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・第113話:「聖母の手先:2」

・第113話:「聖母の手先:2」


 地響きと共に、教会騎士たちが突っ込んで来る。

 ヘルマンが降伏勧告をしている間に十分に隊列を整えた教会騎士たちは、一塊ひとかたまりとなって、残党軍の最後の防衛線を押しつぶそうと迫った。


 その突撃を阻止する残党軍からの反撃は、弱い。

 これまでの戦いですでに多くの矢を消費してしまっており、十分な反撃を行うことができなかったからだ。


 その上、教会騎士たちが突撃を開始した直後、残党軍の頭上には教会騎士たちが放った矢の雨が降り注いだ。

 谷という狭い場所で戦うために白兵戦のための装備を持った教会騎士たちが優先して送り込まれてきていたのが、いつの間にか、弩を持った教会騎士たちも前進し、その矢の射程に残党軍をとらえていた様子だった。


 残党軍は城壁の裏に隠れながら、城壁を乗り越えてくる教会騎士たちを迎えうった。

 教会騎士たちは仲間の死体を踏み越え、城壁に多くのはしごをかけてよじ登って来るが、残党軍は疲労ひろうしているにも関わらず教会騎士たちを次々と討ち取っていく。


 まだなんとか、残党軍の防衛線は支えられている。

 城壁という防衛設備が未だに機能しており、教会騎士たちが一気になだれ込んでくるのを防いでいるからだ。


 焦点となるのは、やはり、門の守りだった。

 ここを突破され、教会騎士たちが野営地へとなだれ込んで来たら、もう、どうしようもならなくなってしまうだろう。


 本来の予定であれば、門をふさぐバリケードの準備が完了したら、エリックたちも中に入り、それで完全に門をふさいでしまうつもりだった。

 だが、バリケードが完成する前に攻撃が再開されてしまい、防衛線の内側に戻るタイミングを失ってしまったエリックたちは、そのままそこで門を守るために戦うことになった。


「反逆者・エリックを殺せ!

 エリックの首を持って来た者は、聖騎士へと叙任されるだけでなく、聖母様が特別な加護をお与えくださるぞ! 」


 迫って来る教会騎士たちの中から、ヘルマンがそう叫んでいるのが聞こえる。

 その言葉に触発されたのかどうかはわからないが、何人もの教会騎士たちがエリックに向かって襲いかかって来た。


 エリックは門の前が狭くなっているという構造を活用して、教会騎士たちを迎えうった。

 何人もの教会騎士が手柄を求めてエリックに襲いかかってきても、狭い場所であれば同時に相手をするのは1人か2人だけに限定することができるからだ。


 そして、そういった少人数での戦いであれば、エリックは決して負けることはなかった。


 エリックは、勇者だったのだ。

 この世界を、人類を救うために選ばれ、そのための力を与えられた、人類の救世主。

 エリックはその使命を果たすために、必死に鍛錬たんれんを積み、その技量は一般的な教会騎士の力を大きく突き放すまでになっている。

 聖剣がないためにエリックは勇者としての本来の力は発揮できなかったが、それでも、教会騎士たちを倒すことは、エリックにとっては難しいことではなかった。


 エリックと一緒に門を守っているケヴィントラガルトも、強かった。

 エルフ族であるケヴィンは長い時を生きる間剣の修業を積み、その力は聖剣を持たない今のエリックを上回っていたし、リザードマンという魔物の1頭であるラガルトは、負傷しているとはいっても怪力を誇っていた。


 教会騎士たちは次々とエリックたちに挑んできたが、3人の守りを崩すことはできず、死体を増やすばかりだった。


 エリックが、もう何人目かわからない教会騎士の腕を斬り飛した。

すると、腕を失った教会騎士は悲鳴をあげて逃げ去り、だが途中で転んで、仲間たちに助けを求めるように、無様に地面を這いずっていく。


 その光景を目にして、エリックたちを取り囲むようにしていた教会騎士たちは、さすがにおじけづいてしまったようだった。

 これだけの実力差を見せつけられ、一方的に倒されるばかりなのだから、彼らがひるむのも当然のことだった。


「まったく。

 なんと、不甲斐ない! 」


 そうイマイマしそうに吐き捨てながら、這いずって助けを懇願して来た教会騎士の首を剣で斬り落としたのは、ヘルマンだった。


「たかが反逆者3人に、こうもてこずるとは!

 貴様ら、これまでリザードマンやエルフごとき、何匹でもほふってきたはずだろうが! 」


 ヘルマンが剣についた血のりを振り払いながら周囲にいる教会騎士たちを睨みつけたが、しかし、教会騎士たちは身体がすくんでしまって動けない様子だった。


 エリックたちが倒した教会騎士たちは、10人や20人では済まない。

 物言わぬしかばねとなって血だまりに沈んだ教会騎士たちの死体が、そこら中に転がって、積み重なっているのだ。

 わずかでも平常な感覚を持っている者であれば、エリックたちに率先して攻撃をしかけようとは思わないはずだった。


「フン。

 まぁ、いいさ。


 聖母様の威光をかさに着て威張り散らす以外に能のない雑魚どもになぞ、元々さほどの期待はかけていないのだからな。

 もっとも、もう少しばかり、忠誠心を見られるとは、思っていたのだが」


 動けない教会騎士たちの様子を鼻で嘲笑あざわらうと、それからヘルマンは、エリックたちの方へ視線を向けて剣をさやから引き抜いた。


「ケヴィン殿。

 ぜひ、ここはオレに任せてくれ」


 そんなヘルマンに向かって、静かに怒りを燃やしながら睨みつけていたエリックが1歩前へと進み出る。


 ヘルマンは、エリックにとって、自分自身を裏切った相手であるというだけではなく、父であるデューク伯爵のかたきだった。

 ぜひとも、この場でその首を斬り落とし、永遠にその不愉快な声を発することができないようにしてやりたかった。


「ククク。

 すまないが、反逆者・エリック。

 貴様の相手は、わたくしではないのだよ」


 しかし、ヘルマンはそうエリックのことを嘲笑ちょうしょうする。


「リディア!


 今度こそ、お前のその聖剣で、エリックにトドメを刺すのだ! 」


 そしてヘルマンがそう叫ぶのと同時に、前に進み出て来たのは、聖女・リディアだった。


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