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・第124話:「地下都市」

・第124話:「地下都市」


 地響きを立てながら、魔法の力で動かされた岩によってドワーフの古代地下都市の入り口が封鎖されると、辺りは暗闇に包まれた。


 固く、分厚い岩によって隔てられ、そこにはもう、外の音は少しも聞こえては来ない。

 あの卑怯な裏切り者がどうなったのか、クラリッサがどうなったのかは、エリックたちにはわからない。


 エルフの魔術師、アヌルスが短く呪文を唱えると、魔法の光がぽわっと浮かび上がり、周囲が少しだけ明るくなる。


 その場にいる者はみな、浮かない表情をしていた。

 多くの教会騎士たちを倒し、戦いでは負けなかったものの、これまで必死に築き上げてきた住家を、居場所を失ったのだから、明るい表情などできるはずもない。


 なにより、クラリッサを助けられなかったことが、大きな影を落としている。

 クラリッサはエリックたちを逃がすために、最悪、自分を見捨てることになってもかまわないとさえ言って、聖母たちの捕虜になることを受け入れた。


 エリックたちは、クラリッサを犠牲にして生き残ったようなものなのだ。


 エリックはその場にいる誰よりも、悔しそうな顔をしていた。

 クラリッサの主張を受け入れ、生きる道を仲間たちに選ばせたのは、エリックなのだ。


(必ず……、絶対に!

 クラリッサを、助け出す! )


 エリックは心の中でそう固く誓ってはいたが、しかし、「では、どうやって? 」という疑問への答えは、なにも浮かんでは来ない。


 仲間を犠牲にして、生き残った。

 その事実が、エリックの心を強く締めつけていた。


「みんな、とにかく、奥へ。

 傷の手当ても、しないといけないでしょ」


 暗く沈みこんだ雰囲気のエリックたちに、できるだけ明るい口調でそう言ったのは、セリスだった。

 裏切った卑怯者を逃がし、クラリッサを聖母たちの捕虜にしてしまったことは、セリスも受け入れることなどできないことだったが、彼女なりに少しでも雰囲気を切り替えようとしたようだった。


「セリスの、言うとおりね。


 私たちは、生き残った。

 そして、生きているからには、[次]がある。


 私たちは、まだ、負けていない。

 最後まで、聖母たちと戦い続けるために、動き出さなければいけない」


 セリスの言葉だけでは力不足だと思ったのか、アヌルスがさらに言葉を続けた。


 そこまでして、ようやく、エリックたちは動き始める。

 戦いで疲弊ひへいしていた兵士たちは足を引きずるようにして歩き出し、アヌルスの魔法の光に照らし出されながら、奥へ、奥へと進んでいった。


 ドワーフの古代地下都市の入り口は広くはなく、細長く狭い構造になっていたが、おそらくそれは防衛のために意図的にそこだけ狭く作ってあったのだろう。

 エリックたちが歩く速度はゆっくりとしたものだったが、少し歩くとすぐに開けた場所に出た。


 そこが、どうやら地下都市の本当の入り口であるようだった。

 何百人もの人間が一度に集まることができそうなほどに広い空間が作られており、正面に、巨人用に作られたのかと思えるほど大きな門扉がそびえている。

 また、その広場はドワーフたちの迎撃拠点でもあったらしく、門の左右、表面がなだらかになるように加工された岩肌には、無数の狭間さまが作られていた。


 その広間の、薄く開かれた門扉の前で、残党軍のリーダーであるケヴィンがエリックたちの帰還を出迎えた。


「みんな、よく、戻ってきてくれた!

 みなのおかげで、俺も、他の仲間たちも、大勢、助けられた!


 エリック殿にも、改めて、感謝を申し上げる」


 エリックたちと同様、疲れていながらも、精一杯の笑顔でエリックたちを出迎えたケヴィンは、そこで、クラリッサがいないことに気づいて怪訝けげんそうな顔をする。


「クラリッサ殿がいないようだが、どうされたのだ?

 ……まさか、戦死なされたのか? 」

「いや、ケヴィン殿。

 クラリッサは、生きている。


 ……だが、聖母たちの、捕虜になってしまった」


 そのケヴィンの問いかけに、エリックは顔をうつむけ、拳を強く握りしめ、悔しさにこらえながらそう答えた。


「なんだと?

 いったい、なにがあったというのだ? 」


 そのエリックの様子や、他の残党軍の兵士たちの悔しそうな様子からなにかが起こったのだと悟ったケヴィンはさらにそうたずねてきたが、エリックはもう、なにも答えたくなかった。

 まだ、感情の整理ができていないのだ。


「私たちの中から、裏切り者が出たの」


 そんなエリックの代わりに、ケヴィンの妹ということもあって、セリスが起こったことを伝える。


「スパイがいたの。

 聖母たちに私たちを売る代わりに、命を助けてもらおうと約束した、裏切り者が。


 兄さん。

 野営地の場所が見つかって攻撃されたのも、クラリッサさんが捕まってしまったのも、全部、そいつのせいなの」

「裏切り、だと? 」


 そのセリスの言葉に、ケヴィンは強いショックを受け、深刻そうな表情を浮かべた。


 彼は残党軍のリーダーであったが、真っすぐで誠実な性格であり、謀略といった後ろ暗いことは得意ではない。

 そんな彼は、自分たちから裏切り者が出るなどということを、少しも想像したことがないようだった。


 だが、事実として、裏切り者は出た。

 そして、クラリッサを手土産として、ヘルマンたちに、聖母に投降した。


 そういったことが起こった、ということは、ケヴィンはこれから、リーダーとして、これまで無条件に信じていた仲間たちを心のどこかで疑わなければならないということだった。

 それはきっと、ケヴィンにとってひどくつらいことであるのに違いない。


「まずは、奥へ。

 そこで手当てをし、まずは休むといい。

 準備は、すでに整えてある。


 これからのことは、それから、考えよう」


 ケヴィンは深刻で険しい表情を浮かべたまま、しかし、まずは疲れ切っているエリックたちを休ませるためにそう言って、エリックたちを地下都市の奥へと案内していった。


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