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107/339

・第107話:「攻撃:3」

・第107話:「攻撃:3」


 損害を少なく保つために無理な抵抗はせず、退却することを選んだエリックたちだったが、当然、教会騎士たちは素直にエリックたちを下がらせてはくれなかった。

 彼らは退却を開始したエリックたちにすかさず追撃を開始し、エリックたちが後退すればしただけ前進した。


 教会騎士たちはこのまま、一気に野営地の奥深くにまで侵入を果たそうというのだろう。

 後退していく敵に合わせて前進し、敵が、味方を受け入れるための門を閉められないでいる間に、門を突破して攻め入る。

 敵、味方が接近した状況で、退却してくる味方を受け入れるために門を開いたままにするか閉じるかという判断に手間取り、結果として敵の侵入を許して城が陥落してしまったという話は、歴史上いくつも存在していることだった。


 教会騎士たちはそれを狙って、執拗しつように、厳しくエリックたちを追撃した。

 エリックたちはなんとかその追撃を振り払おうと努力したが、損害を無視して前進を続ける教会騎士たちを引き離すことがなかなかできない。


 ただ、教会騎士たちから放たれる矢が飛んでこなくなったことは、幸いだった。

 逃亡兵に対してなんの容赦ようしゃも慈悲も示さなかった教会騎士たちだったが、逃げることなく聖母の威光のために忠実に戦っている間は、味方をうつことは避けようということらしい。


 エリックたちはなんとか敵の追撃を振り切ろうとしたが、結局、次の防衛地点まで敵を引き連れていくことになってしまった。


 だが、こういった事態は、残党軍としてはある程度、織り込み済みだった。

 第二の防衛拠点は谷の入り口の奥にあり、少し曲がったところに作られていて、谷の外からは見ることのできない位置に作られている。

 つまり、谷の外からはどのような作りになっているのかわからない、ということだった。


 その防衛拠点は、谷の入り口に作られていたのと同じような、柵と門、見張り台を持つ、簡素な防衛設備だった。

 だが、敵が後退してくる味方と一緒に内部への突入を計ろうとした時に備えて、谷の外からは見えない位置で谷の斜面を掘削してスペースを作り、大量の射撃手を配置し、横から敵を集中射撃できるような工夫がされていた。


そしてそこにはすでに、戦闘準備を整えた残党軍の弓兵たちが集められている。


 残党軍の弓兵たちは、そこに彼らが存在しているということを知らないまま突入して来た教会騎士たちに向かって、彼らを指揮しているセリスの合図で、頭上から次々と矢を浴びせかけた。


 彼らが持っているのは通常の弓よりも威力の大きな長弓であり、その矢の威力は教会騎士たちの鎧を貫通し、盾さえも貫いた。

しかも、上からであるので味方の誤射を気にせず、教会騎士だけを次々と狙撃することができた。


 教会騎士たちは、バタバタと倒されていく。

 だが、彼らは頭上から矢で撃たれていることに気づくとすぐに後退し、再び盾の壁を作って防御態勢を整えた。


 長弓は教会騎士たちの鎧も盾も貫通できる威力を持ってはいるものの、さすがに、盾を貫通し、さらに鎧まで貫通できるような威力まではもっていない。

 このままでは互いに行き詰って、膠着こうちゃくすることになりそうだった。


「イマダ! ギャクシュウスル!


 ワシニ、ツヅケ! 」


 その時、エリックと共に退却する残党軍の殿を守っていたラガルトがきびすを返し、彼の得意とする武器である両手斧を振りかぶりながら、雄叫びをあげて教会騎士たちの盾の壁に向かって突っ込んでいった。

 その動きに気づいたエリックもラガルトに続き、他の残党軍の兵士たちもそれに続いた。


 教会騎士たちはラガルトたちの逆襲に備えて、盾の隙間から長槍を突き出し、槍衾やりぶすまを作って応戦しようとする。


 このまま突っ込んで行っても、槍衾やりぶすまを突破することができずに押し返されるだけだろう。

 しかし、ラガルトはそんな意味のない突撃をしかけたわけではなかった。


 谷間に、エルフ族の古い言葉による呪文と、人間の魔術師が使う魔法の呪文を唱える声が響く。

 同時に空中に冷気を結集した氷の塊が生まれ、谷に転がっていた直径2メートルほどもある大きな岩が浮かび上がる。


 魔法の呪文を唱えたのは、残党軍で一番の魔法使いであるアヌルスと、エリックのかつての仲間であり、今は共に聖母を倒すために戦っているクラリッサだった。

 2人が空中に浮かび上がらせた氷の塊と岩石は、その呪文が終わると、勢いよく教会騎士たちに向かって飛翔した。


 グォン、と大きな質量がエリックたちの頭上を飛び越え、教会騎士たちに向かって突っ込んでいく。

 大質量による攻撃は単純なだけに防ぎようがなく、教会騎士たちが生み出した槍衾やりぶすまも、盾の壁も、その一撃で破壊されてしまった。


「ハハハ!

 ヤハリ、カタマッテイルテキニハ、モノヲブツケル、コレガ、イチバン! 」


 弓兵たちに混じったアヌルスとクラリッサの姿を見つけて教会騎士たちに突撃したラガルトは、タイミングのあった支援に実に楽しそうに声をあげる。

 そして彼が振り下ろした斧が、慌てて盾をかまえなおそうとしている教会騎士の頭蓋ずがいを兜ごと叩き割った。


 ラガルトに続いて、エリックたちも教会騎士たちに雪崩なだれのように襲いかかった。

 その勢いは強く、体勢の崩れている教会騎士たちは次々と討ち取られていく。


 教会騎士たちは、最後の1人になっても戦い続けた。

 不利だからと言って退却しても聖騎士たちによって粛清しゅくせいされる運命だというのを理解していたからか、あるいは、その狂信ゆえか。


 ただ、事実なのは、エリックたちが教会騎士たちの第二派も、撃退することに成功したということだった。


 エリックたちは再び谷の外からでも見える位置にまで前進すると、そこで、谷の入り口を占拠していた教会騎士たちに向かって、討ち取った教会騎士たちから奪い取った兜などを投げつけ、勝利の歓声をあげた。


 追い詰められているのは、エリックと残党軍であるはずだった。

 未だに兵力では教会騎士団の方が圧倒しており、野営地のある谷は包囲されている。


 しかし、戦いで勝っているのは、エリックたち、残党軍の側だった。

 被害も受けてはいるが、教会騎士たちと残党軍との損害比率は残党軍の方が圧倒的に優位に立っている。


自分たちは少数でも数に勝る敵を押しているという自覚が、残党軍の士気を大きく底上げしていた。


 だが、勝利の余韻よいんは、長くは続かなかった。

 空から放たれた竜の咆哮が、谷中にとどろき渡ったからだった。


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