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・第167話:「聖母の罪:2」

・第167:「聖母の罪:2」


 魔王・サウラから明かされた、人類と、魔物と亜人種たちとの間で続けられてきた戦争の理由。

 聖母が犯してきた、本当の罪。


 それを明らかにし、そして、聖母たちと戦い、その罪の報いを受けさせるために協力しあう、共闘関係を築く。

 そのためにエリックの呼びかけに応じ、残党軍のリーダーであるケヴィンと、その幹部であるアヌルスとラガルト、魔法学院の学長であるレナータ、そしてクラリッサやリディアやセリスなど、特にエリックと行動を共にする機会の多い仲間が集まったのは、夕方になってからのことだった。


 みな、くたびれたような顔をしている。

 ケヴィンたち残党軍はクラリッサを救出するための陽動作戦を実施し、陽動に乗った教会騎士たちや空から襲ってくる飛竜たちと一晩中戦い続けた後だったし、レナータたちも避難民の受け入れや治療のためにずっと働き通しだった。


 それでもエリックから呼びかけを受けた全員が集まったのは、それだけ、エリックが話そうとしていることが重要だったからだ。


 一同が集まったのは、レナータが学長として使っている応接室だった。

 けっこうな人数が集まったので本当はもう少し広い会議室などを使いたかったのだが、魔法学院は今、家を破壊されて行き場所のない人々の避難所となっていて、そういった広い部屋はみんな、避難民や負傷者のために使われてしまっている。


 全員が腰かける余裕がないので、応接室に置いてあったソファーはすべて隅に片づけ、テーブルを中心にして全員が立ったまま集まっていた。


 全員が、エリックのことを注目している。

 この世界で戦われ続けてきた戦争の理由、そして聖母がその裏でなにを行って来たのかを知りたいと考えていたのは、みな、同じであるようだった。


「魔王・サウラから明かされた、聖母の罪。

 それは、2つある」


 エリックは、自分のことをじっと見つめている人々の顔を見渡し、小さく深呼吸して気持ちを落ち着けてから、話し始める。


「1つは、聖母は自身が人類を支配し続けるために戦争を利用し、魔物たちや亜人種たちを弾圧し、多くの人々をだまし、傷つけ続けてきたこと。


 そして、もう1つは、神殺しの罪だ」


────────────────────────────────────────


 聖母が、自身の支配を維持するために戦争を利用している。

 そのことについては、ある程度予想していたのか、驚きをあらわにする者は少なかった。


 だが、2つめの罪。

 神殺し。


 その言葉には、エリックと、そしてリディアを除いた全員が驚き、戸惑っていた。


 リディアは、そのことも知っていたのだろう。

 これから明かされる真実には自分も深く関与してきたという自覚があるのか、リディアはこの場にやって来た時からずっと、沈痛な表情を浮かべていた。


「順を追って、古い方から話していきたいと思います。


レナータ学長。

 教会の教えでは、確か、聖母が人類を支配しているのは、[神々から、地上の世界を支配するように使命を与えられたからだ]、そう説明されていましたよね? 」

「……え、ええ。

 それで、間違いないと思います」


 エリックから突然話を振られたレナータは戸惑いながらうなずき、人間であれば誰もが知っている聖母からの[教え]について補足して説明する。


「教会の教えでは、こうなっていますね。


 かつて、この世界は神々によって作られ、数多くの神々によって統治されていた。

 しかし、ある時、古の神々は新たな世界を作り、そこに旅立つこととなり、去っていく自分たちの代わりに、聖母をこの世界の支配者として見出した、と。


 そして、聖母は永遠の命を、不老不死を得て、神々に代わって、人類を守護してきた。


 そういうふうに、教会の者たちは教えています」

「そして、神々からこの地上の世界の支配を任された聖母の統治を認めずに、歯向かうから、魔物や亜人種たちを滅ぼさなければならない。


 それが、聖母たちがオレたち人間に教え込んできた、[戦う理由]でした」


 レナータの説明にうなずいたエリックは、そう言うといったん言葉を区切り、落ち着いた口調で、しかし、十分に強調して、告げる。


「そもそも、神々からこの世界の統治を任されたというのが、ウソなんです。


 聖母は、神々から見いだされて、後継者として選ばれてこの世界の支配者になったんじゃない。

 聖母は、神々を殺し、自ら、この世界の支配権を[強奪ごうだつ]したんです」

「ちょ、ちょっと、エリック……。


 神様を殺すなんて、そんなこと、できるもんなの? 」


 エリックの言葉に、戸惑ったような声をあげたのはクラリッサだった。


 彼女が驚くのも、当然だろう。

 今となってはどんな神々がいたのか、その名前さえ忘れ去られてはいるが、この世界の神話では、神々によって世界が作られたことになっているのだ。


 その、世界を創造するほどの力を持った神々を、聖母は倒したのだという。

 簡単に信じられるようなことではないだろう。


「サウラも、その点については、すべてを知っているわけではない。


 けど、聖母はまず、神々をだまして争わせ、そして争った神々の多くが倒れ、残った神も傷つき弱まった隙を狙って、すべて滅ぼしてしまったらしい。


 つまり、そもそも、聖母がこの地上の世界を、オレたち人間を支配している正当な理由は、なにもなかったっていうことだ」


 そのエリックの言葉に、とりわけ驚きが大きかったのは、クラリッサとレナータ、この場にいる人間族だった。


 聖母がいかに悪辣あくらつな存在であるかはすでにはっきりとしていたが、聖母の支配の出発点からして、なんら正当な理由がないとまでは想像していなかったのだろう。


 それに対して、残党軍の側は比較的冷静だった。

 ラガルトは話の理解が追いついていないのかぼりぼりと自身の鼻をかいているだけだったが、ケヴィン、アヌルス、セリスの、3人のエルフたちは険しい表情ではあるものの、驚きは比較的小さいようだった。


 もしかすると、長命種であるエルフたちの間では、ほとんど欠損してしまってはいても、なんとなくエリックの話を[納得]することができるだけの伝承が、言い伝えられているのかもしれなかった。


「エリック殿。


 世界を創造した古の神々を殺し、世界の支配権を奪った聖母は、それから、どうしたのだ? 」


 ケヴィンから話の続きをうながされたエリックはその言葉に「わかった」とうなずき返すと、少し自分の頭の中を整理してから、説明を再開した。


 ここから先が、もっとも重要なことだった。


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