聖母の[道具]という役割から脱するための力を与えるために練り上げられたものだった。


 それは、あくまで最後の手段だった。

 サウラの同志たちはみな、次の戦いで必ず聖母を打ち倒すのだと決意し、長い年月をかけて密かに準備をして、その時を待っていた。


 そして、聖母が自らへの信仰心を人類に思い出させるために、[戦争という仕組み]を用いた時。

 復活させられたサウラは、同志たちと共に、聖母に対して正面から反逆した。


 エリックが勇者として選ばれた、この時の戦い。

 この戦争では、魔王軍はかつてないほどの激しい侵攻を見せ、一時は聖都に迫るほどだった。


 それだけの激しい戦いとなり、聖母に迫ることができたのは、すべて、サウラの同志たちの準備のおかげだった。


 しかし、その同志たちはすでにいない。

 サウラはエリックによって打ち倒されることとなり、サウラの反逆に気づいた聖母たちによって、徹底的な掃討戦が戦われたからだ。


 エリックは、あの魔王城での激しく、そして徹底した戦いは、これまでも何度もくりかえされて来たのだと、そう思っていた。

 だが、実際はそうではなかったのだ。

 聖母たちの企みを知らないまま、魔王城へと攻撃した人類は、魔王さえ倒せば後は、逃げ散っていく魔物や亜人種にかまったりしないのが、常であった。


 なぜなら、本当に魔物や亜人種に滅んでしまわれては、聖母が困るからだ。

 魔王という脅威きょういを演出し、人類に聖母への信仰心を抱かせるという[仕組み]を機能させ続けるために、聖母は魔物や亜人種たちを殺し過ぎずに、生かすように誘導してきたのだ。


 だが、今回の戦争では、聖母は魔王軍の徹底的な殲滅せんめつを、魔物や亜人種たちの確実な絶滅を望んだ。


 聖母の忠実で便利な手駒であったはずのサウラが聖母に反逆し、聖母のすぐ近くにまで迫るほどの激しい抵抗を示したからだ。


 聖母にとって、魔王・サウラも、魔物や亜人種たちも、もはや、危険な道具でしかなくなっていた。

 だから聖母は、それを滅ぼし、自身が犯して来た[罪]を、[隠蔽いんぺい]しようと目論んだのだ。


 しかし、サウラの同志である黒魔術士が用意した黒魔術によって、その聖母の思惑は失敗に終わった。

 用済みの道具であった魔王は消滅せず、そして、勇者もまた、消滅しなかったからだ。


「……わかった。

 魔王様のこと、これまで通りに、信じよう。


 だが、やはり、この真実は、ごく限られた人々にしか伝えるべきではないと思う」


 エリックを通してケヴィンたちへ明かされたサウラの秘密を聞き終え、ケヴィンはしばし沈黙してから、そう言ってうなずいた。


 相変わらず、その表情は険しい。


 ケヴィンたちはどうにかエリックから明かされた真実を受け入れることができた様子だったが、残党軍にはおそらく、そうすることのできない者たちも大勢、いるに違いない。

 そんな人々を、これから先も聖母たちとの戦いに向かわせ、勝利という希望を抱かせるためには、この真実を明かすことはできないからだ。


 もしすべてを話せば、動揺は抑えきれないものになるだろう。

 ケヴィンたちと違って、サウラのことをもう信じられないと、そう思う者たちが大勢、出てくることは間違いないからだ。


 仲間たちに真実を隠したまま、戦いへと向かわせる。

 残党軍のリーダー、そして幹部として、ケヴィンたちはかつてのサウラと同じような[重荷]を背負うこととなってしまったのだ。


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