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・第156話:「勇ましき者:4」

・第156話:「勇ましき者:4」


 魔法学院を聖騎士たちの攻撃から守っていた魔法のシールドの一部に穴があけられると、エリックたちは、そこから広場に向かって走り出した。


 いや、そこはもう、かつて存在した広場とは呼べない惨状だった。

 クラリッサをはりつけにしていた火刑台はバケモノたちによって蹴散らされ、広場の周囲に建ち並んでいた建物も、ほとんどが倒壊するか、半壊してしまっている。

 きれいに敷き詰められていた石畳も、異形と化した聖騎士たちの暴れ方や重量に耐え切れなかったのか、あちこちでめくれたり、割れたりしてしまっていた。


 そして、いくつもの死体が転がっている。

 それらの多くは、聖騎士たちによって見境なく攻撃をされ、犠牲になった教会騎士たちだった。


 原型をとどめていないものが、多い。

 振り回される触手に叩き潰されたり、バケモノたちの質量で押しつぶされたりした教会騎士たちは、人間の形を留めているものが少なかった。

 かろうじてそうだと判別できるのは、教会騎士たちが身に着けていた鎧や武器と一緒に転がっているからだ。


 教会騎士だとわかるものが近くにない死体は、おそらく、犠牲となった街の人々だった。

 倒壊する建物に押しつぶされて、あるいは、逃げ出したところを攻撃されて。

 1人、2人と、数を判別することさえできない状態の死体が、いくつも倒れている。


 聖騎士たちは魔法学院の守りを突破できないとわかると、広場から、街の中へと広がりつつある様子だった。


 理性もなく、目的もなく、ただ、破壊の限りをつくす。

 意識のない怪物へと成り果てた聖騎士たちは、より多くを破壊し、より多くを殺そうと、進んでいく。


 魔法学院に立て籠もらずに、正解だったと、エリックは思った。

 こんな、凄惨な死に方をする人々を少しでも減らしたいということもあったが、なにより、聖騎士たちは魔法学院に拘泥こうでいせず、街中まちじゅうに広がりつつある。


 この街を破壊しつくした後には、街の外にも聖騎士たちは向かって行くかもしれない。

 そうなれば、この地域一帯が、壊滅することにもなりかねなかった。

 そして、エリックの故郷も、無事では済まないだろう。


 そうなる前に、バケモノとなった聖騎士たちを、倒す。


 エリックは聖剣を振り上げると、雄叫びをあげ、まだ広場の近くで、半壊した建物にのしかかるようにしていた聖騎士に向かって斬りかかった。


 聖剣は、いともたやすく、聖騎士の触手を切断した。

 すると、中からはどす黒い、どろどろとした、血のようにもそうでないようにも思える不気味な液体が流れだしてくる。

 どうやら、聖騎士たちの身体はもう、人間らしい体組織さえ失って、なにもかもが変異してしまっているようだった。


 聖剣が、通用することはわかった。

 だが、聖騎士は容易には倒れない。


 傷口からどろどろとしたものをたれ流しながら、聖騎士は残った触手をうねうねとくねらせ、エリックに向かって次々と振り下ろして来た。


 聖剣で斬り裂くことができても、その質量を叩きつけられるのは、脅威だった。

 元々、クラリッサを救うために潜入してきていたエリックはまともな鎧など身に着けてはいなかったし、たとえ鎧があっても、教会騎士たちの姿を見ればそれが無意味だということはわかる。


 エリックは触手の1本は斬り捨てながら、横に転がるようにして、聖騎士が振り下ろす触手を回避した。


「お願いですっ、助けてっ!! 」


 その時、聖騎士がのしかかっていた半壊した建物の中から、エリックたちのことに気づいたのか、助けを求める声が聞こえてきた。


 女性の声だ。

 それに、子供の泣く声も聞こえてくる。


「待っていてください!

 今、助けますから! 」


 エリックは立ち上がって体勢を立て直しながらそう叫ぶと、再び、聖騎士に向かって斬りかかって行った。


 触手を1本や2本、斬り飛ばしただけでは、聖騎士は活動を止めないようだった。

 ただ、本体から斬り離された触手はもう動き出さず、どうやら、再生もしない様子だった。


 となれば、エリックたちがやることは、1つだ。

 聖騎士が活動をやめるまで、攻撃を続け、ダメージを与え続けるのだ。


 エリックに続いて、リディアも戦いに加わった。

 リディアの武器はレイピアで聖騎士に大きなダメージを与える力はなかったが、素早い動きと攻撃でリディアが聖騎士の攻撃を引きつけ、その間にエリックが聖剣で触手を斬り落としていく。


そして、聖騎士からの攻撃を2人シ引きつけている間に、クラリッサたち魔術師たちが魔法の呪文を唱え終えていた。


 異形と化した聖騎士は、強靭な生命体だった。

 触手を斬り裂かれ、その身体を構成するどろどろとしたなにかをたれ流しながらも容易には動きを止めず、暴れ続けている。


 だが、エリックとリディアによって触手を切断され、クラリッサたちの魔法攻撃が次々と命中すると、その動きは弱まって行った。


 それも、当然だ。

 なにしろ、聖騎士の身体は少しずつ吹き飛ばされて、動かせる部分そのものが小さくなっていくのだから。


 どうやら、リディアが「不完全」と言っていたように、異形と化した聖騎士たちは、不死身の存在ではないようだった。

 エリックたちから集中攻撃を受けた聖騎士はその形状を保っていることができなくなるほどに破壊されると、とうとう、動くことをやめた。


 そして、その残骸の中でエリックは、まだ、ドクン、ドクン、と脈打っている、聖騎士の心臓だったモノを見つけていた。


 そこには、聖騎士たちが自らの身体に突き刺した、剣がまだ突き刺さっている。


「エリック。

 多分、あれが、バケモノの[核]、中枢だよ」


 周囲に飛び散ったバケモノの残骸の光景に顔をしかめていたクラリッサが、エリックにそう教えてくれる。


 ならば、エリックがやることは1つだ。

 エリックは聖剣をかまえると、まだ脈打っている聖騎士の心臓へと振り下ろし、そこに突き刺さった剣ごと、叩き潰す。


 するとようやく、異形と化した聖騎士は、その命を失ったようだった。


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