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・第110話:「追撃:2」

・第110話:「追撃:2」


 残党軍の背後では、まだ、消火活動が続いている。

 できるだけの人数を集めて消火活動に挑んだ結果、火の勢いはやや弱まりつつあるようだった。

 だが、鎮火に成功したところで、防衛線が突破されてしまえば、意味がない。


 防衛線を守る残党軍は、その力を振り絞って教会騎士たちを迎えうった。


 最初は、防衛線の内側に入り込んで来る教会騎士たちは、少数だった。

 残党軍が築いた防御設備が教会騎士たちの接近をはばみ、1度に多数がそこを突破することを許さなかったからだ。


 しかし、防衛線に入り込んだ教会騎士たちの数は、徐々に増えて行った。

 弓兵の矢が枯渇こかつして射撃ができなくなり、魔術師が疲弊ひへいすると、城壁の前で撃破できる教会騎士の数が減り、より多くの教会騎士たちが城壁にとりつくことを許してしまったからだ。


 矢を補充しようにも、野営地の火災で燃えてしまっている。

 疲労ひろうしたり、傷を負ったりしても、交代する余裕のある予備の兵力もない。

 そうやって教会騎士たちを撃破する数が減り、その行動を阻害する頻度ひんどが減ると、城壁そのものにも教会騎士たちの攻撃によってダメージが生じて行った。


 残党軍は必死に戦ったが、徐々にその防衛線は崩されつつあった。


 エリックは、剣を片手に、防衛線のほころびを消すために駆けまわった。

 城壁を乗り越え、残党軍と白兵戦になっている教会騎士を見つけては飛び込んでいき、その魔法の剣で教会騎士たちを斬り捨てて行った。


 横から、背中から。

 エリックは教会騎士たちを倒すのに、手段を選ばなかった。


 手段を選んでいる余裕もなかったが、エリックは、そういうことを教会騎士に対してする理由も、もはや感じてはいない。


 1人でも多く。

 エリックは復讐ふくしゅうのために、聖母の手先である教会騎士たちを容赦ようしゃなく斬って行った。


 そうして残党軍はかろうじて持ちこたえることができていたが、門が破られると、状況はさらに悪化した。

 これまでは城壁をバラバラに乗り越えてくる少数の教会騎士を相手にすればよかったのだが、教会騎士たちが破った門から塊になって突っ込んで来ると、残党軍の劣勢は顕著けんちょなものになっていった。


 かなり火災を弱めることができたケヴィンが、手すきになった兵士たちを率い、自ら先頭に立って駆けつけなければ、残党軍の最後の防衛線は突破されてしまっただろう。


 門からなだれ込もうとする教会騎士たちと、それを抑えようとする残党軍。

 激しい白兵戦が戦われ、双方に多くの犠牲者が生じていく。

 しかし、やがて残党軍が押し切られてしまうことは数の差から言って自明のことであったし、門の外へと教会騎士団を追い返すのは、不可能であるように思われた。


 このままでは、負ける。

 エリックは城壁を乗り越えてきた教会騎士を斬り捨て、その鮮血を浴びながら、門の方の戦況を見て表情を険しくしていた。


「えりっくドノ! ケヴィンヲ、タノンダゾ! 」


 そんなエリックに、城壁の上で斧を振るい、教会騎士たちが城壁をよじ登るためにかけたハシゴを砕いていたラガルトが叫ぶ。

 そしてラガルトは、エリックがなにかを言う前に、城壁から飛び降りていた。


 ドスン、と着地したラガルトは、雄叫びをあげ、斧を振り回して教会騎士たちを追い散らしながら、破られた門へと向かって突撃していく。

 彼はどうやら、狭くなっている門の手前に居座ることですでに防衛線に侵入した教会騎士と後続とを分断し、ケヴィンたちに戦線を立て直す時間を作るつもりであるようだった。


 おそらく、ラガルト自身の生還は、まったく考慮こうりょしていないのだろう。

 ラガルトがエリックに言い捨てて行った言葉からは、そうとしか思えなかった。


 エリックは、一瞬、考える。

 ラガルトの作戦が成功すれば、残党軍は確かに戦線を立て直すことができるだろうし、門のところにバリケードでも築くことができれば、また、時間を稼げるかもしれない。


 だが、ラガルトは確実に、死ぬだろう。

 すでに、いくつか傷を負ってもいるのだ。


 教会騎士が突き入れてきた槍を身体に受け、その鎧もうろこも貫かれて血を流しながらも、ラガルトが自分の身体に刺さった槍をへし折り、雄叫びと共に斧を振り下ろして教会騎士の身体を両断する光景を目にしたエリックは、決意を固め、自らも城壁を飛び越えていた。


 着地の衝撃を受け身で逃し、飛び降りてきたエリックを狙って襲いかかって来た教会騎士を斬り捨てると、エリックはラガルトのところに向かって駆けた。


「えりっくドノ!?


 ナゼ、キデンマデ!? 」


 ぜー、はー、と荒い呼吸をしながらも門の前に居座っていたラガルトが、駆けつけてきたエリックの姿を目にして驚きをあらわにする。


「ラガルト殿1人より、オレも一緒に戦った方が、敵を長く防げる!


 それに、オレは貴殿のことはよく知らなかったが、ここまでの戦いで、よくわかった!

 貴殿は、ケヴィン殿にも、他の皆にも、必要な人だ! 」


 敵中を切り開いてラガルトの隣に並び、教会騎士たちと対峙したエリックは、振り向かずに敵を睨みつけたまま叫んだ。


「それに、オレは!


 聖母たちに、もう、なにも奪わせないと、そう決めているんだ! 」

「……ククッ、フハハハ!


 ナラバ、えりっくドノ、オチカラゾエ、アリガタクウケヨウゾ! 」


 そのエリックの言葉に、ラガルトは嬉しそうに、愉快そうに笑い声をあげ、力を取り戻したように斧をかまえなおす。


 門のところで敵を分断するという作戦は、うまくいったようだった。

 まだ防衛線の内部には多くの教会騎士たちが入り込んだままだったが、まとまった増援を断たれたことでケヴィンたちが押し返し始めている。


 勝負を決めたい教会騎士たちは再び門を突破しようと集まってきていたが、しかし、エリックとラガルトの2人が立ち塞がっているために、その試みは失敗し、多くの死体が積み上げられただけだった。

 ほどなくして、防衛線に入り込んだ教会騎士たちはあらかた討ち取られてしまい、ケヴィンが自ら前に出て来て、エリックとラガルトに並んだ。


「ラガルト。エリック殿。

 感謝する」


 自らも教会騎士たちの返り血を浴び、息を荒くしているケヴィンから発せられた、短いが心のこもった感謝の言葉に、ラガルトもエリックも笑みを浮かべ、うなずいてみせる。

 その光景を目にした教会騎士たちは、防衛線の突破が失敗したことを悟ったのか、態勢を立て直すために距離を取って引き下がって行った。


 そして、教会騎士たちの攻撃を押し返すことに成功した残党軍は、その疲弊ひへいを感じさせない歓声を、谷中に響かせたのだった。


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