第69話 チカのGW編⑭ 知りたくなかったもの
マイがベッドの上で爆睡しているため、退屈に感じたチカは他の親戚の部屋を巡り、そこで会話を楽しんだ。
仲の良い親戚の部屋を一通り回り終わると屋敷の外に出て、近くの野山を走り回って自然を満喫した。
体力が尽きると自分の部屋に戻り、テレビを見たりして時間を潰した。
「ぐごぉー! ぐごぉー! くぁwせdrftgyふじこlp!」
(すさまじいいびきと寝言ですね。これは相当酔っ払っているみたいです。でも、そろそろ夕食の時間ですし起こさなくては)
両手でマイの体を掴み激しく揺らす。
「マイちゃん、起きてください! もうすぐ夕食の時間です!」
意外にもマイはすんなり体を起こし、ぱっちりと目を見開く。
「マイちゃん! 起きてくれたん……」
「くぁwせdrftgyふじこlp!」
「え!? もしかしてまだ寝ぼけているのですか?」
「ははっ、冗談だよ! もうバッチリ目覚めたよ!」
「びっくりさせないでください!」
「ごめん、ごめん。ほら、夕食を食べに行こう!」
「はい!」
二人は部屋を出て、親戚達の集まる大広間へ向かった。
「皆、集まったかのう。今回もちゃんと酒を用意しておいたぞ!」
大広間の中へ日本酒の入った樽が運び込まれる。先程よりも量が多い。
使用人達が酒を配っている。
「私にもくださ〜い!」
「マイちゃんはもうやめておきなさい!」
マイが酒をもらおうとして使用人を呼ぶも、チカの母親にそれを阻まれる。
「え〜、叔母さんのケチ〜」
「ケチじゃないの! また酔っ払ったらどうするの? さっき運ぶの大変だったんだから」
「今度は大丈夫だよ!」
「信用できません!」
「昨日、私のことしっかりしてるって言ってくれたじゃん!」
「あれは嘘よ!」
「嘘だったの!?」
「とにかく、もうお酒は駄目よ!」
「わかったよ……」
マイはしょんぼりして下を向いてしまった。結局、酒の代わりにジュースをもらうことになった。
チカも酒を勧められたが断った。彼女は酒に強いので飲んでも問題ないのだが、飲めないマイに気兼ねして自分も飲まないことにしたのだ。
「それでは乾杯といこう。乾杯!」
「乾杯!」
光吉の音頭に合わせて乾杯をすると夕食の時間が始まった。
マイは寝起きにも関わらずすごくお腹が空いていたようで、視界に入ったあらゆる料理を口の中に放り込んでいく。
「マイちゃんはよく食べますねえ。口いっぱいに頬張っている姿が可愛くて良いんですけどね」
「チカ! この謎の肉、超旨いよ!」
「本当ですね。謎の肉最高! これ何ていう名前でしたっけ? 前にも食べたことありますが、どうしても名前を思い出せなくて」
「私も食べたことあるんだけど、何だったかなぁ? 確かカタカナだった気がするんだけど……」
「フォアグラじゃな」
頭を抱えて考えても思い浮かばない二人に光吉は助け舟を出す。
「あ、そうです! フォアグラです!」
「フォアグラ、謎に美味しいんだよね!」
「本当に謎に美味しいんじゃよな。ガチョウの肝臓がどうしてここまでの旨味を出せるのか」
「ん? ガチョウの肝臓って何ですか?」
「強制給餌と言ってな、ガチョウの口に鉄のパイプを突っ込んで強制的に餌を与え、ガチョウを太らせて肝臓を通常の十倍くらいに肥大化させるんじゃ。この肥大化した肝臓がフォアグラの正体じゃよ。今まで知らんで食っておったのか?」
フォアグラはその希少性と美味しさからキャビア、トリュフと並んで世界三大珍味と呼ばれている。それが作られる過程を知り、チカとマイは顔色を真っ青に変えた。一歩後ずさり、フォアグラと距離を取ろうとする。
「ちょっと気持ち悪いかも……」
「ですね。フォアグラはやめておきましょう」
二人は別の皿からウニを取り、口に運ぼうとする。
「ちなみにウニのオレンジ色の部分、つまりお前達が食べようとしてる部分じゃな。そこはウニの精巣じゃよ」
「大伯父さん、やめてください!」
「食べる気無くなっちゃうじゃん!」
口ではそう言うものの、二人ともしっかりウニを頬張っている。食材の正体は何であれ、美味しい物は美味しいのだ。
「それにしてもフォアグラって残酷な作り方するんですね。ガチョウさんが可哀想です」
「だよね。食事は楽しむものなのに、強制的に口に流し込まれるなんて相当な苦痛だよ」
「人間に食べられる動物は皆、何かしら辛い目にあっているのじゃよ。牛、豚、鶏は我々が食べるメジャーな畜産動物じゃが、どれも屠殺される時は麻酔も無く苦しみながら死んでいく。死ぬ前に悲鳴をあげて大暴れすることもあるそうじゃ」
光吉の話を聞いて、二人は目に涙を浮かべた。残酷なことをする人間の恐ろしさや動物に対する可哀想という思いなど、様々な感情が入り混じって涙という形になって現れたのだ。
「シクシク……」
「うわ〜ん!」
「お前達、高校生になってまで人前で泣くな! だがその気持ちを忘れるでないぞ。肉や魚を食べる時は、その死んでくれた動物に対して感謝するんじゃ。それが彼らへの弔いとなる」
「はい!」
二人は高校生にして食べられる動物達の尊さを学んだ。感謝の念を込めながらフォアグラを口の中に運び、よく噛んで味わって食べる。
「大伯父さん、こんなに美味しい食材をたくさん用意してくれてありがとうございます!」
「いいってことよ。皆をもてなすことがワシの生き甲斐じゃからな」
「けっこうお金かかったんじゃないですか?」
「そんなでもないぞ。せいぜい数百万くらいじゃないか?」
「す、すうひゃくまん!?」
流石、大富豪だ。金銭感覚が一般庶民とかけ離れており、何ヶ月もかけて稼ぐような金額をたったの一晩で使ってしまう。
宴会はとても盛り上がり、酔った大人達がどじょうすくいなどの宴会芸を披露し始めた。それを見る人々は爆笑し、大きな笑いの渦が部屋の中に立ち込めた。




