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・第106話:「攻撃:2」

・第106話:「攻撃:2」


 それは、異様な光景だった。


 教会騎士が、教会騎士を殺す。

 谷の外で布陣したまま待機していた教会騎士たちは、逃げ出した教会騎士たちを次々と矢で射殺いころした。

 強力な貫通力を持つ巻き上げ式の弩で射られた教会騎士たちは、なすすべもなくバタバタと倒れて行った。


 エリックたちを驚愕させたのは、それだけではなかった。

 教会騎士たちは弩の射撃を受けても生き残った教会騎士たちに、淡々と、そうするのが当然であるように、トドメをさして回ったからだ。


 矢を受けて身動きが取れなくなり、許しや慈悲を請う教会騎士たちを殺戮さつりくして回ったのは、聖母が身に着けているのと同じ、ただし素材は銀で作られた仮面をかぶった、他の教会騎士たちよりも豪華な衣装と装備を身にまとった者たちだった。


 敗走してきた味方を殺戮さつりくするという凶行に及んだ彼らは、[聖騎士]、あるいは[異端審問官]と呼ばれる、教会騎士たちの中でも上位に位置する存在だった。

 特に信仰心が厚い者たちから選抜され、教会騎士たちの信仰心や秩序を守ることをその使命として与えられている。


 おそらく、聖母の威光のために最後まで戦わず、命惜しさに逃げ出した者たちに対し、聖騎士たちが裁きを下したということなのだろう。


 それは、あまりにもおぞましい光景だった。

 聖母の威光のためならば、たとえ味方であろうとも、容赦ようしゃなく。

 エリックたちはその異様な光景を、息を飲んで見守ることしかできなかった。


 やがて敗走した教会騎士たちの中で動く者がいなくなると、聖騎士たちは陣中に姿を消していった。

 代わりに、残党軍に対する再攻撃をかけるべく、新たな教会騎士たちの集団が前進する。


 長柄の槍と、全身をおおい隠せるほど大きな盾を持った教会騎士たちの集団がエリックたちの正面に展開して、互いの肩と肩が接するような距離で密集隊形をとる。

 そして彼らは盾をかまえて、残党軍からの攻撃を受けつけない盾の壁を作ると、そのすき間から長槍を突き出して槍衾やりぶすまを形作った。


 どうやら教会騎士たちは、容易に接近することを許さず、生半可な攻撃では跳ね返されるだけの盾の壁と槍衾やりぶすまを築いた密集隊形で、エリックたちからの反撃を許さずに谷の入り口を突破するつもりであるようだった。


 教会騎士たちの陣から、谷の奥まで反響するような角笛の長く低い音が響き渡る。

 そしてその音を合図に、教会騎士たちの密集隊形は、ゆっくりと前進を開始した。


 そしてその前進に合わせるように、教会騎士たちの陣地から放たれた矢が降り注ぐ。

 エリックは自分に向かって飛んできた矢を剣で叩き、空中でなぎ払って防いだが、そうすることのできなかった残党軍の兵士たちは次々と矢を受けてその場に倒れこんだ。


「クッ!

 ミナ、イチド、サガレ! 」


 このまま攻撃にさらされていては被害が増えるだけだと判断したラガルトはすぐに後退命令を発し、自ら負傷者を両脇に抱えて柵の内側へと撤退する。

 エリックも他の兵士たちと協力して負傷兵を運び、矢を剣で払いのけながら下がった。


 エリックたちが柵の後ろに身を隠しても、教会騎士たちからの射撃はやまなかった。

 彼らは絶え間なく射撃し続けることで柵の後ろ側に残党軍を釘付けにし、前進を続ける教会騎士の密集隊形に対し、反撃することを封じようとしているようだった。


 残党軍の側にも射手はいたが、密集隊形を組んだ教会騎士たちが作った盾の壁に阻まれて攻撃が通らず、また、谷の外から次々と教会騎士たちが放ってくる矢の数に対し、遠く及ばない量の反撃しかすることができていない。


 教会騎士たちはゆっくりと、確実に迫って来る。


「アレは、普通の武器じゃダメだ!


 連絡して、魔術師を前に出してもらおう! 」


 柵の隙間から敵の様子を確認し、矢が自分に向かって飛んできたのですぐに顔を引っこめたエリックは、ラガルトに向かってそう叫ぶ。


 あの盾の壁の堅牢けんろうな守りは、エリックたちの手元にある武器ではどうすることもできないし、断続的に矢が飛んでくるのでうかつに動くこともできない。

 また、接近しようにも、盾の隙間から突き出されている槍によって阻まれるだけだろう。


あの盾の壁の内側には、接近戦用の武器を持った教会騎士たちが保護されている。

 一度近づかれてしまえば、盾の壁の中から接近戦に特化した教会騎士たちが姿をあらわし、襲いかかってくることだろう。


 教会騎士たちの先陣を倒すことができたように、この攻撃もエリックたちは撃退できるかもしれない。

 しかし、そうして接近戦に手いっぱいになっている間に次々と新手の接近を許してしまえば持ちこたえられないし、こちらが受ける被害も大きなものになるはずだった。


「ワカッタ!

 デンレイヲ、ダス!


 あぬるすヲ、ヨンデクレ! 」


 ラガルトもすぐにエリックと同じ結論に至ったようで、柵の後ろに隠れていた亜人種の1人の肩を叩き、伝令に走らせる。


 しかし、後方に向かって駆け出していったその亜人種の背中を、狙ったものなのか、流れ弾なのかはわからないが、教会騎士たちが放った矢が貫いてしまった。

 背中から矢を受けたその伝令は走っていた姿勢のままそのまま倒れこみ、動かなくなってしまう。


「オノレ、ヨクモ……!


 ダレカ、デンレイニ、シガンスルモノハ!? 」


 ラガルトは改めて伝令を送ろうとしたが、しかし、誰も声をあげなかった。

 教会騎士たちからの射撃が続き、その中を突破して後方にたどり着ける自信がある者など、誰もいなかったのだ。


 教会騎士の密集隊形が、着実に近づいてくる。

 その槍の先端はすでに、門があった場所にまで届いていた。


 そして教会騎士たちが十分に接近すると、その盾の壁の間から、接近戦に特化した教会騎士たちが躍り出て、柵の後ろに隠れていたエリックたちに奇声を発しながら襲いかかって来る。


 エリックは自分に向かって来た教会騎士を素早く斬り捨てたが、表情を険しくしながらチッ、っと舌打ちをしていた。


 悪い形になってしまった。

 このまま攻め込んできた教会騎士たちを撃退するにしても、彼らを片づける間に後方から増援が送り込まれてしまえば、消耗戦にならざるを得ない。

 そして数で劣る以上、消耗戦になったらエリックたちの負けは確実だった。


 教会騎士たちとしても戦力の逐次投入ちくじとうにゅうになるが、彼らにとっては聖母の威光を明らかにすることがすべてであり、たとえ大きな被害を出したとしてもエリックたちをすりつぶすためならなんでもするはずだった。


「ヤムヲ、エヌ!

 ミナ、ツギノキョテンニマデ、コウタイスルノダ! 」


 ラガルトは教会騎士たちが突き入れて来る槍を脇で束ねて受け止めながら、後退命令を発していた。


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