第88話 体育祭編⑥ 大将対決
「選手達の入場です! 皆さん、拍手でお迎えください!」
決勝戦ということもあり、会場は一番の盛り上がりを見せていた。中には今にも仕切りのロープを越えようとする程熱狂的な観客もいる。
「チカ〜! 頑張りなさいよ〜!」
「は〜い!」
保護者席から大声で声援を送ってくる母親に、チカは笑顔で手を振り返した。傍目から見てもこの親子の仲の良さがよくわかる。
A組の生徒達は一回戦から変わらず、鶴翼の陣で布陣した。
「この勝負、勝てるよ!」
「リョウコ、油断しちゃ駄目よ。マサミは普段はあんなんだけど、実力は本物だから」
「油断なんかしてないよ。何たって『魔のB組』だからね。でも心配し過ぎるのも良くないだろう?」
「確かにそうね」
「僕の立てた完璧な作戦と、血の滲むような努力の結晶があれば必ず勝てる!」
「やっぱりリョウコは頼もしいわね」
「それでは決勝戦スタートです!」
ピストルの音が鳴り響き、運命の決勝戦が始まる。
「お前達、前進だ! リョウコの奴をぎゃふんと言わせてやるぞ!」
マサミの号令でB組の騎馬隊はゆっくりと前進を始める。彼女もリョウコと同様、学校中の一年生から三年生の中でトップクラスの身体能力を持っているため大将を務めているのだ。
「さあ来い。早く罠にかかるんだ」
リョウコはB組の軍勢がV字の中に誘い込まれるのを虎視眈々と待ち続ける。しかしどれだけ待っても獲物は罠にかからない。右翼と左翼に攻撃をしかけるだけだ。
「どうして……どうして罠にかからないんだ!」
リョウコは苛立ちの感情を露にする。それを見て、マサミは勝ち誇ったように叫んだ。
「私はここ最近ずっとお前のことを観察していた! だからお前の考えることは全てお見通しなんだよ!」
「うわあ、気持ち悪い……」
そんなやりとりをしている間にも戦闘は続いている。B組は無理に大将を狙わずに、両翼の騎馬を各個撃破している。A組は包囲ができないため正面から衝突することを強いられる。戦況は身体能力の高い生徒が集まったB組が優勢となっている。
「うわぁー!」
左翼でA組の主戦力として戦っていたレイナが、バランスを崩した隙に討ち取られてしまった。
「不味いわよ、どうするの?」
「ククク……奴は四天王の中でも最弱」
「ふざけてる場合じゃないでしょ! このままじゃ負けちゃうわよ!」
「何も思いつかない……高坂がここまで頭が良いとは思わなかった。ヤバいヤバいヤバいヤバい」
自分の作戦が崩れ、リョウコはパニック状態に陥ってしまう。まさに策士策に溺れるという状況だ。
「じれったいわね。こうなったら私が指揮をとるわ!」
「騎馬戦の戦術なんてわかるの?」
「今、考えてるからちょっと待って!」
ユリは目を閉じて自分のこめかみに手を当てる。そのまま頭の中で三つ数える。
「降ってきたわ!」
「よし、手短に説明して!」
「今、敵は右翼と左翼に殺到していて真ん中が手薄になっている。だから真ん中を突破して敵の本陣に奇襲をかけるのよ」
「なるほど、本陣を奇襲か。前線で戦っている兵を下手に本陣まで撤退させると追撃を受けて壊滅する可能性があるから、相手は慎重にならざるを得ない。だから即座に本陣の守りを固められてしまう可能性は低い。なかなか有効な作戦かもしれないね」
「でしょでしょ!」
「ただ一つ問題がある。左翼も右翼もギリギリの状態で戦っているから奇襲隊に割く人員がいないんだ」
「それなら問題無いわ。こっちも本陣を動かせば良いのよ」
「大将の僕自ら出向くと?」
「そういうことよ。こうしている間にも味方がどんどん脱落しているわ。さっさと行くわよ!」
「ちょっと待ってよ!」
勢いよく前進していくユリをリョウコは慌てて追いかけた。
A組本陣の人数はリョウコとユリを合わせて六騎だ。ユリの目論見通り、敵の中央を難なく突破することに成功する。
「おい、今真ん中をつっきったのA組の大将じゃないか?」
「本当だ! あいつを追いかけろ!」
「させませんよ! 皆さん、背を向けた相手から狙ってください!」
B組の前線部隊はリョウコを追いかけるため兵を反転させるが、チカ達によって阻まれてしまう。
「チカ達が敵を引き受けてくれているうちに大将を討ちとるわよ!」
「うん!」
リョウコ達は大将が控えるC組の本陣に到達した。
「はっはっは! 私に会いたくて自ら突っ込んできたか!」
「君のこと、ボコボコにさせてもらうよ!」
「残念ながらお前は私に指一本触れられないぜ。者ども行けー!」
マサミの護衛達がリョウコに襲いかかる。
「ここは私達に任せてリョウコはマサミを倒して!」
「ちゃんと戦えるの?」
「リョウコの猛特訓のお陰で少し強くなったのよ。それにチカのお弁当パワーもまだ残ってるから!」
「じゃあ任せた!」
敵の護衛兵をユリ達に任せて、リョウコはマサミに向かって一直線に進んでいく。
「高坂! 特別に一騎討ちをしてやる!」
「望むところだ!」
両者は馬を密着させる。互いに頭にある帽子を狙って腕を伸ばす。
「その帽子よこせ!」
「僕に勝てると思ったら大間違いだよ!」
両者一歩も譲らない互角な戦いを繰り広げている。
「リョウコ、A組の前線が崩壊しかけてるわ! 早くして!」
右翼で奮戦していたチカも既に脱落してしまい、余裕が生まれたB組の生徒達は本陣に向けて引き返し始めている。
「わかってるよ!」
リョウコは左手でマサミの肩を掴み、頭めがけて右手を伸ばす。マサミも負けじとリョウコの帽子を狙う。
「競技終了です!」
リョウコとマサミ、双方の頭からは帽子が消えている。ほぼ同時に互いの帽子を奪い取ったのだ。




