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・第150話:「逆転:2」

・第150話:「逆転:2」


 クラリッサが生み出した煙幕の中を抜け出し、背後にしっかりエリックがついて来ていることを確認するために振り向いたセリスは、リディアの姿を見て驚き、双眸そうぼうを見開く。


「ちょっと、エリック!?

 なんで、そいつまで一緒に連れて来てるのよ!? 」


 リディアも、エリックの突然の行動に、戸惑っているようだった。


 だが、誰も足を止めない。

 今はヘルマンや教会騎士たちの包囲を抜け出して、安全な場所にまで逃げ込むことが先決だからだ。


「オレだって、驚いているさ! 」


 エリックは走りながら、セリスに向かって叫ぶ。


「だが、リディアは、ヘルマンの命令に、聖母の命令に逆らって、オレのことを助けてくれた!


 今の彼女を、あのままにしておくことはできなかったんだ! 」


 そのエリックの言葉に、リディアが小さく震えるのが、つないだ手越しに伝わってくる。


 聖母に反抗した。

 リディア自身もまだ、その事実を信じられないような気持があるようだった。


「ああ、もう、わけがわからない!

 後で詳しく説明してもらうから、今は、走って! 」


 セリスはそう叫ぶと、エリックの手を振り払い、まだ燃え盛っている火刑台の炎を飛び越えるようにして先に行く。

 どうやらその部分には難燃性のシートのようなものが被せてあり、炎を乗り越えていくための[橋]になっているようだった。


 まだ火が燃えているからといって、遅れるわけにはいかない。

 エリックたちの背後には、怒り狂ったヘルマンや、大勢の教会騎士たちが迫ってきているからだ。


 炎の中に作られた[橋]を超えていくためには、リディアの手をこのまま引いているわけにはいかない。

 エリックは一瞬だけリディアの方を振り返ると、彼女の手を離し、助走をつけて橋を飛び越えた。


 果たして、リディアはついてくるだろうか。

 石畳の上に自分から転がって受け身をとったエリックが振り返ると、リディアはエリックを追いかけて、炎を飛び越えてきていた。


 そしてリディアが[橋]を超えてくるのを確認すると、その場で待機していたハーフリングが、思い切り炎を防いでいたシートを引きよせる。

 シートがなくなると、再びその部分も炎に包まれ、エリックたちとヘルマンたちとの間に炎の壁を作り出した。


「おのれ、小癪こしゃくなことをッ!! 」


 炎の壁によって追撃を阻止されたヘルマンが、いまいましそうな声をあげる。


 ひとまず、エリックたちは窮地きゅうちを脱することができたようだった。


────────────────────────────────────────


 ヘルマンたちが炎を超えられず、悔しそうにギャーギャーと騒ぎ立てている声を聞きながら、エリックはほっと胸をなでおろしていた。


「セリス、ありがとう。

 あなたにも、感謝させてもらいたい」


 それからセリスの方を振り返り、次いでハーフリングの方を向くと、エリックは頭を下げながら礼を言った。


「あー、いや、違うんだよ、エリック。

 クラリッサを助けたのは、私たちじゃないんだ」


 すると、セリスは少しバツの悪そうな顔で、人差し指で自身の頬をかいた。


 確かにセリスたちがクラリッサを助け出せたとは思っていなかったエリックだったが、クラリッサが無事である以上、幸いにも自分の予想が外れて、セリスたちがクラリッサを救出してくれていたのだと思っていた。

 しかし、セリスは、自分たちの力ではないと言っている。


 ではいったい、誰がクラリッサのことを助けてくれたのか。

 その疑問の答えは、すぐにエリックたちの頭上に姿をあらわした。


 正門の上で堂々と腕を組んで仁王立ちしていたクラリッサの左右に、次々と、魔法学院の魔術師たちが並んでいく。


特徴的な魔術師のローブに、杖。

 あの魔術師たちが、クラリッサを救い出してくれたのに違いなかった。

 魔法によってクラリッサを燃え盛る炎から守り、ヘルマンたちがエリックとの戦いに気をとられている間に、彼女の拘束を解き、そして、安全な学院の中へと助け出したのだろう。


「ヘルマン神父!

 あなたの行い、調べさせていただきました! 」


 そして、クラリッサの隣に並んだ年配の女性魔術師が、辺りに響き渡るような声をあげる。

 その声は魔法の力によって増幅されているのか、街中に届くようなものだった。


 その女性魔術師のことは、エリックも知っている。

 父親であるデューク伯爵の古くからの友人であり、エリックにとってもよく見知った人物、魔法学院の学長・レナータだった。


「あなたたちは、そこにいる元勇者・エリック殿を、魔法・サウラを倒した瞬間に裏切り、殺そうとしましたね!?

 そしてそのような卑劣な行いを隠すために、生き延びたエリック殿を、口封じに抹殺しようとしている!


 それだけでは、ありません!

 あなた方は、エリック殿を助けようとするデューク伯爵を拉致らちし、謀殺した!


 そしてこれらの陰謀は、ヘルマン、あなたの一存ではない!


 すべて、聖母によるもの!

 我ら人類をその加護によってお守りくださっているはずの聖母が、聖母の命に従い、誠実に勇者としての役目を果たしたエリック殿を、そして、そのエリック殿を守ろうとしたデューク伯爵を、殺害したのです!


 そのような行いが、聖母の本性であるのです!


 それを、我々魔法学院は、見過ごすことはできません!


 今、この瞬間から!

 我々、魔法学院の魔術師は、聖母に従うことを拒否します! 」


 その、魔法学院の学長、レナータの言葉は、エリックたちにだけ向けられたものではなかった。


 その、先。

 この街に暮らす人々に対し、聖母の悪行をあかし、聖母をおおやけ糾弾きゅうだんするものだった。


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[気になる点] とうとう始まったね。 しかし、ガラス瓶とか、どんだけ未来なんだろうか?
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