第62話 チカのGW編⑦ 祖母の家での夕食
「たっだいまー!」
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい。夕飯の用意できたよ」
家に戻ってきたチカとマイは祖母に温かく迎えられ、大広間に向かった。そこには既にチカの母親と父親が座布団に座って待っていた。マイは一人で遊びに来ているため、彼女の両親はこの場にはいない。
部屋の真ん中に置かれた大きなテーブルの上には、和洋中あらゆるジャンルの料理がぎっしりと並べられている。
「どれもこの辺じゃ最高級の店で注文した物だよ。たーんとお食べ!」
「ありがとうございます! いただきます!」
「いっただっきま〜す!」
二人はパチンと小気味よい音を立てていただきますをすると、箸を掴み大皿に盛られた料理に手を伸ばした。
チカは真っ先に寿司を取り、自分の口へと運ぶ。
「やっぱり九州に帰ってきたらお寿司は外せませんね。特に春が旬のこの真鯛! 味、香り、食感、全てが最高レベルです! 魚介の旨味が凝縮されていて、世界で一番美味しい魚と言っても過言ではありませんね!」
「この和牛のステーキ、最高だよ! 安物のステーキは時間が経つと固くなっちゃうけど、これはずっと柔らかいままだ! この柔らかな食感と、噛むと溢れ出すジューシーな肉汁が、口の中に天国を作り上げている!」
マイが食べたステーキは、A5ランクの黒毛和牛を使った庶民にはめったにお目にかかれない最高級の物だ。それを彼女は大量に口の中へと放り込んでいる。何て贅沢な女子高生なのだろう。
「ははっ。喜んでもらえたみたいで良かった」
祖母は美味しそうにご馳走を頬張る二人の姿を見て、心底幸せそうな表情を見せた。
「フカヒレも美味しいですね。お婆ちゃんの家に来た時くらいしか食べられない物ですが、私の大好物です! この独特の風味と独特の食感、言語化することは難しいのですがとにかく味わいが最高なんです!」
「わかる。フカヒレ美味しいよね。家でもよく食べるよ!」
「羨ましいです! 家ではフカヒレなんて食べさせてくれないんですよ。この前お母さんにお願いした時、フカヒレ入りの中華スープというのを買ってもらったのですがほとんどただのスープだったんです!」
「悪かったわね、けちな母親で! 普段から贅沢すると駄目な大人に育つから、あなたのためを思ってやってることなのよ!」
チカの母親は我儘を言うチカを軽く叱った。子供の頃から贅沢な生活をさせすぎると金銭感覚が狂って大人になった時に苦労するので、敢えて一般人と同じレベルの生活をさせるというのがチカの母親の教育方針なのだ。
「叔母さんから見たら私は駄目人間なんだね……」
「そういう訳じゃないのよマイちゃん! ぼんやりしてるチカとは違って、あなたはしっかりした子だから。だから落ち込まないで! ね?」
「嘘、嘘。全然落ち込んでないよ」
俯いていたマイはケロッとした表情で顔を上げた。
「マイちゃん! はふはふはふはふ......! ふんふんふんふん……!」
「チカ、食べながらだと何言ってるか全然わかんない!」
チカは口いっぱいに頬張っている食べ物を食道に落とした。
「あんまりお母さんをからかわないであげてください! 可哀想です!」
「そうだね。ごめんなさい」
それからも二人はテーブル上の高級料理をどんどんと口の中に詰め込んでいき、全ての皿を空にした。
「ごちそうさまでした!」
「美味しかったよ、お婆ちゃん!」
「それは良かったよ」
「お片付け手伝いますね! ほら、マイちゃんも!」
「え〜、ダルい〜」
「こんなに美味しい物を食べさせてもらったんですから、その分働かないといけませんよ! 私達はもう子供じゃないんですから!」
チカは腰に手を当てて、マイに説教をした。
「む〜、わかったよ……」
「二人ともありがとうねえ」
チカとマイは空になった皿を重ねて、台所に向かった。
「たくさん持ち過ぎてフラフラします」
「気をつけなよ。どれも一枚何十万円もする超高級なお皿だから、割ったらヤバいよ〜」
「お皿一枚でそんな値段するんですか!? 慎重に……慎重に……」
チカは丁寧にゆっくり歩こうとするが、緊張のあまり手足がガタガタ震えて逆効果になってしまっている。
「ま、適当に言っただけだけどね」
「適当なんですか!? もう、びっくりさせないでくださいよ!」
「高級品かもしれないと思うことで、どんなお皿でも丁寧に扱うようになるでしょ?」
「確かにそうかもしれませんが……」
「ほら、ついたよ!」
長い廊下を歩き、二人は台所に到着した。
「家が大きいと台所の大きさも桁違いですね! レストランの厨房みたいです!」
「初めて見た訳じゃないのにそんな興奮する?」
「台所に入るのは久しぶりですからね」
チカは皿を流しの中に入れ、蛇口をひねって水を出した。
「ちゃちゃっと洗ってしまいましょう!」
「別に手で洗わなくても良いよ。食洗機あるから」
「え、食洗機!?」
「中に皿を入れて、ボタンを押すだけで勝手に洗ってくれるよ」
マイは食洗機の中に皿を放り込んだ。
「そんな便利な物が……昔は無かったはずなのに」
「最近、買ったらしいよ〜。ほら、チカの皿もこっちに持ってきて」
チカは流しの中から皿を回収して食洗機の中に入れた。
「そんじゃあスイッチオン! ポチッとな」
マイが食洗機のスイッチを入れると、洗浄がスタートした。
「一時間も経てば終わるから、それまでテレビでも見てようか!」
「はい!」
二人は台所を後にすると、長い廊下をドタドタと走り抜けた。




