第67話 チカのGW編⑫ 楽しい?ドライブ
車は安全運転してください
「叔母さん止めて止めて!」
「世界が回っています。万物は流転するんですね」
「ほら、チカがおかしくなっちゃってるから! 顔が真っ青だよ!」
「今の私は誰にも止められないわよ! せいぜい成仏できるように祈りを捧げておくことね!」
「嫌だ! 死にたくない!」
ハンドルを握ると人格が変わる人がいると言うが、チカの母親がまさにそれだ。先程まではどうにか感情を抑えていたが、おでんを白米のおかずにすることを全否定されて爆発してしまったようだ。都会でやればすぐにお縄にかかるような暴走運転を五分以上も続けている。
チカの父親はこんな時でも眠り続けている。肝が据わっているのか危機管理能力が欠如しているのかよくわからない性格だ。
「私は輪廻転生します……」
「叔母さんヤバいって! チカ死んじゃうよ!」
「この程度で死ぬ人間は私の娘じゃないわ!」
「なんて鬼畜なことを!?」
「シートベルトしてるから大丈夫でしょ、多分」
「だと良いんだけど……」
シートベルトをしていたとしても猛スピードで壁や他の自動車に追突すれば大怪我は免れない。最悪の場合、搭乗者全員が死亡こともあり得る。安全運転を心がけよう。
「マイちゃんも一緒に逝きましょう……」
現世と冥界の境目を漂いながら車に揺られていると、前方に大きな和風の建物が現れた。
「叔母さん、もうすぐ着くからスピード落として! 本家に突っ込んだらヤバいよ!」
「チッ、ここまでか……」
車は徐々にスピードを緩め、ゆっくりと駐車場に停車した。
「いやぁ〜、楽しかったわね!」
「やっと終わりましたか。吐き気がヤバいです……」
チカは激しく酔ってしまい、顔色は青を通り越して紫色に変色している。
四人は車から降りると屋敷の門の前まで歩いて移動する。そしてチカがインターホンのボタンを押した。ピンポーンという呼び出し音が響く。
「はい……何かご用でしょうか?」
インターホンを鳴らしてしばらくすると、来客対応の女性が通話に出た。この家の土地はとにかく広大で管理が大変なため、多くの使用人を雇っているのだ。
チカの祖母の家も本家には及ばないもののとても広い。しかし彼女はできる限りのことは自分でやりたい性格のため、最低限の清掃員しか雇っていない。
「どうもこんにちは。その声は藤田さんですね? 私が誰だかわかりますか〜?」
「イェ〜イ! ピース、ピース!」
チカとマイはインターホンのカメラの部分に顔を近づけ、眩い笑顔を見せつける。
「もしかしてチカお嬢様とマイお嬢様ですか?」
「そうですよ!」
「少し見ない間に立派に成長なされて……今、門を開けに参ります!」
インターホンの通話が切れた。それから少し待っていると、ゆっくりと門が開かれた。
「藤田さん、お久しぶりです!」
「ちわーっす!」
「チカお嬢様、マイお嬢様、お久しぶりでございます。さあ、こちらへどうぞ」
チカ達は藤田の後を歩いて親戚達の集まっている場所へ向かう。大きな敷地のため何処へ行くにも長い距離を歩かなければならない。その道中、チカは興奮した様子でキョロキョロと辺りを見回す。鯉の泳ぐ大きな池やししおどしなど、日本庭園を代表するあらゆる物が並べられている。
「やっぱり何度見てもこの屋敷には圧倒されますね。この規模の住宅は他所では見たことがありません」
「明智家はもともと江戸時代の大名家の重臣だったからね〜。その頃の武家屋敷を補修して使ってるんだから、そりゃあすごいよ!」
「ですね!」
「皆様、到着いたしました。どうぞお入りください」
藤田が大広間の襖を開く。そこを通りチカ達は中へ入った。
大広間には大きな机と大量の座布団が並べられており、明智家の親族がずらりと並んでいる。大きな休みになると可能な限りは本家に集合するというのが明智家の恒例行事なのだ。
「皆さん、お久しぶりです。チカです!」
「マイだよー!」
二人が挨拶すると部屋に黄色い歓声が響き渡る。若くて見た目が綺麗な二人は一族の中でも人気が高いのだ。
「チカちゃん元気してたかい?」
「はい、梅おばさん! 関東の生活にも慣れて、友達と楽しい毎日を過ごしていますよ!」
「そうかい、そうかい」
「チカ、お前さんこんなに背が大きくなって」
「一郎おじさん、それ毎回言うじゃないですか」
「あれれ? そうだったっけな〜?」
チカとマイは親戚達への挨拶を一通り済ませた。人数が多いため全員に挨拶し終わる頃には二人はヘトヘトに疲れてしまっていた。
「ふう……だいたい終わりましたね。ですが、大叔父さんがいませんね」
「本当だ。どこにいるんだろ?」
明智家当主である大伯父の定位置になっている一番上座の席には誰もいない。
不思議に思いながらもとりあえず、チカ達は自分の席に座った。大伯父の直系の親族は息子一人と孫一人しかいないため、チカとマイの席次はかなり上の方になっている。
親族一同のほとんどが席に着き、ガヤガヤと会話をしていると部屋の中に一人の老人が入ってきた。年老いていて全身の毛が白くなっても若い頃と変わらぬ気迫を放つその老人はチカの大伯父である。彼が現れると今まで話していた人々はピタリと会話をやめ、部屋に静寂が訪れた。




