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・第128話:「魔女裁判」

・第128話:「魔女裁判」


 教会騎士たちの攻撃をかろうじて生き延び、地下都市に避難した残党軍の人々の中からエリックの姿を見つけ出したセリスは、ひょい、ひょい、と人混みの中を身軽に走り、まっすぐにエリックに向かって来た。


「エリック!

 よかった、ここにいた!


 ねぇ、急いで、来て! 」


 そしてセリスは、彼女の慌てた様子に驚いているエリックの手をつかむと、それだけ言ってぐいぐいとエリックを引っ張り始める。


 地下都市の入り口は完全に封鎖されたはずだったが、すでに教会騎士たちが攻めよせてきたのかと思ったエリックは、表情を険しくする。


「な、なんだっていうんだ、セリス!?

 まさか、また、教会騎士たちの攻撃が!? 」

「それは、大丈夫。

 今のところ、ここは安全!


 けど、とにかく、急いで!

 あなたにも、見せなきゃいけないことがあるの! 」


 セリスはそのエリックの予想は否定したものの、他になにか深刻な問題が発生しているらしく、その口調は切羽詰まっている。


「わかった。

 セリス、案内してくれ! 」


 セリスが真剣であることを見て取ったエリックは、彼女のことを信じてとにかく走ることにした。

 エリックを引っ張る手を離したセリスは、これから走るペースを上げるよと知らせるようにエリックに目配せをすると、残党軍の人々が集まっている区域を抜け出し、全力で走り始める。


 ドワーフたちが千年以上前に築いた地下都市は、この地域のドワーフたちの中心的な都市であったらしい。

 残党軍が避難した区域はその一画に過ぎず、奥にはさらに広大で、複雑な構造が広がっているようだった。


 その中を、セリスは少しも迷わずに進んでいく。

 彼女は地下都市の探索を行っていたとはいえ、ほとんど初見と変わらないはずなのに、すでに自分が進むべき道順を理解しているようだった。

 エリックからすれば、ついて行くだけでもやっとだった。


 やがて目的地へとたどりついたエリックは、驚いていた。


 そこは、巨大な縦穴になっている場所だった。

 どうやらドワーフたちが地下都市の空気を常に新鮮なものに保つために作り出した換気のための縦穴のようで、道具で削られた跡の残る縦穴の壁面には、地下都市のいろいろな区画に通じているはずの、通風孔を兼ねた通路がいくつものびていて、上を見上げると、その先には空が見えている。


 エリックが驚いたのは、その、古代のドワーフたちが持っていた地下都市を機能させるための高度な機能にではなかった。


 その空には、クラリッサの姿が映し出されていたからだ。


 それは、おそらくは強力な魔法によって空に投影された、どこかの光景だった。

 クラリッサの姿は半透明になって空中に浮かび上がっている。


 クラリッサは、はりつけにされていた。

 十字に組まれたはりつけ台にクラリッサは縄でくくりつけられ、その口にはさるぐつわがかまされているのがわかる。


(聖母様の御名の下に!

 これより、聖母様の御意に歯向かった悪しき魔女、クラリッサの、裁判を始める! )


 エリックとセリスの後から駆けつけてきた、ケヴィン、アヌルス、ラガルトの、残党軍の幹部たちも驚いて空を見上げた直後、空に魔法によって映し出されていたクラリッサの姿が、聖職者としての正装を身に着けたヘルマン神父の姿に切り替わる。

そして、エリックたちの脳内に直接、そう宣言する声が響いた。


(この者、クラリッサは、聖母様にお仕えするべき人間族でありながら、魔物に乗っ取られし元勇者、反逆者・エリックめに加担した!

 この悪しき魔女は、唯一絶対の存在であるべき聖母様に逆らい、反逆を企てたのだ!


 その罪は、重い!

 あまりにも、重い! )


 ヘルマンは、彼が聖母の意志に従って実行した裏切りのことなど、なにもなかったかのように、一方的にエリックとクラリッサを断罪した。


(その罪のあがないとして、いったい、どんな刑罰が適当であろうか!? )

(死刑だ! 死刑だ! 死刑だ! )


 ヘルマンの問いかけに、おそらくは教会騎士たちのものなのであろう、クラリッサを死罪にせよとのシュプレヒコールがあがる。


(いいや、その程度では、生ぬるい! )


 しかし、ヘルマンは死罪では物足りないと、大仰な手ぶりで身をくねくねもだえさせながら主張する。


(聖母様への背信行為、そのようなおぞましき罪状、たとえ1000回死罪を実行したとしても、まだ罪をあがなうのに足りぬ!


 悪しき魔女・クラリッサ!

 貴様はありとあらゆる苦しみを受けながら死に、その魂は、聖母様の正義の炎によって焼かれるべきなのだ!


 よって!

 貴様は!

 ここではりつけとされ、息絶えるその時まで苦痛を、恥辱を与えられ!

 そして、炎によって焼き清められるべきなのだ! )

(火刑だ! 火刑だ! 火刑だ!

 魔女を、焼き殺せ! )


 芝居がかったしぐさで怒りをあらわにしながらヘルマンが宣告すると、教会騎士たちが再びシュプレヒコールをあげる。


(悪しき魔女・クラリッサ。

 たった今、判決は、下された!


 貴様は見せしめとしてはりつけにした後、火刑、火あぶりの刑に処す!

 聖母様に対して犯したその罪を悔い、炎によってその魂を焼き清められるのだ!

 せいぜい、聖母様のご慈悲によってその罪を許されるよう、祈ることだ!


刑は、ただいまより、執り行うものとする! )


 そしてヘルマンがそう宣言すると、教会騎士たちは歓声をあげた。


 その魔女裁判は、クラリッサには一切の弁明の機会を与えない、一方的な宣告を行うものであるのと同時に、ヘルマンたちの前から逃げ延びたエリックたちを挑発し、おびき出すための罠であった。


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