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・第151話:「逆転:3」

・第151話:「逆転:3」


 エリックは、泣き出したい気分だった。


 なぜなら、自分以外にも聖母の本性を知り、逆らおうとする[人間]がいることを、それも大勢いるということを、知ることができたからだ。


 これまでも、エリックのために戦ってくれた者はいた。

 エリックにとっての親友であった騎士・バーナードに、今もエリックと共に戦ってくれている魔女・クラリッサ。

 そして、父親である、デューク伯爵。


 だが、それらの人々はみなエリックと親しい人々であって、エリックのことをよく知っていたから、聖母よりもエリックのことを信じてくれたのだ。


 だが、今度は、今までとは違う。

 エリックにとっては見知らぬような人までも、エリックの側に立って戦おうとしてくれている。

 それだけではなく、堂々と聖母の罪を糾弾し、共に立ち上がるべきだと、人々に訴えかけている。


 あきらめずに、戦い続けて来たから。

 希望を失っても、その命のある限り、聖母に正当な報いを受けさせるのだと誓い、戦い続けてきたエリックの前に、ようやく、光明が見えたのだ。


 ヘルマンが、不快そうに頬を引きつらせている。

 クラリッサを救出されてしまっただけではなく、リディアに背かれ、エリックを取り逃がし、そして、魔法学院が聖母に反旗をひるがえしたのだ。


 なにもかもが、ヘルマンにとって不利に動いている。

 その状況に、さすがのヘルマンも、エリックたちのことを嘲笑ちょうしょうしている余裕がなくなったようだった。


「……魔術師ども!

 貴様ら、自分が、なにをしようとしているのか、本当に、わかっているのか!? 」


 しばらくの間、エリックたちと炎の壁を挟んで対峙していたヘルマンだたが、やがて唾を自身の足元に吐き捨てると、魔法学院を守る城壁の上に並んでいる魔術師たちのことを見上げて叫んだ。


「お前たちは、聖母様に逆らおうとしているのだぞ!?

 神々よりこの地上の世界の統治を任されし、不老不死にして、人智の及ばぬ叡智えいちを持っている、聖母様に、反逆をしようとしているのだ!


 これまで、幾百年、一千年以上もの間、貴様ら人類を守護し、お導きくださったお方を、裏切るというのか!?


 今なら、まだ間に合う!


 そこにいる悪しき魔女クラリッサ、そして謀反人レナータめをひっとらえ、反逆者エリックの首を差し出せ!

 さすれば、慈悲深き聖母様は、貴様らの犯した罪をお許し下さるだろう! 」


 それは、魔術師たちに動揺を誘い、裏切り者を誘発するための言葉だった。

 聖母に逆らうという、人類にとって禁忌きんきとされていたことを行っているのだと強調し、自覚させることで、聖母への反逆を思い直す者が出てくると、そう期待しているのだ。


 しかし、魔術師たちは誰も、動かない。

 ヘルマンの言葉で翻意ほんいして聖母の側につこうとする者は、あらわれなかった。


「……フン、なるほど。

 よく、わかった!


 貴様らは全員、反逆のやからであることが、はっきりとわかったぞ! 」


 レナータを始め、魔法学院の魔術師たちの反抗の意志は、固い。

 そのことを確認すると、ヘルマンはそう叫び、剣を高々とかかげた。


「貴様らが聖母様に逆らうなどという大罪を犯すというのなら、いいだろう!


 今、ここで!

 聖母様のご意志の代弁者たる我らが、貴様らを誅殺ちゅうさつし、この地を再び、聖母様のご加護の下にある地として、浄化するとしよう! 」


 そしてヘルマンは剣の切っ先をレナータへと向けると、突然、ニヤリと笑みを浮かべた。


「謀反人・レナータ!


 貴様はそこで、聖母様に逆らうとはどういうことなのかを、とくと見ているがいい! 」


 なにを、負け惜しみを。

 エリックは、ヘルマンが浮かべたその獰猛どうもうで、狂気に満ちた笑みを炎越しに見ながら、内心でそうさげすんでいた。


 あれだけ大勢の魔術師たちが、聖母に反逆することを決意しているのだ。

 ヘルマンがいかに強く、大勢の教会騎士たちを従えていようと、燃え盛る炎の壁を突破し、魔術師たちが放つ魔法攻撃をかいくぐって攻め込んでくることは、とてもできないだろうと思われた。


 しかし、ヘルマンは自信ありげだった。


「聖母様の[祝福]を受けし、聖騎士たちよ! 」


 そしてヘルマンは、自身の背後で、いつの間にか一列に隊列を組んでいた聖騎士たちに向かって、彼らの方を振り返らないまま、呼びかける。


「今こそ、聖母様から与えられし[祝福]の力を、見せる時だ!


 今こそ、汝ら、聖母様に選ばれし聖騎士の使命を、果たす時だ! 」


 聖母による、[祝福]。

 それは、聖母によって特別に選ばれた者だけが受けることができる、神聖な儀式のことだった。


 その儀式の内容も、[祝福]によって聖母からどんな加護が与えられるのかも、エリックは知らない。

 それを知っているのは、聖母を崇拝する教団の中でもごく一部の聖職者や、実際に[祝福]を受けた者たちだけだった。


 いったい、なにを始めようというのか。

 エリックが警戒しながらヘルマンたちの姿を見つめていると、整列していた聖騎士たちはヘルマンの言葉で一斉に、彼らの胸元に下げていた聖母を象徴する紋章の飾り物を手に取った。


 どうやら、その飾り物の中には、小さな剣が隠されていたらしい。

 それは鋭利な円錐状で、突き刺すことだけに特化した。10センチほどの長さを持つ剣だった。


 それを、聖騎士たちは逆手に持つと、一斉に振り上げる。


 どこか、異様な雰囲気だ。

 だが、あんなもので、炎の壁を突破し、魔法学院の魔術師たちの抵抗を排除できるとは思えない。


 だが、エリックたちの側位にいる者でただ1人、リディアだけは、なにが起ころうとしているのかを知っているようだった。


「いけない……っ!! 」


 そうリディアが呟く言葉を耳にしたエリックが彼女の方を振り向くと、リディアは青ざめた顔で、両手で自身の胸のあたりを抑え込んでいる。


 まるでこれから、[世界の終わり]が訪れるような、そんな顔をしていた。


※作者予告

 次章、11章では、エリックが覚醒するほか、聖母たちが行って来た本当の[暗部]が明かされていきます。


 もし本作を気に入っていただけましたら、ブックマーク、高評価等、よろしくお願いいたします。


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