第98話 バチバチ選挙バトル③
レイナが出馬を決意してからちょうど一週間。
生徒会選挙の演説を聞くため、五時間目の授業時間を潰して、全校の生徒達が体育館に集められていた。
「レイナ、どう? 緊張してる?」
「いや、全然。思ったことを皆の前で話すだけだし」
「随分と肝が据わっているね。その精神力を僕にも分けてほしいよ。試合前は緊張でガチガチになっちゃうから」
身体能力の高いリョウコは精神面も強いと思われがちだが、ちゃんと人並みに緊張はする。中学生の頃のバドミントンの大会では、いつも通りの実力が出せず県大会で負けてしまっている。
「レイナちゃんよりも私の方が緊張しちゃってますよ。応援演説ちゃんとできるでしょうか?」
「チカならきっとできるわ!」
「ユリちゃん、手を握っていてくれますか?」
「だ、駄目よ! 何考えてるの、おバカ!」
「ユリちゃんの温もりがあれば何だってできる気がしたんですが残念です……」
「そ、そこまで言うなら握ってあげないことも……」
「いえ、無理はしないでください」
「そんな、無理なんて……」
「ほら、もうすぐ始まりますよ。怒られちゃうので静かにしましょう!」
「あっ……」
生徒達はガヤガヤと会話をしていたが、司会の女子生徒がマイクを握った瞬間、誰もが話をやめて体育館に静寂が訪れた。
「これより生徒会選挙の演説を始めます。まず初めに生徒会長の挨拶です。会長、お願いします」
ステージの上に一人の女子生徒が現れた。三年生の現生徒会長だ。一年生の頃から生徒会に関わっていただけあって圧倒的な威厳を感じられる。
レイナはそんな彼女の姿を見つめ、自分もいつかあのようになりたいと目を輝かせた。
「私達の先輩方が何代にもわたって守ってきたこの学校の代表を決める選挙です。この学校を任せるに相応しいのは誰か。演説をよく聞いた上で判断して投票してください」
清らかな声でそう述べると生徒会長は舞台袖へ去っていった。
「それでは順番に演説を始めていただきます。まずは生徒会長の立候補者からお願いします」
生徒会選挙の演説がついに始まった。候補者達は生徒会に入ったらやりたいことなどを述べ、聴衆はそれをじっくりと聞いている。しかしそんな中、寝息を立てる女子生徒が二名いた。
「すぴ〜、すぴ〜」
「すやぁ……もう食べられないですぅ……」
そう、A組の眠り姫コンビであるチカとレイナだ。選挙の緊迫感よりも眠気が勝ってしまったのだ。
「二人とも、起きて!」
「う〜ん……リョウコ、おはよう」
「おはようございます。もう少しだけ寝てちゃ駄目ですか?」
「駄目に決まってるでしょ! 今は選挙中だよ」
「あっ、そうでした! 私達の出番はいつでしょうか?」
「もうすぐだよ」
「次は副会長の演説です。候補者の方と推薦者の方は前に来てください」
「ほら、呼ばれてるよ。行ってきな!」
リョウコに背中を押され、二人は列から抜けてステージに向かう。ハルカとの決戦がついに始まるのだ。
「まずは一人目の候補者、馬場春華さんからお願いします」
「はい!」
ハルカはマイクに顔を近づけると、スラスラと話し始める。
「私が生徒会に入った暁には無駄を削り、運動部の予算をアップさせることを約束いたしますわ。特に昨年度輝かしい実績を残したバドミントン部は大幅に増額するつもりですわよ」
彼女は凛とした声で、胸を張って堂々と演説をしている。その姿を見ていると不思議と心を奪われそうになってしまう。これが彼女の生まれ持ったカリスマ性なのだろう。
「バドミントン部の予算増額……僕、ハルカに投票しようかな」
「ちょっとリョウコ、友達を裏切るつもり?」
「友達だからって投票するのは違うんじゃないかな? 自分が本当に相応しいと思った人に投票するべきだと思うな」
「確かにそうかもしれないわね。私ったら公私混同していたわ」
リョウコとユリは早くもハルカに取り込まれてしまった。
「そして部活だけではなく学校行事も充実させますわ。文化祭に芸能人を招いたりします」
「おおー!」
会場から歓声が上がる。彼女はこの短時間で聴衆の心を掴んだのだ。果たしてレイナはハルカという強敵に勝てるのだろうか。
その後も演説はスラスラと進んでいった。彼女は喋るべき内容を暗記しているので、滑らかに話し続けることができるのだ。
「以上で私の演説を終わります」
大きな拍手が巻き起こった。このまま投票が始まれば全員がハルカに投票してしまいそうな勢いだ。
「続いて応援演説、山県美穂さんお願いします」
「はいは〜い! ハルカはなあ、副会長に相応しい人材やと思うで! あの子の普段の風紀委員としての活動を見れば……」
ミホはいつも通りの愛嬌のある話し方でハルカの良い所を人々に伝える。ハルカとはまた違った形の魅力に聴衆は釘付けになった。
「以上やで。皆、ウチのハルカに投票してな〜」
「馬場さん、山県さん、ありがとうございました。それでは二人目の候補者、丹羽怜奈さんお願いします」
レイナはマイクをスタンドから抜き取り、大きな声で元気良く叫んだ。
「学園のアイドル、レイナちゃん登場だよん!」
「ドンドンパフパフ! ヒュ〜! 可愛い〜!」
レイナが渾身の決めポーズをすると、脇にいるチカが必死に盛り上げる。
その様子を見ていた聴衆からは笑いが巻き起こる。
「今回立候補したのは副会長だけど、私はいずれ生徒会長になるつもりだよん!」
「いよっ! 大統領!」
「生徒会長になったらこの学校を私の愛情で満たすよん! 皆を笑顔にしてみせる!」
「これはもう、惚れてしまいますよ!」
レイナとチカの漫才じみた演説は見る者を虜にした。生徒会選挙に興味が無い層の興味をも惹きつけ、先程のハルカの演説にも劣らない勢いを見せていた。
「……以上で私の演説を終わりにするよん! 皆の力で私を勝たせてね! そして目指すは日本武道館ライブだ!」
もはや何を目指しているのか本人もわからなくなっているが、どうにか演説は無事に終了した。




