第64話 チカのGW編⑨ 従姉妹で入浴
「広いお風呂ですね〜! 温泉旅館みたいです!」
この家の風呂は四、五人でもゆったりと入ることのできる大きな檜風呂だ。
壁の一部はガラス張りになっており、緑豊かな日本庭園を眺めることができる。
「背中洗いっこしますか?」
「ユリちゃんって子とやったんだっけ?」
「はい!」
「なら私もお願いしちゃおうかな!」
マイは椅子に腰掛けて、背中を差し出す。チカは手で石鹸を泡立て、マイの背中を流し始めた。
「あー、気持ちいいねえ。こんな可愛い子に背中を流してもらえるなんて、天にも昇る気分だよ」
「マイちゃん、おじさんみたいな声出しますね」
「ありゃ、本当? チカの洗い方が上手だったから、変な声でちゃったみたい」
「スプリングセミナーの時に、何回か友達の背中を流したので上達したのかもしれませんね。はい、終わりましたよ!」
チカはシャワーでマイの背中の泡を全て洗い流した。
「じゃあ次は私が洗ってあげる。ここ座って」
マイとチカは立ち上がり、お互いのポジションを交換した。
「それじゃあいくよ〜」
マイは泡のついた手でチカの背中を優しくこする。
「マイちゃんも上手ですね〜。気持ち良いですよ!」
「でしょでしょ。それじゃあ前の方も失礼するよ!」
「きゃあっ!?」
背中からゆっくりと手を回し、チカの両胸を鷲づかみにする。突然の出来事にチカは体をビクンとくねらせた。
「そんな強く掴まないでください!」
「ごめんごめん、痛かった?」
マイは両手をパッと上にあげる。
「不意打ちはびっくりするので、やめてください!」
「けっこう大きくなってたもんだからさ〜、どうしても触ってみたくなっちゃったんだよね〜」
「マイちゃんとあまり変わらないですよ」
「自分の持っている物よりも他の人が持っている物が輝いて見える、人間の悲しい性だねえ」
「深いですねえ……」
「そろそろシャワーで流すよ」
背中の泡が完全に洗い流され、ツヤツヤとした肌はいっそうと輝きを増した。
「それじゃあお待ちかねの入浴です!」
チカは両足を浴槽の中にちゃぽんと入れた。
「あっつ!? 熱いです!」
「四十三度だからねえ。お婆ちゃん、私好みの熱々風呂にしてくれたんだよ」
マイは気持ち良さそうに肩まで浸かっている。
「こんな地獄の釜みたいなのが良いんですか?」
「慣れれば気持ち良いよ。ちゃんと肩まで浸かってみな」
チカは恐る恐る腰を下ろし、全身を湯に浸からせた。
「どう?」
「普通に死にそうなのですが」
「ゆっくり十数えてごらん」
「い〜ち、に〜い、さ〜ん…………きゅ〜う、じゅ〜う!」
「どう?」
「確かに気持ち良い気がしてきました」
「でしょ! でも長時間入り過ぎるとのぼせるから気をつけてね」
「はい!」
二人は手足を伸ばして広い浴槽を堪能している。その気になれば、浴槽の中で軽い水泳をすることもできそうだ。
「そういえばマイちゃん、腹筋つきました?」
「おお、わかるかい? 高校で陸上部に入ってね、たくさんトレーニングしたんだ」
「触ってみても?」
「どうぞどうぞ!」
チカはマイの腹筋に右手を当てた。軽く押してみるも、鉄の塊のようにびくともしない。
「カッチカチですね。でもリョウコちゃんの方が固かった気がします」
「嘘!? 関東には私に勝るほどの猛者がいるというのか……」
「仕方ないですよ。リョウコちゃんは霊長類最強ですから」
「霊長類最強」は個人で世界大会十六連覇、個人戦二百六連勝を記録した女子レスラーの肩書きだ。しかしリョウコももっと鍛錬を積めば、それと同程度の力を身につけられる日が来るかもしれない。
「そのリョウコちゃんって子のこと気になるなあ。チカの話だと、けっこうコンスタントにトレーニングしてるみたいだし」
「リョウコちゃんは筋肉に命を賭けていますからね」
「その子とは一度、筋肉についてじっくりと語り合ってみたいね。多分一晩中でも話し続けられる気がするよ」
「二人はきっと気が合うと思いますよ! いつかマイちゃんが関東に来た時には、私のお友達も紹介します!」
「うん、それは楽しみだ!」
今までの人生で一度も関東に行ったことのないマイは、まだ見ぬ新たな世界を想像して胸を躍らせた。
「ちょっとフラフラしてきました……」
「のぼせかけてるのかな? そろそろ上がろうか」
マイはチカに肩を貸して立ち上がらせる。二人は風呂を上がり、脱衣所へ向かった。




